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1970年前後のフランス (France) の "underground" レーベルについて

2006年4月頃の1970年前後のフランスの "underground" レーベルに関する 一連の発言の抜粋です。 古い発言ほど上になっています。 リンク先のURLの維持更新は行っていませんので、 リンク先が失われている場合もありますが、ご了承ください。 コメントは談話室へお願いします。

[1612] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Wed Apr 19 23:48:30 2006

少し間が開いてしまいましたが、 今年の1月に1970年前後のイギリス (UK) の "underground" シーン を捉えたアンソロジーのを少ししました。 こういう話をしていると、イギリス以外ではの同時代の対応物は 何だろうと思ったりするわけです。 フランス (France) に目を向けてみると、1年前に Free America シリーズでリイシューされた free jazz に強い jazz レーベル America (aka America 30) の活動時期が1969年から1973年と、ちょうど同時代になります (大人買いをしてしまった際の関連発言)。

America レーベル同様、演奏場所を求めてヨーロッパに渡った アメリカ (US) の free jazz のミュージシャンたちの 1970年前後の録音を残したレーベルに BYG / Actuel があります。この Actuel のリリースも同時代の1969年から1971年にかけてです。 この1970年前後の BYG / Acturel の活動を知るのにうってつけのアンソロジー Various Artists, Jazzactuel: A Collection Of Avant-Garde / Free Jazz / Psychedelia From The BYG/Actuel Catalogue Of 1969-1971 (Charly / Snapper, SNAJ707CD (CDNEW137-3), 2000, 3CD box set) が、既に5年余り前ではありますが、リリースされています。 箱のサイズやCD 3枚+ブックレットというスタイルも、 Universal (UK) の "underground" アンソロジーと似ています。 Universal の underground アンソロジーに比べたら、 音質は劣りますし、ライナーノーツの内容も薄めですが……。 ちなみに、編纂註釈は Sonic Youth の Thurston Moore と その友人で音楽ジャーナリストの Byron Coley です。

Jazzactuel のライナーノーツを基に歴史をまとめると、 BYG は Fernand Boruso、Jean Luc Young、Jean Georgakarakos (aka Jean Karakos) によって1967年に設立されたレーベルで、 BYG の名は設立者3人のイニシャルから取られています (ちなみに、Boruso は BYG の前は Saravah で働いていたとのことです。 ただし、B は Bosuro ではなく jazz 写真家の Jacques Bisceglia であるという記述をよく見るように思います。 Bisceglia の公式サイトによると、確かに、 BYG でプロデュースと A & R 、ジャケット写真、ライナーノーツ を手がけていたようですが、BYG 創設者との記述はありません)。 BYG は、フランスの大学都市へのレコードショップのチェーンを始める一方、 Savoy 音源などのフランス盤をリリースするレーベルとして、活動を始めています。 しかし、すぐに Boruso は BYG から手を引いてしまい、 Boruso に代ってカウンターカルチャーの雑誌 Actuel を1968年に始めた jazz drums 奏者でもある Claude Delcloo が BYG に関わるようになったそうです (Jazzactuel では触れられていませんが、 Actuel 誌には Georgakarakos も関わっていたようです)。 その Delcloo は1969年夏からアメリカの jazz ミュージシャンをパリに呼んで セッションをするようになります。 そして、その録音を中心にリリースしたシリーズが Actuel です。 Actuel は52枚のリリースの後、1971年にリリースを終えています。

1970年前後の話ではなく、Jazzactuel でも範囲外ですが、 その後の展開について自分の知る範囲で軽くまとめると: BYG レーベルと Actuel 誌が終ったのは1975年。 そんな BYG の終焉と入れ換わるように、 BYG 設立者の一人 Young はレーベル Charly を1974年に設立 (country や R & B のリイシューで知られる。 1975年より拠点はロンドン (London)。 2000年より Snapper 傘下)。 一方、Georgakarakos も 1976年にアメリカのニューヨーク (New York, US) でレーベル Celluloid (1980年前後の Bill Laswell 界隈 (Material, Massacre, The Golden Palaminos, etc) や アフリカ音楽 (Fela Kuti, Manu Dibango, Touré Kunda, etc)、 初期の hip hop (Grandmaster D.ST, Afrika Bambaataa, etc) のリリースで知られる) を設立しています。

この Jazzactuel の経緯について触れた記事としては、 編者である Thurston Moore へのインタビュー記事 "A Fireside Chat with Thurston Moore" (by Fred Jung, All About Jazz, 2003/11/29) があります。 この記事によると、 CD再発にライナーノーツを書いて欲しいという依頼が Moore へ来たけれども、 Archie Shepp や Sun Ra といったよく知られたものだけ再発することだったので、 Actuel シリーズの全体像が判る編集盤を企画したようです。 それも、当初の Moore の企画は、全タイトルから音源を集めるという内容だったという。 しかし、CD4枚組となってしまうので断念して、3枚組に収めるよう一部を削ったようです。 BYG / Actuel はミュージシャンに金が払われていなかったことで悪評も高いわけですが、 CD再発の際にも Charly は金を払うつもりがなく、それが問題になったようです。 Alan Silva や Sunny Murray ら BYG / Actuel に対して激怒しているミュージシャン達に、Moore は 「もし我々がやならなくても、彼等は勝手にやるだろうし、それは粗雑なものになるだけだ。 そんなのは価値は無いだろう。自分がやりたいのは当時何が起こっていたのかその資料を人々に提供することなんだ」と言って、 アンソロジー Jazzactuel を実現したようです。 Moore も漢だなぁ。

Jazzactuel に収録されている録音のほとんどは free jazz の演奏です。 しかし、そんな中に、Gong や Daevid Allen Trio のような rock が交じっています。 イギリスでは underground な rock 中心のレーベルから Keith Tippett や John Surman、Ian Carr といった free jazz 〜 jazz rock も リリースされていました。それに対して、フランスでは、 jazz 中心のレーベルから Gong や Ame Sonのような underground な rock もリリースされるという、 ちょうど逆の図式になっています。 (jazz がメインで underground な rock もリリースしていた 当時のフランスの独立系レーベルとしては、BYG / Actuel の他に Futura があります。 Futura についてはまた別の機会にでも。) また、jazz といっても、UK の underground ではUKのミュージシャンが中心なのに対し、 フランスでは US のミュージシャンの占める割合が大きくなっています。 当時 underground だった rock や free jazz といった音楽の、 国による違いがこういう所に見えて、とても興味深いです。

実は、この BYG / Actuel 話は、3月中頃の増田さん送別会の際に MH氏とジャズマニア話した際に思い付いて少しずつ書き出したのですが、 本業が忙しかったり、週末が観劇等で潰れたり、 他にもいろいろ書きたいネタがあったりで、 談話室に投稿するまでに1ヶ月余りかかってしまったという……。うーむ。

[1614] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Sat Apr 22 2:20:03 2006

BYG / Actuel の余談として、その後の再発の話など。 BYG / Actuel の音源は、その後、Charly 傘下の jazz レーベルだった Affinity レーベルから ジャケットを代えて再発され、1990年代にCD化されたタイトルもありました。 また、現在も Charly 以外に、フランスの Spalax、イタリアの Sunspot、 アメリカの Fuel 2000 といったレーベルからもCD再発されているタイトルがあります。 Jazzactuel (Charly / Snapper, SNAJ707CD (CDNEW137-3), 2000, 3CD box set) のリリース以降、一部のポピュラーなタイトルが、 アルバム毎もしくは2枚のカップリングで Charly / Snapper からCD再発されています。 この Charly / Snapper の再発は、 オリジナルのジャケットをある程度意識したジャケットになっていますが、 オリジナルの Actuel の vol 番号が異なっていますし、 Actuel シリーズではなく BYG の日本でのライセンスを持っていた 東宝芸音が BYG レーベルとして日本のみでリリースしたタイトルに Actuel 風のジャケットを付けたものが交じっていたりと、いろいろ紛らわしいです。 そんなわけで、Jazzactuel 以降に Charly から "Actuel" として再発されたものを、以下に整理してみました。 って、そんな情報を必要としている読者がいるのか疑問ですが、 自分へのメモということで。

  1. Don Cherry, "Mu" First Part / "Mu" Second Part (Charly / Snapper, SNAP067CD (CDGR291), CD): originally released as "Mu" First Part (Actuel 1 / BYG, 529301, 1969, LP) and "Mu" Second Part (Actuel 31 / BYG, 529331, 1969, LP)
  2. Archie Shepp, Blasé / Live At The Pan-African Festival (Charly / Snapper, SNAD534CD (CDGR292-2, SNAF819CD), 2000, 2CD): originally released as Blasé (Actuel 18 / BYG, 529318, LP) and Live At The Pan-African Festival (Actuel 51 / BYG, 529251, LP)
  3. Art Ensemble Of Chicago, A Jackson In Your House / A Message To Your Folks (Charly / Snapper, SNAP066 (CDGR293), 2000, CD): originnaly released as A Jackson In Your House (Actuel 2 / BYG, 529302, 1969, LP) and A Message To Your Folks (Actuel 28 / BYG, 529328, 1969, LP)
  4. Sun Ra & His Solar-Myth Archestra, The Solar-Myth Approach Vol. 1 & 2 (Charly / Snapper, SNAD533CD (CDGR294-2, SNAF818CD), 2001, 2CD) originally released as The Solar-Myth Approach Vol. 1 (Actuel 40 / BYG, 529340, 1971, LP) and The Solar-Myth Approach Vol. 2 (Actuel 41 / BYG, 529341, 1971, LP)
  5. Art Ensemble Of Chicago, Live In Paris (Charly / Snapper, SNAD512CD, 2003, 2CD): originally released as Live In Paris (BYG / 東宝, YX-2040/41, rec.1969, 2LP)
  6. Don Cherry, Orient / Blue Lake (Charly / Snapper, SNAP513CD, 2003, 2CD): originally released as Don Cherry (BYG / 東宝, YX-4012/13, rec.1971, 2LP) and Blue Lake (BYG / 東宝, YX-4022/23, rec.1971, 2LP)
  7. Archie Shepp, Yasmina, A Black Woman / Poem For Malcolm (Charly / Snapper, SNAP162CD, 2003, CD): originally released as Yasmina, A Black Woman (Actuel 4 / BYG, 592304, 1969, LP) and Poem For Malcolm (Actuel 11 / BYG, 592311, 1968, LP)
  8. Grachan Moncur III, New Africa / One Morning I Woke Up Very Early (Charly / Snapper, SNAP159CD, 2003, CD): originally released as New Africa (Actuel 21 / BYG 592321, 1969, LP) and Aco Dei De Madrugada (Actuel 33 / BYG 592333. 1969, LP)

ちなみに、この中で自分の一番のお気に入りは、Archie Shepp, Blasé。 harmonica や Jeanne Lee の歌もフィーチャーした blues 的な展開がたまりません。 もちろん、オリジナル盤でも持ってます。 しかし、Don Cherry、Archie Shepp、Art Ensemble Of Chicago、Sun Ra が ポピュラー所というのは判るのですが、 このラインナップの中で Grachan Moncur III の再発は、少々意外でした。 といっても、New Africa / One Morning I Woke Up Very Early も良いです。

なんて書いていますが、正直、BYG / Actuel の全体像はちゃんと把握していません。 しかし、Jazzactuel 以降の Charly からのCD再発も、 いつのまにか全部揃っていたり…… (フォトログ)。 さすがに、大人買いしたりしてません。 一応、この時代の作品の再発は「深追い禁止」ということで、 BYG / Actuel 界隈のCD再発を買うとしても Charly / Snapper のもの程度にしておこう と思ってるのですが……。

[1617] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Mon Apr 24 23:48:25 2006

BYG / Actuel の余談、というか、 BYG の G こと Jean Karakos が1976年に設立したレーベル Celluloid の話を軽く。

Various Artists, New Africa Volume 1 (Celluloid, CELL6110, 1985 / CELD6110, 1988, CD) という、1980年前後に Celluloid がリリースした Africa 関連音源のコンピレーションを発掘してみました。 たぶん、1990年代前半に中古で買ったのだと思うのですが、 ここ10年近く聴いた覚えが無いという……。 収録されているアーティストは、 Foday Musa Suso, Manu Dibango (RFI Musique のバイオグラフィ), Fela Anikulapo Kuti (The Fela Kuti Project), Touré Kunda (RFI Musique のバイオグラフィ)。 Fela Kuti ですら Bill Laswell / Material 制作で、 初期 hip hop というか electro 色濃厚 (若干 dancehall reggae 入り) という いかにも1980年前後のサウンド。 良いというのとはちょっと違いますが、とても興味深く聴かれました。 1990年代後半の electro のリバイバルの頃に このCDを入手して聴いていたら、もっとハマっていたかも。 Volume 1 しか持っていないのですが、Volume 3 までリリースされていたようですね。 ちょっと揃えてみたくなってしまったかも。

これと同時代に Celluloid がリリースしていた hip hop の音源についても、 Various Artists, Roots Of Rap - The 12 Inch Singles Volume 1 (Celluloid, CELD6205, 1984/1992, CD) というコンピレーションがあったのですが (レビュー)、併せて聴くと感慨深いものがあります。 こちらは Volume 1 のみでしょうか。

この頃の Celluloid の音源が、最近、 Various Artists, The Celluloid Years: 12″s And More... (Collision - Cause Of Chapter 3, CCT3007, 2006, 2CD) としてリリースされています。 未入手なのですが、Roots Of Rap と被る所もありますし、 収録曲のタイトルを見る限り hip hop に偏っているのが、躊躇している理由です。 アフリカ物も Manu Dibango だけでなく、 Material, Massacre や最初期の The Golden Palaminos とかも交えたものにした方が、 1980年前後の electro な音の広がりも伺える興味深いものになったように思うのですが……。

[1618] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Thu Apr 27 0:43:32 2006

BYG / Actuel のフォローアップ。 America (aka America 30) や BYG / Actuel と 同時代 (1970年前後) のフランス (France) で underground な rock もリリースした jazz の独立系レーベルの一つ Futura の話を。

Futura は1965年頃からパリ (Paris) で jazz club を経営していた Gérard Terronès によって1969年に設立されたレーベルで、 1974年まで活動しました。 その後、Terronès は1975年に後継のレーベル Marge を設立し 現在に至っています。より詳しい歴史を知りたい方はオフシャルサイト等の "Qui sommes-nous?" をどうぞ。 Futura のカタログには Ger、Swing、Son、Red、Voix の5つのシリーズがあります。 カタログを見る限りでは、Ger、Swing、Son の3つが jazz のレーベルですが、 BYG / Actuel ほど free jazz 色は濃くなく、 Ger が当時のコンテンポラリーな jazz、Swing が伝統的な jazz、Son が前衛的なもの、 という色付のように見えます。 Voix は1作しかありませんが、タイトル等からすると音楽劇の録音なのでしょうか。 そして、Red が当時の underground な rock のシリーズとなります。

Futura の Red シリーズというと、去年、1969-74 に活動した rock グループ というか音楽集団 Barricade の録音アンソロジー Le Rire Des Camisoles (Futura, Red 07, 2005, CD) をリリースしました。 1970年代後半に ZNR を結成する Hector Zazou と Joseph Racaille が ZNR 以前に参加していグループとして伝説的に語られていた Barricade に 録音が残っていたとは。 といっても、Barricade はレコードをリリースしないことを コンセプトの一つとしていたため、Zazou はこのリリースを不満に思っている、 という噂も耳にしています。 Barricade は1969年に François Billard と Gérard Lapeyre によって結成されたグループです。 その後、Barricade Crève-Vite-Charogne (aka Barricade CVC) と Barricade II に分裂、 Barricade CVC は1973年に、Barricade II は1974年に活動を終えます。 このCDに収録されているのは、Barricade、Barricade CVC、Barricade II の録音です。 当時の雑誌記事等も収録した32頁のブックレットは資料性も高いものですが、 ライナーノーツが1頁の英語要約を除きフランス語のみというのが惜しまれます。 書かれている内容をちゃんと把握しているわけではありませんが、 「30年後のバリケード」 (『もぐらの国』, 2005/08/28) が、このCD再発を日本語で詳しく紹介しています。

Barricade II に参加した Hector Zazou、Harvey Néneux と Joseph Racaille は、その後 ZNR を 結成 (バンド名は3人のイニシャル)、 Barricade 3 (1977; Recommended, RR7, 1981 LP; ReR, ReRZNR1, 1993, CD) をリリースします。このタイトルは、Barricade II の次を意味しています。 1977年に Vincent Kenis と Aksak Maboul を結成し、1981年にレーベル Crammed Discs を設立する Marc Hollander も、Barricade に参加していました。。 Hollander も参加していたことは Le Rire Des Camisoles のブックレットで知ったのですが、 Hector Zazou との縁はこの頃からだったのか、というか、 Mai 1968 と Crammed Discs はこう繋がるのかー、と感慨深いです。

ZNR, Barricade 3 は、 時折 André Jaume のフリーキーな sax が入ったりしますが、 基本的に piano や少し歪んだ ARP を中心に音数少めに 淡々と素朴な旋律を聴かせるような音楽です。 (Pascal Comelade のような。) Barricade にもそういう面があったのかなと予想していましたが、 Le Rire Des Camisoles を実際に聴いてみると、かなり rock 色濃いです。 録音が悪くて分離が悪いぐぐもった音のせいもあって、 同時代の BYG の free jazz の録音などに比べても、 フリーな展開というより若干音のタレ流しという印象も否めません……。 興味深いとは思いますが、音が凄いかというと違うように思います。 録音が悪くてプリミティヴな rock という感じからか、初めて聴いたとき、 Swell Maps, ... In "Jane From Occupied Europe" (Rough Trade, ROUGH15, 1980, LP) が何故か頭に浮かびました。あとは、やはり、No New York 界隈。

Futura の Red シリーズでは、あと、Patrick Vian (小説家 Boris Vian の息子) 率いる Red NoiseSarcelles - Lochères (Futura, Red 01, 1970/2002, CD) を持っています。 こちらの方が sax のフィーチャー度が高く、free jazz の影響を強く感じます。 録音も Barricade よりは良くて、迫力を感じる時もあります。 Red Noise は1972年に解散、Patrick Vian はソロで一作 Bruits Et Temps Analogues (Egg, 1976) をリリース。 1976-77 年にはレコードデビュー前の Métal Urbain に一時的に参加していたようです (Néosphéres のバイオグラフィ)。 ちなみに、Métal Urbain は post-punk の先駆とも言われるバンドの一つで、 彼らの 2ndシングル Paris Marquis (Rough Trade, RT001, 1977, 7″) が Rough Trade レーベルの最初のリリース、第一弾シングルです (Wikipedia のエントリ)。 Red Noise / Patrick Vian / Métal Urbain を介して、 Mai 1968 と Rough Trade が繋がるのか〜、と、ちょっと感慨深いです。

Barricade や Red Noise については、フランス語のサイトですが、 Néosphéres"Un certain Rock français" のコーナーが詳しいです。 このサイトは、1970年に Jean-Louis Mahjun (aka Maajun/Mahjun) らによって結成された FLIP (Le Front de Libération Internationale de la Pop; ポップ国際解放戦線) という組織に触れています。 この FLIP には、当時 BYG 後の Celluloid の Jean Karakos も絡んでいたようです。 FLIP の後を受けて1972年に Komintern、Lard Free、Barricade といったグループによって Le Front de Libération de la Rock-Music (ロック音楽解放戦線) が結成されます (Néosphéres の記事)。 さらに、その後を受け 1976年には Etron Fou Leloublan や Camizole の2つのグループによって、 Dupon et ses fantômes という組織が結成され、 これが、フランスにおける Rock In Opposition (R.I.O.) の直接的な先駆体となります (Néosphéres の記事)。 Néosphéres"Un certain Rock français" は、 このような系譜のフランスの rock を紹介するコーナーのようです。 あと、Néosphéres"Krautrock" のコーナーも良いです。

こんな感じで、Barricade や Red Noise などの Mai 1968 な rock の界隈を追いかけていると、 Crammed Discs や Rough Trade や Celluloid や R.I.O. / Recommended への繋がりも見えて、 とても興味深いです。

[1619] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Fri Apr 28 0:14:21 2006

1969-73年に活動した Musidisc 傘下の America レーベル、 1969-71年に活動した BYG / Actuel レーベル、 1969-74年に活動した Futura レーベルと、 1969年前後の underground な free jazz や rock をリリースしていた フランスの独立系レーベルの話をしてきたわけですが、 同じ頃に設立された独立系レーベル Saravah についても。

Saravah は、映画俳優/監督でシンガー・ソングライターの Pierre Barouh が1967年に設立した独立系レーベルです。 Mai 68 以降の America、BYG Actuel、Futura に先んじて設立されていますし、 Saravah は基本的に Chanson Française 色濃く音楽性も少々違います。 しかし、underground な free jazz や rock と全く接点が無かったわけではありません。

underground な rock に関して言えば、 FLIP (Le Front de Libération Internationale de la Pop。 Néosphéres の記事関連発言) の創設者の1人の Jean-Louis Mahjun は、 1970年代前半 Saravah に2枚のアルバム Mahjun (Saravah, SH10040, 1973, LP) と Mahjun (Saravah, SH10047, 1974, LP) を残しています。 残念ながら、持っていませんし、未聴ですが……。

しかし、特に気になっているのは、Saravah と BYG との関係です。 BYG / Actuel のリリースの中には Studio Saravah で録音されたものが少くなくありません。 第一弾の Don Cherry, "Mu" First Part (Actuel 1 / BYG, 529301, 1969, LP) からして Studio Saravah 録音です。 また、BYG の "G" とされる Fernand Boruso は、BYG 以前に Saravah で働いていたともいいます (Jazzactuel (Charly / Snapper, 2000) のライナーノーツ)。 Saravah からリリースを続けていた Areski & Brigitte Fontaine ですが、 BYG に1タイトル L'Encendie (BYG, 529026, 1974, LP; Spalax, 14815, 1995, CD) を残しているということにも Saravah と BYG の関係を感じます。 他にも、Art Ensemble Of Chicago を従えての Brigitte Fontaine, Comme À La Radio (Saravah, SH10016, 1970, LP; Saravah, SHL1018, 1992, CD) を聴くと、BYG / Actuel や America と同時代な音だとつくづく思います。

Comme À La Radio のような共演物だけではなく、 Saravah は jazz の録音を少なからず残しています。 例えば、Steve Lacy は 1969-77年の間に5作をリリースしています (Dreams - Scratching The Seventies (Saravah, SHL2082, 1997, 3CD) というアンソロジーでCD化されています。レビュー)。

あと、この当時 (1970年前後) に、 George Arvanitas / Michel Graillier / René Urtreger / Maurice Vander, Piano Puzzle (Saravah, SH10011/10012/10013/10014/10015, 1970, 5LP) という伝説的な LP 5枚組をリリースしています。 (さすがに持っていません。 ちょっと欲しいですが、出てもプレミア価格だし……。) この5枚組はとても凝ったジャケットということで最も知られていますが、 後に rock グループ Magma に参加する Michel Graillier、 Magma の Christian Vander の父 Maurice Vander がフィーチャーされており、 Magma との繋がりを感じさせるという点でも興味深い作品です。 音の面では Magma との繋がりは無さそうで、4人の piano 奏者それぞれの piano trio もしくは trio + 1 な編成での録音が1枚ずつと、4人の連弾が1枚のようです。 連弾を除いた4枚は、A French Jazz Piano Collection としてそれぞれ Saravah がCD化しています。 残念ながら、そのうちの一枚 Maurice Vander, Philly (Saravah, 1970; Saravah, SHL1042, 1991, CD) しか持っていないのですが、これを聴いていると、 最近の Sketch レーベルのリリース (特に piano 物) の 原点の一つだなぁと思います (実際、Graillier や Urtreger は Sketch からリリースしています)。

こういう1970年前後の underground な jazz や rock、 そしてその拠点となった BYG のような他の独立系レーベルと Saravah の関係は、 どの程度密接なものだったりしたのでしょうか。 Various Artists, Les Années Saravah 1967-2002 (Frémeaux & Associés, FA5060, 2003, 2CD) という30周年記念のアンソロジーを持っているのですが、 この編集はかなり Chanson Française 寄りで、 選曲・ライナーノーツともにこういう面はすっぽり抜け落ちてしまっています……。ふむ。

BYG, Futura, Saravah と1960年代末にでてきた underground な jazz や rock と関係した フランスの独立系レーベルの話をしてきたわけですが、 実際のところ、この界隈はちゃんとフォローしてきているわけではありません。 誤りもあるかと思いますし、抜けも多いのではないかと思います。 そういうわけで、補足や誤りの指摘のコメント大歓迎です。 あと、お薦めの文献があったら教えて頂けると嬉しいです。 しかし、こういうことを書いていると、やっぱり、 1968-1998 の30年間のフランスの underground な rock のアンソロジー Various Artists, 30 Ans D'Agitation Musicale En France (30 Years Of Musical Insurrection In France) (Spalax, 14711, 1998, 3CD box set) を買っておけば良かった、と……。

[1623] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Mon May 1 1:41:06 2006

Claire Diterzi を紹介したときに フランス (France) の独立系レーベル Cobalt を主宰する Philippe Conrath のインタビュー記事 "World In France" (RFI Musique, 2001/07/23; 先日のサイト・リニューアルで読めなくなってしまったので Google のキャッシュ) に軽く触れたわけですが、 この内容について、1970年前後のフランスの underground なレーベルのに絡めた話を。

この記事によると、Conrath が音楽業界に関わるようになったのは 1970年代半ばに Michel Portal, Jean-François Pauvros, Claude Barthélémy といった improv のミュージシャンを揃えたフェスティバル Transmusicales を始たことからのようです。 1978年 (公式サイトによると1979年) には独立系レーベル Cobalt を立ち上げ punk / new wave グループ Marquis De Sade をリリースしますが、 順調にはいかず一時は音楽業界から遠ざかります。 そして、1989年にフェスティバル Africolor で復帰します。今でこそ Cobalt はアフリカ音楽を主に扱うレーベルですが、 当初は Marquis De Sade や Forguette Mi Note のような alternative / underground な rock をリリースしていたわけです。

そんな Conrath の経歴も、 Barricade に始まり Crammed Discs へ、 その Crammed も post punk / new wave から techno、そして world music へ 重心を移していく Marc Hollander の経歴と重なるように思います。 そして、インタビュー記事の冒頭には、Conrath のこういう言葉が引用されています。

「私の音楽的冒険は私がある世代 ―― '68世代に属しているという所から始まっていると思う」と Conrath は誇りを持って言う。「我々の世代に関する特徴と言えば、アイデアが頭に浮かんだらすぐ、たとえ何だろうと実行しようとすることだった。レーベル Cobalt も、だいたいその通りだった。当時他の誰も興味を持っていないミュージシャンのために何かしたいという気持ちに突然駆られたんだ。」
"I think my musical ventures stem from the fact that I belong to a certain generation -- the generation of '68," says Conrath with some pride, "The thing about our generation has always been that as soon as we got an idea in our head we'd carry it out, no matter what. And that's pretty much what happened with the label Cobalt really. I suddenly got this urge to do something for musicians that no-one else was interested in at the time."

彼の言う「'68世代」 (日本で言う全共闘世代といったところか?) の特徴の妥当性は保留しますが、 Conrath に「'68世代」という自意識があるというのが興味深いです。 Barricade 界隈だけではなく、1970年前後の (Mai '68 な) underground や free jazz や rock、それをとりまくレーベルなどが 現在の様々な alternative / underground な音楽の動きの原点になっているようにも思います。

1970年前後のUKの "underground" レーベルの一連の発言を書いたときには rock / jazz の住み分けや punk 前後の切断を相対化するということを意識していたのですが、 この1970年前後のフランスの underground なレーベルの話を書くにあたっては 影響の広がりも意識して書きました。"Mai '68 diaspora" というか。 Simon Reynolds は著書 Rip It Up And Start Again: Post-Punk 1978-1984 (2005) の元のアイデアは "punk diaspora" だと言っているのですが (関連発言)、 これと同じように1970年前後の "underground" のそれ以降の展開を語れるのではないか、というのが、 一連の発言を書くにあたっての問題意識でした。 free jazz/improv とか prog rock とか限定的な文脈への展開ではない語り方もできるのではないか、 というか、Rip It Up And Start Again の "diaspora" は 1970年前後の "underground" な rock や jazz の界隈の動きまで遡って外挿できるのではないか、というか。 ま、晩と週末の筆の荒びで出来ることはたかが知れていて、 もちろん Rip It Up And Start Again のような丁寧な取材に基づく本とは比較にならない、 他の資料に基づく簡単な見取図の素描程度の内容ですが……。

ところで、先日、「お薦めの文献があったら教えて頂けると嬉しいです」と 書きましたが、その後、 フランスの音楽のドキュメンテーションを目的とした協会 ACIM (Association de Coopération des professionnels de l'Information Musicale) のサイトに、 René Vander Poorte, Bibliograhie "Rock en France" (2003/4/11) という記事があるのを発見。いろいろ参考になります。ふむふむ。 Dominique Grimaud, Un certain rock (?) français (1978) という二巻物のファンジン風の自費出版本があったのですね。 サイト Néosphéres"Un certain Rock français" コーナー のタイトルはここから来ているのかぁ。この本の内容が気になります。 Bibliograhie "Rock en France" に挙がっている本のうちこれが特にお薦め、とか、 他にもこんな本がある、とかありましたら、是非教えてください。

これで1970年前後のフランスの underground なレーベルの話も一段落させたいと思います。 (folk/roots 界隈の話もあるのですが、キリが無いので……。) 全体を通しての誤りの指摘や補足などのコメントも大歓迎です。

しかし、書き出したらつい長文に……。 それも、3月14日から時間をかけ過ぎ……。 およそポピュラーとは言い難い音楽の話題ですし、 この談話室の読者が引いてしまったような気もしないではないですが……。 うーむ。

[1647] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Sun May 28 0:53:25 2006

「買っておけば良かった」と言っていた Various Artists, 30 Ans D'Agitation Musicale En France (30 Years Of Musical Insurrection In France) (Spalax, 14711, 1998, 3CD box set) ですが、思い直して探して注文をかけてみたところ、あっさり入手できました。 8年前のリリースですし、 数年前にちょっと思い立って某所に通販で注文したときは在庫切れだったので、 もはや入手は厳しいかなぁと思っていたのですが、まだあるところにはあるものですね。 やはり充実した内容でしたよ。

これにも関連しますが、Saravah レーベルが設立40周年ということで、 Various Artists, La Cave Saravah Vol.1: Une Compilation D'Œuvres Rares Et Inédites (1966-1980) par Love Poulbot (Saravah, SHL2122, 2006, CD) というレア+未発表音源集をリリースしています。 Brigitte Fontaine 以外の Art Ensemble Of Chicago バッキング関連音源が 2曲入っているので、それを主な目当てに買ったのですが、他もいいです。く〜。 金曜の晩にいきつけのジャズ喫茶に持っていってかけてもらったのですが、 ウケもとても良かったです。

フランスの独立系レーベルというと、jazz/improv のレーベル Nato が 25周年ということで、 Various Artists, Le Chronatoscaphe (Nato, NATO574 / ISBN2-84907-574-4, 2005, 3CD + book) というCD 3枚付きの本が出ています。 かなりちゃんとした作りの本ですが、 €40 (約6000円) とCD 3枚分くらいの値段、というのも嬉しいです。 Nato の第一弾リリースって1981年だったんですね。 Owl (1975年設立) と同世代という印象があったのですが (関連発言)、少し遅れての設立です。 あと、Universal との関係も2001〜2004年の4年で終ったようで、 今は Nocturne 下で活動しているようです。

フランスの独立系レーベル関連のアンソロジー3ついずれも、 追ってちゃんと紹介したい内容でしたが、 いつ紹介できるのかもわからないので、とりあえず軽く。

[1669] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Wed Jun 14 23:55:20 2006

さて、先日遅ればせながら入手したこれについて (関連発言)。

Various Artists, 30 Ans D'Agitation Musicale En France: 68-98 (30 Years Of Musical Insurrection In France) (Spalax, 14711, 1998, 3CD box set) は5月革命 (Mai 68) 以降のフランス (France) の 比較的実験指向の強い underground / alternative な rock を CD3枚全50曲と12cm×12cm56頁のブックレットにまとめた W16cm×H31mm×D4cmのボックスに収めたアンソロジーです。 タイトルの意味は、「フランスにおける音楽的反乱の30年」です。 CDはそれぞれジュエルケース入り。 収録曲は未発表もしくは未CD化のレアな音源が過半を占めており、 収録グループの代表的な曲を選曲しているわけではありません。 ブックレットには特に通史的な記述はありませんが、 収録された50曲を演奏しているアーティストについて、 簡単なバイオグラフィとセレクテッド・ディスコグラフィに1頁ずついています。 自分が入手したものは、掲載されているテキストは全て英語に翻訳されています。 フランス語版と (輸出用の) 英語版があるのか、英語版だけなのかは、不明です。

CD3枚と12cmX12cmブックレットというのは、 Various Artists, Strangely Strange But Oddly Normal: An Island Anthology 1967-1972 (Island / Universal (UK), 9822952, 2005, 3CD box set) とかと同じですし、 同じくコンパクトにW13cm×H13cm×D2cmのボックスにして欲しかったです……。

編纂 (compilation) とプロジェクト監督 (project supervision) の Gilles Yéprémianは、1970年代前半に Gilbert Artman 率いる underground rock バンド Lard Free (Lard Free @ Néosphères) のマネージャをしていました。 (Yéprémian は、Jim Morrison (The Doors) のパリ時代 (1970-71) の友人にして、 Rainer Moddemann, On stage the Doors: The complete collection of Doors live compact discs (1996) のコントリビュータとしても知られているようです。)

リリースしたレーベル Spalax は、 1970sのフランス (France) やドイツ (Germany) の underground な rock の再発を 多く手掛けている独立系レーベルです。 Spalax を主宰する Gabriel Ibos は、 1970年代前半に Didier Guinochet と独立系レーベル Vamp を主宰、 Lard Free のアルバムなどをリリースしていました。 (ちなみに、Guinochet はその後1980年代に フランスの New Romantic グループとも言われた Indochine の制作を手掛けています。)

あと、目に付いたところでは、 Camizole 〜 Vidéo Adventure のメンバーにして 1970年代のフランスの underground rock 史の自主制作本 Un Certain Rock Français (1978) の著者 Dominique Grimaud もブックレットに数ページ分寄稿しています。

ブックレットに通史のような記述が無いので、 編纂の基準、特に歴史観がよく判らないのが残念です。 Un Certain Rock Français とその後に続いた 音楽を選んでいるようにも思えますし、 基準というほど方向性の強いものはなく、趣味で選んでいるようにも思われます。 ほぼ年代順に曲が収録され、3枚のCDはそれぞれ "Seventies 1969/77"、"Eighties 1977/90"、"Nineties 1991/97" と題されています。 しかし、内容的にはCDごとにうまく区切れておらず、 むしろ、以下に述べる4つに区分できると思います。 このアンソロジーを聴いて自分なりに区分したもので、 一般的に使われている区分ではありません。 それなりに周囲の動向も意識しましたが。

最初の区分は1969-73年録音のCD1の14曲目までです。 ここには1970年前後に出てきた underground rock の有名どころが並んでいます。 ただし、FLIP (Front de Libération Internationale de la Pop) 創設 3グループのうち Komintern だけ抜けているのが惜しまれます (Mahjun と Dagon は収録。 FLIP @ Néosphères)。 あと、Magma も収録されていません。 様式的な prog rock 以前、良い意味で混沌、悪い意味で音の垂れ流しに近い演奏が多いですが、 こういうアンソロジーでは、むしろ時代の雰囲気という感じで楽しめるかも。

第二の区分は1976-1984年録音のCD1の最後の2曲とCD2の前半12曲の全14曲です。 ここには、Dupon Et Ses Fantômes 〜 Rock In Opposition に近い文脈の グループの演奏が主に並んでいるように思います (Dupon Et Ses Fantômes @ Néosphères)。 しかし、そんな中、Metal Urbain, Art Et Technique, Kas Product, Fall Of Saigon (Pascal Comlade のやっていた Young Marble Giants 的なグループ), Tanit のような punk 〜 post-punk 的なものも混在しています。 といっても、Metal Urbain のデビューシングル Panik をリリースしたのは Lard Free, Urban Sax, Heldon といったグループをリリースしていた Cobra レーベル (Les disques Cobra @ Néosphères) ですし、 Kas Product や Fall Of Saigon / Pascal Comlade などの Gérard Nguyen (1984年に DSA (Les Disques Du Soleil Et De L'Acier) レーベルを設立) の仕事にしても、 1970年代の underground rock との連続性が感じられます。

この第二の区分の中で耳を惹いたのは、まず、 Claude Barthélémy が参加していた jazz rock グループ Oedipe の1976年の未発表音源。 Barthélémy はまだ十代ですが、guitar のソロはこの頃からかと感慨深かったです。 あと、このアンソロジーの中ではちょっと異色ですが、 Associates や Modern English を連想させられるような Tanit がけっこうツボにはまりました。 Drums が ex-Orchestre Rouge とブックレットで知って納得。

第三の区分は1987-1995年録音のCD2の後半5曲 (13曲目以降) とCD3の前半8曲の全13曲です。 ここには、第一、第二の区分で収録されたミュージシャンの関連プロジェクトの演奏が多く選ばれています。 それ以外で目立つのは、 V.I.S.A. レーベル (エントリ @ Wikipédia) 界隈の post punk 的な演奏の4曲です (Clair Obscura, Dazibao, Alto Bruit, Vox Populi!)。 これとほぼ時代といえば、Boucherie Productions レーベル (Françons Hadji-Lazaro (Les Garçons Bouchers) によって1986年設立) や Mano Negra (1987年結成)、 Les Négresses Vertes (1987結成)、 Les Têtes Raides (1984年に Tet Red として結成、1987年に改名) といったグループが出てきた時代です。 この手の néoréaliste (関連発言) な グループの曲が全く選ばれてないのも、 このアンソロジーをリリースした Spalax レーベルらしいように思いました。 ポピュリスト (社会リアリズム) と前衛 (アーティーズ) の分離というか。 あと、F Communications レーベル (1991年設立) とか、 techno/house も根付きはじめる頃ですが、 その影響もこのアンソロジーではほとんど聴かれません。 Ulan Bator や Prime Time Victim Show に EBM (electronic body music) の影響が聴かれる程度でしょうか。

ちなみに、この第三の区分で最も耳を惹いたのは、北アフリカ出身者の歌手をフィーチャーしたグループ Dazibao。 鋭角な guitar のカッティングが粗い Minimal Compact みたいで、カッコよいです。 Catalogue や Urban Sax も悪くないけど予想の範囲内の音、というか……。 といっても、Tanit や Dazibao につい耳が行ってしまうのは、 自分の post-punk な音楽趣味履歴のせいかもしれません。

最後の区分はこのアンソロジーのリリース前1〜2年 (1996年以降) の録音で、 CD3の後半9曲 (9曲目以降) です。 Jean-François Pauvros 関連の録音も含まれていますが、 第三の区分までの文脈に拘らずにその時点での面白いと思った音楽を収録したようにも聴こえます。 もちろん、néorealiste な rock alternatif も techno/house の影響を受けた音も収録されていないという点は、 第三の区分と同じです。

ここでは、Viellistic Orchestra のような folk/roots 的な文脈のグループが 収録されていたのが、ちょっと意外でした。もちろん、好きな音ですが。

ちなみに、このアンソロジーに関しては、 Paris dans les années 70 (『1970年代のパリ』) という 1970年代のパリのサブカルチャーを扱っていると思われるウェブサイトの 紹介記事 (フランス語) があります。ちょっと見づらいサイトですが……。 英語のものであれば、レコードショップ Forced Exposure の 記述が 参考になるでしょうか。

ちなみに、このアンソロジーの収録曲は以下の通りです。 ブックレットのクレジットに基づき制作年と未発表音源等の情報も書いておきます。 また、参考までに、ブックレットも参考に自分の知る限りで簡単な註やリンクを[]括弧内に書いておきました。

CD1: "Seventies 1969/77"
  1. Jacques Dudon, "Erosion Distillée" (1967, previously unreleased)
  2. Red Noise, "Petit Précis D'Instruction Civique / Sarcelles C'Est L'Avenir" (1970, extract)
    [Boris Vian の息子 Patrick Vian のグループ, Futura レーベル, Red Noise @ Néosphères]
  3. Ame Son, "Seventh Time Key - I Just Want To Say" (1969, previously unreleased)
    [Deavid Allen (Gong) の Banana Moon に参加した Patrick Fontaine と Marc Blanc のグループ, official site, BYG / Actuel レーベル, Ame Son @ Néosphères]
  4. Gong, "Gong Poem" (early 1970s)
    [ex-Soft Machine の Daevid Allen のグループ, Planet Gong (official site), BYG / Actuel レーベル]
  5. Dashiell Hedavat, "Chrysler" (1971)
  6. Catharsis, "Masq" (1971, edit)
  7. Contrepoint, "Paris La Nuit" (1971, previously unreleased)
    [Hugh Hopper (ex-Soft Machine) とのツアー経験もあるというグループ]
  8. Lard Free, "Choconailles" (1971)
    [Gilbert Artman の Urban Sax, Catalogue 以前のグループ]
  9. Dagon, "Suite Pour Orgue" (1972, previously unreleased, extract)
    [FLIP (Front de Libération Internationale de la Pop) 創設グループの1つ, FLIP @ Néosphères, Patrick Vian (Red Noise) も一時参加]
  10. Fille Qui Mousse, "Episode" (1972, previously unreleased)
  11. Mahogany Brain, "Silkskin Dawn" (1972)
    [後に New York に渡り James Chance & The Contortions に参加した Patrick Geoffrois のグループ, Futura レーベル]
  12. Mahjun, "Nous Ouvrirons Les Casernes" (1973, previously unreleased on CD)
    [FLIP (Front de Libération Internationale de la Pop) 創設グループの1つ, Jean-Louis Mahjun (official site), FLIP @ Néosphères, Saravah レーベル]
  13. Jac Berrocal & Musik Ensemble, "Radio L.L." (1973, previously unreleased)
    [Jac Berrocal (Catalogue) のグループ]
  14. Schizo, "Le Voyageur" (1973)
    [Richard Pinhas の Heldon 以前のグループ, この曲には Gilles Deleuze が Nietzche のテキスト朗読で参加, Richard Pinhas (official site?)]
  15. Oedipe, "Enomena" (1976, previously unreleased)
    [Claude Barthélémy が十代のときに参加していたグループ]
  16. Metal Urbain, "Panik" (1977)
    [Suicide 風 punk グループ, Cobra レーベルからの1stシングル曲, 後に Rough Trade レーベル]
CD2: "Eighties 1977/90"
  1. Camizole, "Charles De Gaulle" (1977, previous unreleased)
    [Dominique Grimaud と Bernard Filipetti のグループ, Dominique Grimaud (official site), Dupon Et Ses Fantômes 創設グループ, Dupon Et Ses Fantômes @ Néosphères]
  2. Heldon, "Interface Part I" (1978)
    [Richard Pinhas のグループ, Heldon (official site)]
  3. Le Grand Nébuleux Et Ses Laveurs De Consciences, "Les Pirates Du Cortex" (1978, previously unreleased on CD)
  4. Etron Fou Leloublan, "Nicolas" (1981)
    [Dupon Et Ses Fantômes 創設グループ, Dupon Et Ses Fantômes @ Néosphères, Rock In Opposition 参加, Fred Frith 制作]
  5. Art Et Technique, "T Form" (1981, previously unreleased on CD)
    [Bernard Filipetti (ex-Camizole) の Prime Time Victim Show 以前のグループ]
  6. Jean-Marc Foussat, "Abattage Rapide" (1981, alternative take, previously unreleased)
    [Jean-Marc Foussat (official site), Jac Berrocal や Jean-Fran¸ois Pauvros と共演]
  7. Vidéo Aventures, "Tina" (1981)
    [Dominique Grimaud (ex-Camizole) のグループ]
  8. Kas Product, "Underground Movie" (1982)
    [ナンシー (Nancy) 出身の new wave グループ, Kas Product (official site), Gérard Nguyen 制作]
  9. Fall Of Saigon, "So Long" (1981, previously unreleased on CD)
    [Pascal Comelade のやっていた Young Marble Giants 風 new wave グループ, Gérard Nguyen 制作]
  10. Les I, "Wagons-lits" (1983, previously unreleased on CD)
    [Ferdinand Richard (Etron Fou Leloublan) に見出されたグループ, Ayaa レーベル]
  11. Tanit, "Wawel Song" (1984, previously unreleased on CD)
    [Pascal Normal (ex-Orchestre Rouge) が drums として参加]
  12. Pascal Comelade, "Rythmos Del Fedayin" (1984, previously unreleased on CD)
    [Gérard Nguyen 制作, この曲は Jac Berrocal, Pierre Bastien とのトリオでの演奏]
  13. Clair Obscur, "Petite Fable" (1987)
    [V.I.S.A. レーベル]
  14. Dazibao, "Cameleon" (1987, previously unreleased on CD)
    [北アフリカ出身者の歌手をフィーチャーしたグループ, Dazibao @ Jean Zundel (ex-Dazibao) official site, 歌詞はモロッコのスラング, V.I.S.A. レーベル]
  15. Alto Bruit, "HP Section 25" (1988, previously unreleased on CD)
    [V.I.S.A. レーベル]
  16. Cosmic Wurst, "The Voice Of We / Do The Wurst" (1989)
  17. Catalogue, "Stop Stress" (1990, previously unreleased)
    [Jean-François Pauvros / Jac Berrocal / Gilbert Artman トリオ]
CD3: "Nineties 1991/97"
  1. Urban Sax, "Glauquerie" (1991)
    [Gilbert Artman (ex-Lard Free) 作曲指揮]
  2. Jacques Dudon, "Langues De Feu" (1992)
  3. M.K.B., "Retour À Paris E'Argemtome Ou La Russie" (1993)
    [1980年代初頭に punk バンドとしてデビューした F. J. Ossang のグループ, この曲では Jac Berrocal 参加]
  4. Corman Et Tuscadu, "Monster" (1993)
  5. François Robert Lloyd, "True Man Coyotte" (1993)
    [New York 制作で Bill Laswell や Anton Fier が参加]
  6. Vox Populi!, "Getting To Know... Venus" (1994, previously unreleased)
    [V.I.S.A. レーベル]
  7. Ulan Bator, "Cheetah Carnage" (1995)
    [Gérard Nguyen 制作, DSA (Les Disques Du Soleil Et De L'Acier) レーベル]
  8. Prime Time Victim Show, "Bull In A Pit" (1995)
    [Bernard Filipetti (ex-Camizole, ex-Art Et Technique) のグループ, Michel Bassin (Treponem Pal, KMFDF) 参加]
  9. Alpes / Patrice Moullet, "Tectonique" (1996)
    [Alpes (official site)]
  10. Atta Sexden, "Atta Sexdens" (1997)
    [Atta Sexden (official site)]
  11. Cape Fear, "Warried While Resting (Part 2)" (1997)
    [Laurent Perrier (aka Zonk't, ex-Nox) のもう一つのソロプロジェクト]
  12. Ashtray Wearts, "Call The Police" (1997)
    [Jean-François Pauvros 制作]
  13. Viellistic Orchestra, "Tsilla" (1997)
    [Pascal Lefeuvre 率いる vielle-a-roue 楽団, Alba Musica レーベル]
  14. Knicrik, "Yopo" (1997)
  15. Jean-François Pauvros, "Cri" (1997, previously unreleased)
    [Jean-François Pauvros (official site)]
  16. Osaka Bondage, "Tango Démago" (1997, previously unreleased)
  17. Sun Plexus, "Radar" (1997, alternative take previously unreleased)
    [Sun Plexus (official site)]

と、いろいろ書いてきましたが、 フランスの音楽シーンに詳しいわけではないので、いろいろ抜けや誤りもあると思います。 補足や訂正のコメントは大歓迎です。

よくあることではありますが、書き出したらつい長文になってしまいました。 これを書いていて、音盤雑記帖向けのレビューを 書くのが滞ってしまいましたが……。 しかし、リリース直後ならまだしも8年前にリリースされた、 それも英米ならまだしもフランスの音楽のアンソロジーの話題で、 いったい読む人がどれだけいるのかという……。