Riccardo Tesi は1970年代末頃から活動を始めたトスカーナ (Toscana, IT) の organetto (イタリアの伝統的な button accordion) 奏者だ。 1990年代前半に Silex レーベル (関連発言) に残した Patrick Vaillant らとの一連の録音や、 1992年に結成したグループ Banditaliana などで知られる。 その他にも world music というか特に欧州 folk/roots の文脈で 多くのセッションに参加している。 そんな Tesi が Banditaliana を率いて初来日した。 Silex 時代から好きなミュージシャンだったのでとても楽しみにしていたが、 その期待を裏切らなかった。 Primavera Italia: 日本におけるイタリア2007 のの公式イベント「地中海の夕べ」コンサートシリーズの一環だが、 観た中では最も洗練されたアレンジ・演奏で楽しめたライブだった。
オープニングからして、Silex 時代というか、 プロヴァンスの歌手 Jean-Marie Carlotti が歌った "Anita" (Anita Anita, Silex, Y225037, 1994, CD)。 Claudio Carboni の baritone saxophone を効かせたアレンジも良く、 掴まれてしまった。 全体としても、彼が baritone を吹く曲がアレンジ的に面白く聴かれたように思う。
自分は Banditaliana よりも Silex に残した録音の方が好きということもあり、 欧州 jazz/improv 色濃い演奏を期待しがち。 ライブの中でも、インストゥルメンタルでソロ回しする曲ような曲、 それもちょっとアップテンポな "Accorsa"、"Aulos"、"Brughiere"、"Espresso" のような曲を特に楽しんだように思う。 しかし、全体としては Silex の録音にくらべて Banditaliana は jazz/improv 的な要素は少いなあと、ライブを聴いて実感した。
Tesi は派手なソロを聴かせるわけではないが、 高音の旋律からベースラインまで、グループの要となるような演奏をしていた。 CDで聴いていて、乾いた軽い音のする hand drums はどういう伝統楽器なのだろう、 と思っていたのだが、普通に tabla だったのは拍子抜け。 Bonafé の set は一見 drums のようだが、 hand drum 多めの set で乾いた音で軽快で細かいリズムを刻んでいた。
guitar の Geri が弾きながら歌う歌物も多く、それも悪くは無い。 しかし、歌物をやるのであれば一癖ある歌手を別にフィーチャーした方が 面白くなるのではないかとも思ったのも確かだ。 むしろ、今まで歌詞の内容をあまり気にせずに聴いていたので、 MCで聞いた歌詞の内容の説明が興味深かった。 恋の歌もあったが、パレスチナ (Palestina) や移民をテーマにした歌詞もあって、 あからさまではないものの、それなりに政治的スタンスも伺われたようにも思う。
以下は、「地中海の夕べ」コンサートシリーズ 関連の談話室への発言の抜粋です。
仕事帰りにライブへ行こう、というわけで、 金曜の晩は仕事を早めに切り上げて九段下の イタリア文化会館 東京 へ。 「地中海音楽の夕べ」コンサートシリーズの一つ、 Tenores di Bitti "Mialinu Pira" のコンサートを聴いてきました。 いわゆるサルディーニャ (Sardigna) の男声合唱です。
Tenore e Cuncordu de Orosei, Voches De Sardinna (Winter & Winter, 910 023-2, 1998, 2CD) の解説の受け売りですが、 このサルディーニャのテノール節 (cantos a tenore) と呼ばれる4人による合唱は、 低音側から順に下声 (bassu)、対声 (contra)、本声 (voche)、中声 (mesuvoche) で、 それぞれ、基音、5度音、オクターブ音、10度音となっているそうです。 下2声が喉声というか throat singing で脈動する通奏低音のような響きを作り だすのが、とても印象的な合唱です。 今回来日した Tenores di Bitti もそのスタイルの合唱を聴かせました。
CDではそれなりに聴いたことがあるわけですが、生で聴くのは始めて。 倍音成分がたっぶりの合唱がびりびり体に響く感じで、とても気持ち良かったです。 合唱によるホーミー (khoomei) のように聴こえたり。 もともと4人が小さく輪になって歌うスタイルだそうですが、 舞台の上でも二本のマイクを4人で囲んで歌っていました。 他の tenores に比べてどうなのかは判断付けかねますが、 1時間程度の短いコンサートながら充分に楽しめました。
他の tenores、といえば、Tenores di Bitti を名乗っているグループは4つあるそうで、 そのうち、今回来日したのは "Mialinu Pira" の名を冠したグループ。 Felmay や RealWorld から CDを出しているグループ Tenores di Bitti "Remennu 'e Connu" (⇒MySpace) とは別でした。ううむ、まぎわらしい……。
先週に続いて、金曜の晩は仕事を早めに切り上げて九段下の イタリア文化会館 東京 へ。 「地中海音楽の夕べ」コンサートシリーズの一つ、 Officina Zoè (⇒MySpace) のコンサートを聴いてきました。 彼らのCDは持っておらず、MySpace 等で予習にちょっと試聴した程度。 プーリア (Puglia; ⇒ja.wikipedia.org) 州南部というかサレント (Salento) 半島の pizzica (⇒it.wikipedia.org) と呼ばれるリズムの民俗音楽をリバイバルしたグループ、という程度しか予備知識はありませんでした。 試しに生で聴いてみるかという程度の気持ちで行ったのですが、 さすがに凄いという程ではないものの、期待以上に楽しめたコンサートでした。
pizzica というのは tarantella の中で最も古い形式を残していると言われるのですが、 リーダー格の Lamberto Probo と、中では若く体格の良い Danilo Andrioli の2人の 叩きまくる tamburrelli (frame drum) はまさに tarantella。 いや、むしろ、モロッコ (Morocco) の gnawa に近いトランス音楽と言えるような音楽で、 そこが最も楽しめました。 その一方で、frame drum を叩きまくる曲が多かったなかで、 organetto のゆったりしたフレーズもちょっとオクシタニア (Occitania) っぽく感じた "Anima Bella" や、 mandolino の細かいフレーズがリズムを作り出していくような曲 (確か "Menevò") も気に入りましたが。 イタリア南部で話されるギリシャ語 (Greek) の方言で歌われる曲もあって、 ギリシャ (Greece) 風に聞こえるときもあったりするのも、面白かったです。 ちょっといなたい感じで、こうして聴くと、 Eugenio Bennato 界隈がやっているナポリ (Napoli, Campania, IT) での tarantella (関連レビュー) は洗練されていると実感しました。
しかし、こういうトランス音楽のライブは、立席で踊りながら聴いたほうが楽しめたかもしれません。 あと、PAのせいかハコの作りのせいか残響が強めで、 ちょっとぼやけた音になっていたのも残念でした。 frame drum の音がもっとシャープだったらカッコよいだろうに、と思いながら聴いてました。 会場で売られていたCD Officina Zoè, Crita (Polosud, PS055, 2004, CD) を買って復習に聴いてみたのですが、 talantella っぽい曲調のものもライブより少めで、いなたい歌物が多め。 とても地味なプロダクション。 ライブの方が格段に良かったです。