トルコ・イスタンブール (İstanbul, TR) の underground シーンの中心的な レーベル Doublemoon や クラブ Babylon とグループを成す 版権会社 Pozitif Edisyon が、 去年に続いて コンピレーション Homegrown İstanbul の 第二弾をリリースした。 2枚組約100分という量もさることながら、全20曲中14曲が未発表曲、 おそらくこのコンピレーションのためのセッションだ。 それも、単なる顔合せ以上の演奏が多く、 Pozitif Edisyon 管理音源のサンプラーのレベルを越えた充実した内容だ。
収録曲はインストゥルメンタル中心で、それも、 darbuka、oud、kanun、ney 等トルコの楽器のフィーチャーした duo 〜 4tet 程度の小編成で、 アコースティックで jazz / classical の影響強い folk/roots の音楽を聴かせるものが多い。 Kalan や Doublemoon といったレーベルからリリースされそうな音だ。 もちろん、そんな中に club music や psyche がかった rock な曲が自然に、 かつ、メリハリを作るように配される。 nu jazz を意識して fusion っぽくなってしまったかのような曲もあるが、 ここではそれもあまり気にならない。
特に気に入っているのは導入の2曲、 アコースティックな guitar と darbuka の絡みもスリリングな Zeki Çağlar Namlı & Mısırlı Ahmet, "Senden Sonra"、 弦楽器の響きのテンションも高い kanun、violin、cello に percussion を 加えた4tetで圧倒する Göksel Baktagir & Nedim Nalbantoğlu, "Fırtına" だ。 bağlama、oud、buzuki などの撥弦楽器を中心に clarinet 等を加えたアンサンプルも明るく軽快な Buzuki Orhan & Erol Parlak, "Coşar" や Smadj presents SOS, "Asya" も楽しい。 Vedat Sakman & Barbaros Erköse, "Sarılsam" や Taksim Trio, "Derdin Ne" のようなゆったり聴かせる曲も良い。
club music 寄りの曲では、 breakbeats なトラック上に dream pop 的に軽く漂う Norrda の女性歌手 Selen Hünerli の歌声に bağlama や darbuka の響きや コブシを強く効かせた Sabahat Akkiraz の歌声を合わせた Norrda & Sabahat Akkiraz, "Mavilim" や、 コブシを効かせた女性歌手をフィーチャーした伝承曲を ギクシャクめに仕上げた Orient Expression & Rojin, "Nare" が面白い。 club music ではないが、 歪んだ guitar や violin の音色も psychedelic な インストゥルメンタルな rock の演奏に rap が自然に絡む Fairus Derimn Bulut & Ceza もかっこいい。
一方、Doublemoon レーベルからもコンピレーションがリリースされている。 併せて簡単に紹介。
タイトル、ライナーノーツ等に明記されてはいないが、公式サイトによると、 レーベル設立10周年を記念してリリースされたコンピレーションだ。 クラブ Babylon の様子はもちろん観光地から下町まで イスタンブールの街の様子を捉えた "Istanbul Twilight Stories" と題された Ahmet Polat による一連の写真を 写真集に仕立てたブックレットを、 CD2枚と共に紙箱に収めた、特殊なパッケージだ。
Homegrown İstanbul Vol. 2 と違い、 こちらは既発表曲を集め (ただし、Orient Expressions, "Şehristan" は未発表のようだ)、 イスタンブールの街に対する仮想的なサウンドトラックとして仕立てたものだ。 Homegrown İstanbul Vol. 2 に比べて club music 寄りだが、ミュージシャンの重なりも大きく、その雰囲気は近い。 2000年前後までの初期の音源があまり選ばれていないが、 コンピレーション・シリーズ East2West の 各々よりはスコープは広めで、 Doublemoon がどんな音をリリースしてきたのかはよくまとめられていると思う。 今までフォローして来たファンには少々新鮮味に欠ける選曲だが、 入門盤としては良いかもしれない。 ただ、10周年記念のリリースをするなら、 レーベルの歴史を振り返るような編集をするなり、 Doublemoon Allstars のような特別セッションを企画するなりして欲しかったようにも思う。
ちなみに、2枚のCDそれぞれに1曲ずつ video (mpeg 形式) が収録されている。 いずれも、演奏風景等が含まれる music video ではなく、 "Gara Guna" と "Engewal" をB.G.M.とした イスタンブールの promosion video とでもいったもの。 "Gara Guna" の方はセピア色の画面も使い懐古的というか伝統的なイメージを、 "Engewal" は夜景や雑踏、海峡を行き交う船などの早回しの映像で 都会的なイメージを作っている。 ただ、"Gara Guna" も "Engewal" もオーディオトラックはCD2に収録されている ことから判るように、 この対称的なイメージがCD2枚のそれぞれの選曲にも反映されているわけではない。 こういう所に編集コンセプトの半端さを感じ、少々残念に思う。