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トルコ (Turkey) の音楽について

2005年12月頃のトルコの音楽に関する一連の発言の抜粋です。 古い発言ほど上になっています。 リンク先のURLの維持更新は行っていませんので、 リンク先が失われている場合もありますが、ご了承ください。 コメントは談話室へお願いします。

[1476] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Mon Dec 5 0:18:23 2005

Kardeş Türküler は、トルコ (Turky) に住む様々な民族の folklore (民俗音楽) を 伝統的な楽器を用いつつ同時代的なアレンジで聴かせるバンドです。 イスタンブール (Istanbul) にある 国立ボアジチ (Boğaziçi、ボスポラス) 大学Folklore Club によるコンサートのプロジェクトとして1993年に結成、 1995年からはダンス部門と演劇部門を含む Boğaziçi Gösteri Sanatlan Topluluğu (BGST; Boğaziçi Performing Arts Ensemble) の音楽部門として活動しています。 (ちなみに、ボアジチ大学は、アンカラ大学と並ぶトルコ国立のエリート大学です。)

トルコ語で "Songs Of Fraternity" (友愛の歌) というバンド名は、 トルコに住む各民族の友愛による共存という意を込めて付けられています。 彼等の取り上げる folklore はトルコ (Turkish) はもちろん、 クルド (Kurdish。彼等はさらにクルマンジ (Kurmanji) とザザ (Zaza) に分かれる)、 アルメニア (Armenian)、ジプシー (Roma) といった主要なものだけでなく、 アラブ (Arabic)、ギリシャ (Greece)、ラズ (Laz)、グルジア (Georgian)、 チェルケス (Circassian)、マケドニア (Macedonian)、アレヴィー (Alevi) にまで亙っています。 メンバーにはトルコ語とクルド語しかネイティヴがいないようですが、 彼らが取り上げる歌は全てオリジナルの言語で歌われています。 メンバーの民族的アイデンティティからではなく、 トルコ国内に住む少数民族 (アレヴィーは宗教的なものですが) の folklore を 広く調査研究し、レパートリーに加えています。

1996年にアゼルバイジャン (Azerbaijan) の歌を取り上げた Hardasan (Güvercin Müzik, 1996) をヴォーカリスト Feryal Öney 名義でリリースした後、 1997年以降 Kalan レーベルから 6タイトル (うち2枚が映画のサウンドトラック) をリリースしています。

同時代的な音楽要素という点では、 electric guitar / electric bass / drums も使っていますし、 最近の作品では electronics の effect も使っていますが、 アコースティックな楽器の音色を生かしているせいか、 rock / pop 的な要素はあまり感じられません。 どちらかといえば、sax や brass は用いていないものの、 jazz の方に親和性の高い音楽と思います。 特に、Connecting Cultures レーベルから欧州版もリリースされた Hemâvâz (Kalan, CD263, 2002, CD) や、 最新作 Bahar (Kalan, CD346, 2005, CD) は、 残響処理や electronics 使いという点でも、 むしろ、ヨーロッパ、特に北欧やフランスなどでの folk/roots / tradional music の同時代的な試みのトルコ版といった感じです。 この2枚は、ジャケットデザインもモダンに洗練されていますし、 これから Kardeş Türküler を聴こうという人にお薦めです。

そんな彼らの2000-2001年のライヴを収録した In Concert: 2000-2001 Istanbul Harbiye Cemil Topuzlu Open Air Concert (Kalan, 02, 2004, DVD(PAL/all)) がリリースされています。ライヴ演奏12曲分だけでなく、 ビデオ・クリップ3曲と TVインタビュー (というかイスタンブールのビルギ (Bilgi) 大学での討論会の録画) も収録、 日本ではなかなか判らない彼らの活動の全容を知るのにうってつけのDVDとなっています。

saz や darbuka, frame drum のような伝統的な楽器に electric guitar, electric bass, violin, drums, accordion といった西洋楽器、 それにコーラスからなる総勢17名のアンサンブルが二段に並び、 演奏者や歌手は派手なアクションをとったりはせず、 時々ソリストが舞台中央に歩み出して演奏し歌うというスタイルのライブです。 映像は、ストップモーションやネガポジ反転など映像を加えたり、 ライヴ以外の映像が挿入されたりしますが、 演奏や歌唱同様にポップス的に盛りあげるような演出ではなく、 全体として落ち着いた仕上がりになっています。 また、最後の2曲では、 Boğaziçi Gösteri Sanatlan Topluluğu の ダンサーも舞台に加わっています。 ダンスはトルコの伝統的な folklore dance (民俗舞踊) の要素 (動きや衣裳) も多く採り入れてはいますが、 folklore dance というより contemporary dance といった方がよいものです。

こういう folklore に対する同時代的な、それも泥臭いというより端整なアプローチによる演奏が とても気に入っているのですが、 このバンドを興味深く思っているのはその点だけではありません。 ライブ映像に被せられる他の映像を注意して観ていると、 1920年代のトルコを追われるギリシャ人かアルメニア人を載せている貨車らしき映像や、 クルド難民キャンプらしき映像だったりするのです。 DVDに収録された "Denize Yakilan Türkü" のビデオクリップのエンディングも、 トルコ東部の村の男たちが軍によって連行されてると思わせるようなシーンです。

そんな映像的な内容のためだけではないようですが、 かれらのビデオクリップは度々トルコのTV局から締め出されているようです。 例えば、トルコのインディ・メディア BIA は、 "Kurdish is Being Treated as Sub-Culture" (2004/05/07) という記事で、ライブDVDのオープニング曲でもある "Mirkut" (Sivan Perwer の曲) のビデオクリップがTV局から締め出しをくらっていることを、伝えています。 また、DVDに収録された討論会でも、 "Kara Üzüm Habbesi" のビデオ・クリップが 放送禁止になっているのではないか、と司会から振られています。 これについて、Kardeş Türküler のメンバーは、 「現時点で単に放送されていないということだ。 クルド語とトルコ語のビデオということだけでニュースに値したのだ」 と、特に放送されないことに抗議することなく、淡々と応えています。

しかし、Kardeş Türküler の国内での立ち位置は、 単に抑圧されているというのとは違う、かなり微妙な所にあるようです。 DVDに収録されている討論会でも、 Ismail Cem 外務大臣が欧州の外務大臣や首相たちに Kardeş Türkülar のCDを贈って 「トルコではこのように全てが自由に行われている」 と言って回っている、というエピソードを司会者が紹介しています。 そして、それについて「誇らしいことじゃないですか?」と振られています。 これに対する Kardeş Türküler のメンバーの答えが、 このバンドの立ち位置が伺われる興味深いものなので、以下に紹介します (引用者による要約翻訳で、言ったことをそのまま書いているわけではありません)。

とても興味深いことだと思っている。というのは、 アルメニア音楽のグループ Knar やクルド音楽をやってるグループ Koma Amed やラズの音楽をやっている友人のCDも一緒に贈られたからだ。 しかし、それと同時に、これら友人たちのコンサートは禁止されたりしている。 現在の外務大臣のしていジェスチャーは、トルコの現実をよく反映したものではない。 正直言ってそんなにうれしいことじゃない。 最初のアルバムをリリースした1997年の時点ではトルコ語以外の使用に抑圧があった。 その1〜2年後にはクルド語で歌いたいと言ったため Ahmet Kaya は亡命することになった。 彼は不運だった。彼への連帯の証として1997年から彼の歌を取り上げてきている。 しかし、遥かにアマチュアのレベルだということで、我々は深刻な抑圧に直面したことはない。 結局、我々は民俗音楽を歌っているのであり、 抗議的な内容は無いし、デモのマーチを演奏したり、スローガンを叫んだり、 とかそういったことは一切していない。 しかし、トルコの政治的な雰囲気の観点からすると、 クルドやアルメニアの歌を歌うことが簡単になったとは言いがたい。 例えば、そういった歌があるため、我々も1999年から2000年にかけてコンサートが許可されなかった。 これは、我々に限ったことではない。 Ahmet Kaya の事件については、多くの人はそこから教訓を学ぶべきである。 (引用者注:Ahmet Kaya は、 özgün (protest song, political song) というジャンルで知られる歌手。 1998年にトルコの芸能関係の授賞式で「クルド語で歌いたい」と言って大混乱を引き起こす。 2000年に亡命先のフランスのパリ (Paris, France) で客死。)

トルコで少数民族の folklore を演奏することの政治性を意識し、 それに対する抑圧や矛盾を指し示しながらも、 抑圧に対する抗議に声を荒げたりせずに、 むしろ音楽の演奏を通して民族間の友愛を体現しようとする、 そんな Kardeş Türküler のアプローチは、 いかにもエリート大学ボアジチ大学出身のインテリのグループらしくもあり、 また、このような音楽活動を継続するためのギリギリのバランスのようでもあり、 とても興味深いです。

また、DVDにメインで収録されているライブの会場も 大学での討論会を収録したTV番組に挿入されるライブ映像の会場も、 オルタナティヴスペースのような小さなハコではなく、 千人単位の客がいると思われるかなり大きな野外会場です。 このようなバンドがそれなりにポピュラリティを獲得して集客しているというのも、 とても興味深いです。

Kardeş Türküler をリリースしているレーベル Kalan も、 Kardeş Türküler に似た微妙な立ち位置のレーベルです。 Kalan の創設者 Hasan Saltik は、 2004年に Time Europe 誌の "European Heroes" (ヨーロッパの英雄) に、 "The Anthropologist Of Folk Music: A record producer helps ethnic minorities preserve their endangered musical heritage" (2004/10/2; 「民俗音楽の人類学者:少数民族の危機に瀕した音楽遺産の保存を助けるプロデューサ」) として、選ばれています。この 「ほとんどの人にとって音楽は娯楽だが、Satik にとって音楽は政治的コミットメントだ」 という書きだしの、Satik の紹介記事も面白いです。 1992年に初めてクルドの音楽をリリースしたときは裁判沙汰になり、 3年の懲役になりかけるも、担当検事がその音楽のファンだったために助かった、 という逸話も紹介されています。 その一方で、文化省が Kalan のCDをトルコを訪問した各国要人に渡したり、 将軍や政府要人が賞讃したり。 そういう逸話も Kardeş Türküler と共通します。 現在約3億円もの年間収入があるというのも驚きですが、 利益の半分を少数民族の音楽の調査に充てているというのも、素晴しいです。

Kalan についてはあまりちゃんとレビューとか書いていませんが (関連発言はこれくらいか)、 以前から好きなレーベルで、直接コンタクトを取って注文したこともある程です。 そんなに多く聴いているわけではないですが、 Kardeş Türküler の他にも、ポップとは違う形で 同時代的なアプローチをしている興味深い音楽のリリースが多くありますし、 それだけでも注目に値するレーベルだと思っています。 しかし、こういう社会的背景を知ると、もっとちゃんと紹介していかなくては、とも思ったりしました。

と、先日の忘年会 @ El Sur Records (関連発言) でB.G.V. 的に上映していたDVDを紹介しようとしたら、思わず長文になってしまいました……。 ここまで読んでる人はどれだけいるのでしょうか……。 もっとちゃんとした形でこのDVDをを観る上映会のような場を持ちたいなぁ、 と思ったりもするんですが、こういうのに興味ある人はさすがにほとんどいないか……。 うーむ。

[1477] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Mon Dec 5 23:47:43 2005

トルコのトラキア (Thrace, Turkey) 地方の街ケシャン (Keşan) に Selim Sesler というジプシー (gypsy) の clarinet の名手がいます。 その Sesler 率いるアンサンブルがイスタンブールの club music のミュージシャンと Techno Roman Project を結成、 Feleque (Elec-Trip, no cat. no., 2003, CD) というアルバムをリリースしていたことに、今さらながら気付きました。 遅れ馳せながら入手してみたのですが、 変拍子を生かしたビートなど、なかなか面白い音に仕上がっていました。 そんなわけで、談話室レビューを書いておきました。

いかにも Doublemoon レーベルがリリースしそうな作品ではあるんですが、 リリースは2002年に活動を始めたイスタンブールのレーベル Elec-Trip。 "Istanbul Fusion Sound" が標語のようですが、 いわゆる "ethno electronic" だけではなく、 トルコ版 indie pop / rock とでもいうリリースもあって、興味深いです。 "ethno electronic" のコンピレーション Istanbul Calling (Elec-Trip, no cat. no., 2003, CD) も一緒に入手してみたのですが、 house や downtempo breakbeats のトラックといい、 ジャケットやブックレットのデザインといい、 欧州の club music のリリースに比べてもあまり遜色を感じない仕上がりです。へ〜。 Doublemoon 以外にもこういうレーベルが登場するあたり、 シーンにも広がりが出てきているのでしょうか。 というか、Doublemoon のリリースは一応フォローしてきているものの、 最近は新鮮味を感じられなくなりつつあったので、 Elec-Trip のようなレーベルもあったのか、という感もありました。

トルコ語のライナーノーツから固有名詞中心に辿る限り、 Techno Roman Project の関連盤としては、 Brenna McCrimmon, Karşilama (Kalan, CD113, 1998, CD) や Senem Diyici & Lari Dilmen, Zipçikti (Ada, no cat. no., 2003, CD) といったリリースがあります。 そういう一連の流れがあったり、Elec-Trip 界隈の "ethno electric" の音のような広がりがあったりと、 一発限りのジプシー音楽リミックス企画物と違っているように思われる所も、興味深いです。 関連盤をリリースしているのも Kalan や Ada のような 最近のイスタンブールのシーンの核となっているレーベルですし。 関連盤は未入手未聴で、これらを聴いてから紹介しようかとも思ったのですが、 それをしていると何も書けなくなりそうだったので、勢いがあるうちに。と。

Sesler 以外にも、Barbaros Erköse や Burhan Öçal といった ジブシーのミュージシャンも、 Doublemoon 等のレーベルから jazz や club music との混交音楽をリリースしてますし、 イスタンブールは新世代ジブシー音楽の強力な発信源になってるようにも思います。 ま、ジプシー音楽というよりイスタンブールの音楽といった方が良いようにも思いますが。

ところで、Techno Roman Project へは、実は Senem Diyici のトルコでのリリースを調べていてたどり着いたのでした。 Diyici は、1990年代から Okay Temiz や フランスの jazz / improv. のミュージシャンと共演してきた女性歌手。 Buda MusiqueKalan からリリースがあり、 1990年代から少しは聴いてきましたし (いきつけのジャズ喫茶で「Okay Temiz と共演してる女性歌手だよ」と聴かされたのが、きっかけだったかしらん)。 しかし、こんな所にたどり着くとは……。このシーンも狭いというかなんというか……。

[1478] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Tue Dec 6 23:05:11 2005

一昨日の Kardeş Türküler、 昨日の Techno Roman Project とトルコの音楽の話が続きますが。 2002年末頃から、当時は "Beyoglu beat" とも呼ばれていた (定着しませんでしたね) トルコのイスタンブール (Istanbul, Turkey) の alternative というか underground というか sub-culture というか そんな音楽シーン (関連発言) をフォローしてきています。 その関連盤を辿っていると、その手のリリースをしているのはいくつかのレーベルに限られているように思います。 網羅的に聴いているとは言い難いですし、見落しも多いように思いますが、 自分がフォローできている限りで、そういったレーベルのガイドを。

Doublemoon
イスタンブールのシーンを世界に知らしめたレーベルです。 1998年にリリースを始めたときは独立系でしたが、現在は EMI 配給。 もともとは jazz 寄りのレーベルで、レーベルのモットーは "Jazz is the ethnic music of this planet,"。 しかし、実際は folk/roots や club music の色濃いリリースが多くなっています。 Numoon というサブレーベルがあります。 関連会社として、 出版会社 RH Pozitif や、 プロダクション/オーガナイザの Positif Productions、 クラブ Babylon などがあります。 コンピレーション・シリーズ East2West は、 イスタンブールのシーンを知る入門盤として最適でしょう。
Kalan
Doublemoon と並んでヨーロッパで知名度の高い独立系レーベルです (例えば、英 Times 紙の記事 "Alternative side of weedy-voiced pop" (2005/3/21) では、 Kalan と Doublemoon がメイストリームの pop に対する alternative として紹介されています)。 設立は1991年。 歴史的音源の復刻CDやトルコ国内少数民族の folk (民俗音楽) のリリースで知られ、 ブックレット等の作りの丁寧さにも定評があります。 Grup Yorum のような özgün (political music) や、 Asiaminor、Erkan Ogur、Senem Diyici のような Turkish jazz/fusion、 Selim Sesler、Barbaros Erköse や The Galata Gypsy Band のようなジプシー音楽、 また、Kardeş Türküler、 ラズ系 (Laz) の Birol Topaloglu、クルド系 (Kurdish) の Aynur (Dogan)、アルメニア系 (Armenian) の Knar など folk をベースに同時代的な試みをしているミュージシャンを 積極的に取り上げているレーベルでもあります。
Ada
1980年代半ばから活動する独立系レーベルで、トルコの alternative rock のバンド Nekropsi のインタビュー記事によると、 もともと "Turkish folk and politically left wing musicians" の音源をリリースしてきた "the one of the two biggest independent-like companies of Turkiye." です (もう一つは Kalan か?)。 özgün (political music)、folk や jazz のリリースが目立つという点で、 Kalan に似た色を持つレーベルです。 行ったことは無いのですが、イスタンブールにレコードショップがあるそうです。 1990年代後半には ZeN 〜 Baba Zula、Replikas、Istanbul Blues Kumpanyasi と 後に Doublemoon からリリースすることになるような alternative rock のバンドのリリースを始めています。 Various Artists, Sesimizi Yükseltiyoruz (Ada, no cat. no., 2000, CD) はイスタンブールのシーンの現在の隆盛に先立つ1990年代末の姿を捉えた好編集盤です。 他に注目に値するリリースとしては、Okay Temiz の音源CD再発や、 在イスタンブールのギリシャ人 Nikiforos Metaxas を核にしたギリシャ-トルコ混成 folk/roots 指向のバンド Bosphorus の一連の作品があります (こういう多文化主義的な傾向も Kalan に似ています)。
Kod
イスタンブールの alternative シーンを紹介した雑誌記事 Jason Gross, "Global Ear: Istanbul" (The Wire, Issue 205, March 2001) では、Doublemoon、Ada と並ぶレーベルとして紹介されていて、 2000年前後までは ZeN のようなトルコの alternative rock をリリースしていましたが、 最近はプロダクション/オーガナイザとして 欧米の alternative rock / indie rock をトルコに招聘する活動がメインのように思われます。 Various Artists, Aksi Istikamet: A Compilation of Turkish Alternative Music (Kod, KOD006, 1999, CD) は、 Sesimizi Yükseltiyoruz (Ada, 2000) と並ぶ 1990年代末のイスタンブールの alternative シーンを捉えた好編集盤です。
Yeni Dünya
1998年頃から活動するレーベルです。 レーベル名称は "new world" の意味で、 欧米の world music のライセンスリリースが多そうです。 知名度という点でも、ジャケットやブックレットの作りにしても、 上記のレーベルに比べて格段に劣りますが、 Koçani Orkestar や Yildiz Ibrahimova をフィーチャーした Buzuki Orhan Osman, Gökkuşagi (Yeni Dünya, no cat. no., 2004, CD) や Kardeş Türküler と交流のあるアルメニア系のバンド Knar や ジブシー系の Barbaros Erköse Ensemble のアルバムなど、 興味深いリリースがそれなりにあって、侮れません。
Elec-Trip
2002年に活動を始めたレーベルです。 "Istanbul Fusion Sound" が標語で、 いわゆる "ethno electronic" がメインのようですが、 トルコ版 indie pop / rock とでもいうリリースもあります。 Istanbul Calling という "ethno electronic" のコンピレーション・シリーズも リリースしています。
Golden Horn
アメリカのカルフォルニア州 (CA, USA) にあるトルコの音楽のレーベルです。 レーベル名はイスタンブールの金角湾から。 Doublemoon 以前に Ilhan Ersahin や Mercan Dede をリリースしていました。 他にも、Barbaros Erköse や Derya Türkan などをリリースしています。 欧米でも知名度のあるトルコの jazz 寄りのミュージシャンのリリースが多いです。
Imaj
メジャー Universal (Turkey) のレーベルなのでリリースには幅があるように思いますが、 アルメニア系の Arto Tunçboyaciyan のリリースや、 Kudsi Erguner の一連のリリース (特に Empire Of Tolerence シリーズ) など、 興味深いリリースもそれなりにあります。

ざっと、こんなところでしょうか。 他にも面白いお薦めのレーベルを御存じの方がいたら、是非教えてください。

[1482] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Tue Dec 13 23:39:46 2005

先週の一連のトルコはイスタンブール (Istanbul, Turkey) の alternative な音楽の話 ([1476], [1477], [1478]) のフォローアップ。 って、この話って、ほとんど読まれていないような気もしますが……。

Kalan レーベルが推している クルド系 (Kurdish) の女性歌手に Aynur (a.k.a. Aynur Dogan) がいます。僕が彼女を知ったのは、 Orient Expressions, Divan (Doublemoon, DM0022, 2004, CD) (レビュー) ででした。その少し後に出た、彼女の2ndアルバム Keçe Kurdan (Kalan, CD293, 2004, CD) も、力強い歌唱に、楽器の音の間合いや残響、 生楽器の音を生かしたさりげないエレクトロニクスの使い方など、 Kardeş Türküler に通ずる音作りも悪くありませんでした。 バックのミュージシャンも、 Erkan Ogur、Orient Expressions の Murat Uncuoglu や Cem Yildiz、 Kardeş Türküler の Vedat Yildrim など参加していましたし。 1stアルバム Seyir (2002) を見付けて併せて、とか思っていて、 結局レビューを書くタイミングを逸してしまいましたが……。

そんな Aynur ですが、 Kardeş Türküler の新作 Bahar (Kalan, CD346, 2005, CD) にゲストで参加、 1曲 "Es Kevok Im" で歌っています。 また、新作、Aynur, Nûpel (Kalan, CD354, 2005, CD) もリリースしています。 新作は Keçe Kurdan より生楽器音厚め、 大仰に感じられて、Keçe Kurdan の方が好みの音作りかしらん……。 あと、最後に2曲 remix を収録しています。 1曲は Kardeş Türküler feat. Aynur, "Es Kevok Im" の Murat Uncuoglu (Orient Expressions) の remix です。 もう一曲は "Keçe Kurdan" の Mayki (a.k.a. Murat Başaran) の remix です。 Mayki はよく知らないのですが、Nûpel の他の曲でも何曲か MIDI bass を弾いたり、ミックスをしたりしています。 どちらも凄いというほどの仕上がりではないですが……。

しかし、folklore (民俗音楽) を演奏するグループ Kardeş Türküler と、 club music のユニット Orient Expressions が、 Aynur を介して繋がっているというのが、とても興味深いです。 それだけでなく、folklore 寄りのレーベル Kalan と jazz / club music 寄りのレーベル Doublemoon が かなり近い所で活動しているわけです。これについて、 "Alternative side of weedy-voiced pop" (Times, 2005/3/21) では、"Both Kalan and Pozitif share a rejection of the mainstream that sets them apart." と触れています (Pozitif は Doublemoon の親会社)。 Doublemoon や Kalan の界隈のイスタンブールの alternative なシーンが、 メインストリームから排除された表現が寄り集まって形成されてきた という面はもちろんあると思います。 しかし、3年近く前にも書いたことですが、 欧州の他のシーンとも連動しているようにも思います。 3年近く前には、イスタンブールのシーンとノルウェーのシーンを対比して、 Doublemoon レーベルは Jazzland レーベルのようなもの、と言ったわけですが、 同様に、Kalan レーベルは Kirkelig Kulturverksted レーベルの立ち位置に 近いと言えるように思います。