TFJ's Sidewalk Cafe > 談話室 (Conversation Room) > 抜粋アーカイヴ >

フランス (France) の音楽について

フランスの音楽に関する2006年1月頃の一連の発言の抜粋です。 古い発言ほど上になっています。 リンク先のURLの維持更新は行っていませんので、 リンク先が失われている場合もありますが、ご了承ください。 コメントは談話室へお願いします。

[1507] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Tue Jan 10 22:39:43 2006

フランス (France) の中南部のオーヴェルニュ (Auvergne) 地方に Agence des Musiques Traditionnelles en Auvergne (AMTA) という民俗音楽の協会があります。 1985年に cabrette (bagpipe の一種) 奏者/歌手の André Ricros によって設立された組織です。その活動は、AMTA の上位の全国組織である Fédération des Associations de Musiques & Danses Traditionnelles (FAMDT) (関連発言) と同様で、 伝統的な曲の保存に留まらず、jazz/improv や rock、electronica など、 同時代的な要素を積極的に採り入れたものにまで及んでいます。

Ricros は、AMTA 設立の後、1991年には Silex レーベルを設立。 現在は FAMDT 及びそのレーベル Modal の 芸術顧問 (conseiller artistique) でもあります。 AMTA は後の Silex や FAMDT のフランス全国レベルでの活動の出発点と言えるものです。 そして、それらに関わってきた Ricros は1990年代以降のフランスの folk/roots シーンのキーマンと言えるでしょう。

(フォトログ) 去年末に Modal のCDをまとめ買いして勢いがついたこともあり、 AMTA へ直接コンタクトを取ってみました。 去年末に小包が届いたのですが、 注文したもの以外にも、A4判カラー24頁カタログや、 オーヴェルニュのシーンのコンピレーションとか、いろいろおまけしてくれました。

AMTA へコンタクトを取った主目的は、去年末にリリースされた Alain Gibert & André Ricros, L'Œil Du Pharmacien (L'Auvergne Imaginée, 2005001, 2005, DVD(PAL/0)) を入手することでした。 届いた中身を見ると、DVD-R でレーベル面も白無地にプリントしたものでした。さすが自主制作。 併せて、数年前のリリースですが、 La Fabrique / André Ricros, Nuit (Paratge / Nord Sud, NSCD1112, 2002, CD) と Ici L'Auvergne, Ici L'Auvergne (Paratge / Nord Sud, NSCD1116, 2003, CD) も入手しました。 いずれも、期待を裏切らない folk/roots-influenced jazz/improv の佳作でした。 そんなわけで、3タイトル併せて レビューを書いておきました。

Rasez Le Puy De Dôme Qu'on Voie La Mer!: Musiques Traditionnelles En Auvergne (AMTA, 75220, 2002, CD) と、 Entre Chien Et Loup: Musiques des Veillées en Auvergne (AMTA, 75300, 2004, CD) という 現在のオーヴェルニュのシーンを紹介する 2つのコンピレーションも入手することができたのですが、こちらもとても興味深い内容でした。 通して聴いていて、特に Modal の音源はどれも出来が良いなぁ、とつくづく思いました。 Modal の子供向け音楽のシリーズ Pouce の音源も、侮れない良い出来です。 うーむ。さらにいろいろ欲しくなってしまいました…… (<そんな余裕あるのか〜)。

と、オーヴェルニュの音楽シーンに興味ある読者は ここにはほとんどいないような気がしますが、ま、自分への備忘録を兼ねて。 AMTA に限らず、独立系レーベルなどに直接コンタクトを取ると プロモ盤や販促資料をおまけしてくれることがある (他の例) のは、 おそらくプロモーションを期待されてのことだとは思います。 興味深いレーベルの場合、それに応えたいとも思います。 しかし、自分にできることは、こうして読者も限られたこのウェブサイトで 細々と紹介するくらいしか無いという……。 全くプロモーションにならず、申し訳ないというか……。

[1508] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Wed Jan 11 23:06:13 2006

André Ricros 関連ののフォローアップ。

La Fabrique / André Ricros, Nuit (Paratge / Nord Sud, NSCD1112, 2002, CD) と Ici L'Auvergne, Ici L'Auvergne (Paratge / Nord Sud, NSCD1116, 2003, CD) (レビュー) は、 どちらもフランス (France) の Nocturne 配給の独立系レーベル Nord Sud のシリーズ Paratge のリリースです。 "Paratge est une collection qui représente pour nous l'esprit occitan" とブックレットに書かれており、 この Paratge は「オクシタンの精神を表現するコレクション」として 企画されたシリーズです。以前に紹介した Lo Còr De La Plana, Es Lo Titre (Nord Sud, NSCD1121, 2003, CD) (関連発言, レビュー) も、このシリーズのリリースだったことに、今さらながら気付きました。 Nord Sud はウェブサイトの類を持っておらずこのシリーズの全容は不明なのですが、 今まで入手した3タイトルはどれも出来が良かったので、 他にどのようなタイトルがあるのか、とても気になっています。

ちなみに、Nord Sud は、1990年代に Al Sur レーベルをやっていた Michel Pagiras が新たに興したレーベルです。 Al Sur はフランスだけでなく、イタリア、スペイン、トルコやマグレブなど (L'Empreinte Digitale レーベルのカバーする範囲とも共通する) 汎地中海的な folk/roots に強いレーベルでしたが、 いつのまにか (おそらく2000年前後に) 無くなってしまい、 現在はどのタイトルも入手困難になってしまっています。 今から思えば、Al Sur は、Silex ほどではないものの、 現在のフランスのローカルシーンの隆盛の基となった 1990年代の主要レーベルの一つだったように思います。 それぞれ、Nord Sud と Modal というレーベルに活動は引き継がれているものの、 1990年代の音源がほとんど入手困難になっているというのは、 なんとも勿体ない話です。 それなりにフォローしていたのですが、 こんなことなら買っておけば良かったというタイトルが沢山……。 いつまでもあると思うな親と金とレコード、っーか。

ところで、オーヴェルニュ (Auvergne) はオクシタン (Occitanie) なのかと 某所で訊ねられたことがあるのですが、 含まれるとしているものが多いように思います。 ただし、現在のオーヴェルニュ地域圏のうち北部の 旧ブルボネ (Bourbonnais) 地方 (ほぼ現在のアリエ (Allier) 県) はオクシタンから除外されると思います。

[1509] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Thu Jan 12 23:16:49 2006

先日、 Alain Gibert & André Ricros, L'Œil Du Pharmacien (L'Auvergne Imaginée, 2005001, 2005, DVD(PAL/0)) というDVDを紹介したわけですが (関連発言, レビュー)、 関連して、去年後半にリリースされたフランス (France) の jazz/improv シーンのDVDを軽く紹介。

Bernard Lubat は、1960年代から主に jazz / improv の文脈で活動する piano / accordion / drums 奏者。 出身地であるフランス南西部ガスコーニュ (Gascogne) というか アキテーヌ (Aquitaine) 地域圏ジロンド (Gironde) 県 (主邑ボルドー (Bordeaux)) の村 Uzeste で、1978年からフェスティバルを開催し始め、 現在は音楽学校もあり、 Uzeste Musical という音楽村のようになっているようです (公式サイトの英語での紹介)。 Labeluz という自身のレーベルもあります。

ちなみに、Uzeste は Langon の南約5kmくらいの所に位置するようです。 そこを拠点とする Daqui レーベルや Nuits Atypiques de Langon (関連発言) と Uzeste は何らかの関係があったりするのでしょうか? ちなみに、MondomixBernard Lubat のページ から、 Nuits Atypiques de Langon 2000 での Lubat のインタビュー動画が見られます。

そんな、Bernard Lubat が、自身のソロライヴを収録した Vive L'Amusique! (Labeluz, 642008/09, 2005, DVD(PAL/2)+CD) をリリースしたので、去年末に入手してみました。 音楽を楽しむというより、その逸脱系演奏パフォーマンスを楽しむような内容でした。 会場から笑いもあってコミカルなのでしょうが、ダメという程でも無いですが、 場を共有していないとキツいかなぁというのが正直な感想。 Compagnie Lubat のライヴが収録されていればと期待したのですが、それはありませんでした。残念。 しかし、さすがにライヴを観るのはかなり困難ですし、 どんなライヴをやっているのか垣間見ることができるという点では興味深かったです。

Labeluz については、フランスの free jazz/improv の文脈で1990年代後半に知り、 いくつか手を出してみたことがあります。 Compagnie Lubat, Scatrap Jazzcogne (Labeluz, 642001, 1995, CD) や André Minvielle, Canto! (Labeluz, 642003, 1998, CD) とか。 いずれも歌入りというか rap 入りで、 hip hop を意識したと思われるそのビート感がイマイチというか……。 ちなみに、Compagnie Lubat, Scatrap Jazzcogne (Gasconcubin Groove Biotechnobeat Remix) (Labeluz, 642002, 1995, CDS) というシングルもあるのですが、当時の techno / breakbeats 物と比べると……。 しかし、今聴き返すと、その牧歌的な感じも悪くないかも。 というか、free jazz/improv なのがダメな人でも、 Fabulous Trobadors や Massilia Sound System に近いノリで聴かれるかも (無理アリ)。

Congotronics 2 のときにも言ったことですが、 PCや周辺のデジタル機器の小型化と高性能・高機能化で DVD の制作が低予算で簡単になっているのでしょう。 こういうニッチなジャンルでは、 デジタル化のインパクトはネットワーク配信のような所ではなく、 音源や映像の制作コストの低下と小規模制作の容易化の部分で 大きく効いているように思います。 Alain Gibert & André Ricros や Bernard Lubat のDVDのリリースは、 デジタル音楽時代ならではのことなのだろうなぁ、とつくづく思います。

しかし、Gibert & Ricros、Lubat ときたら、リヨン (Lyon) の ARFI (Associetion à la Recherche d'un Folklore Imaginaire) (ちなみに、Gibert は ARFI 創設メンバーの一人) もそろそろDVDをリリースするのではないかしらん、と期待してみたり。 「オクシタン (Occitanie) の jazz/improv の現在を観る」とか題して Alain Gibert & André Ricros, L'Œil Du Pharmacien と Bernard Lubat, Vive L'Amusique! を併せて上映会をしてみたい気もするこの頃。 って、そんなのいったい誰が観に来るんだ? という企画ですが……。