Stump は1984年頃にロンドン (London, UK) に集まってきた ミュージシャンたちが始めた indie rock/pop 4人組だ。 伝説的な編集盤 Various Artists, NME C86 (Rough Trade, ROUGH100, 1986, LP) にも参加している。 Big Flame や A Witness などの Ron Johnson レーベル所属のグループ (NME C86 にも参加している) とも似た、 オフビートな rock を演するグループだった。 Ron Johnson 在籍のバンドの中では出世頭だったものの、 A Fierce Pancake (Ensign, CHEN9, 1988, LP) を大手 Chrysalis 傘下のレーベル Ensign からリリースした後、解散してしまった。 そんな彼らの残した録音をほぼ完全に収録したアンソロジーが 解散20年後の今になってやっとリリースされた。
Barry Lazell (comp.), Indie Hits 1980-1989 (Cherry Red Books, ISBN0-95172-069-4, 1997) には Stump は "from Manchester" と書かれており、 Big Flame や A Witness と同郷の Manchester のグループなのかと思っていた。 (このレビューでもそう書いた。) しかし、このアンソロジーのライナーノーツによると、 Manchester とは関係無いようだ。 Ron Johnson レーベルの他のグループとの交流らしきものも、 ライナーノーツでは触れられていない。
Captain Beefheart や Pere Ubu の影響を感じる ギクシャクした展開と演劇的な歌唱は、 形式的には単調だった NME C86 の indie pop 主流からは外れていたが、 その分だけ、20年後の今でも新鮮に聴かれる。 このCDで初めて聴いた曲もあるのだが、 banjo を使った "The Rat" など folk/roots 的で、 こういう面もあったのかという発見もあった。 当時興隆し始めた rave movement に反したその音楽性が、 Stump が借金を残して解散する破目になった原因と Kev Hopper はライナーノーツで語っている。 しかし、その一方で、rave movement のカウンターとも言える1980代後半の indie pop (関連する談話室発言) からも外れていたことも、グループの寿命を短くしたのかもしれない。
ライナーノーツは Kev Hopper が執筆している。 そのテキスト "The Stump Story" は Kev Hopper のウェブサイトで公開されているものから "Before Stump" の章を除いたものである。これもとても興味深い。 Holger Hiller (ex-Palais Schaumburg) を制作に迎えた A Fierce Pancake は、当時は、Holger Hiller が electronics でやっている音楽を 4人組 guitar band で演ろうとしているかのような印象を受けていた。 しかし、実際の制作では、何かと「rock は死んでいる」と言う Hiller と Stump の関係は最悪だったとのこと。 結局、最初のシングル Quirk Out を制作した Hugh Jones に仕上げてもらうことになったという。
A Fierce Pancake の1曲 "Heartache" は、 Arthur Baker との活動で知られる hip hop ミュージシャン/プロデューサ John Robie が制作している。 レーベル Ensign からオファーがあるまで John Robie を知らなかったというのも凄いと思うが、 彼との関係も Hiller と同様に最悪だったようだ。 実際に仕上がった音楽は、Hiller 制作とあまり変わらなくなっている。 プロデューサとの衝突といい、 Stump はそれだけアクの強いグループだったということなのかもしれない。
ちなみに、"complete" とタイトルで謳っているが、微妙に完全ではない。 "Chaos" と "Charlton Heston" の 7″ Version、 "Charlton Heston" の The Irresistable Force による remix に相当する "Light! Comel! Action! (Charlton Heston Meets The Irresistable Force)" は収録されていない。 また、The Peel Session (Strange Fruit, SFP019, 1987, 12″) としてリリースされた 1986-02-05 放送の John Peel session 4曲 ("Down On The Chicken Table", "Orgasm Way", "Grab Hands", "Buffalo") も収録されていない。未発表曲7曲は嬉しいが、こうして洩れた曲があるのは残念だ。
10年余り前に出た Big Flame のアンソロジーCD (レビュー) も既に廃盤。 indie pop 再評価の中でもなかなか日の当たらない Ron Johnson レーベルだが、 Big Flame や A Witness のようなグループ毎のアンソロジーは無理だとしても、 レーベルのアンソロジーを是非編纂して欲しい。