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Review: Stump, The Complete Anthology
2008/06/22
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
The Complete Anthology
(Castle Music / Sanctuary, CMETD1571, 2008, 3CD)
CD1: Mud on a Colon & Quirk Out: 1)Tupperware Stripper 2)Our Fathers 3)Kitchen table 4)Buffalo 5)Everything In Its Place 6)Bit Part Actor 7)Orgasm Way 8)Ice the Levant 9)Grab Hands 10)55-0-55 11)Big End
CD2: A fierce Pancake: 1)Living it Down 2)In The Green 3)Roll The Bodies Over 4)Bone 5)Eager Bereaver 6)Choas 7)Alcohol 8)Charlton Heston 9)Heartache 10)Doctor (A Visit To) 11)A Fierce Pancake 12)Boggy Home
CD3: Post Pancake: 1)The Queen & The Pope 2)Seven Sisters 3)The Rats 4)Warm In The Knowledge 5)The Song's Remains 6)Safe Sex 7)The Lipstick Maker 8)Maggie 9)Love Is Too Small A Word 10)Ice The Levant (88 Version) 11)Thelma 12)Angst Forecast 13)Heathers In Shelter
CD1:1-6) Originally released as Quirk Out (Stuff, STUF/U2, 1986, 12″). Produced by Hugh Jones.
CD:7-10) Originally released as Mud On A Colon (Ron Johnson, ZRON6, 1986, 12″). Produced by Stump & Danny.
CD1:11) Taken from the compilation The First After Epiphany (Ron Johnson, ZRON21, 1986, LP).
CD2) Originally released as A Fierce Pancake (Ensign, CHEN9, 1988, LP). Produced by Holger Hiller, except 9) Produced by John Robie. Post-production & Mix by Hugh Jones.
CD3:10,6) Taken from B-side of the single Chaos (Ensign, ENYX612, 1988, 12″). Produced by Holger Hiller & Stump, except 10) by Hugh Jones. Post-production & Mix by Hugh Jones.
CD3:3,12) Taken from B-side of the single Charlton Heston (Ensign, ENYX614, 1988, 12″). Produced by Stump.
CD3:5,11) Taken from B-side of the single Buffalo (Ensign, ENYX619, 1988, 12″). Produced by Stump.
CD3:1,2,4,7,8,9,13) Previously unreleased.
Kev Hopper (bass), Chris Salmon (guitar), Rob McKahey (drums), Mick Lynch (vocals).

Stump は1984年頃にロンドン (London, UK) に集まってきた ミュージシャンたちが始めた indie rock/pop 4人組だ。 伝説的な編集盤 Various Artists, NME C86 (Rough Trade, ROUGH100, 1986, LP) にも参加している。 Big Flame や A Witness などの Ron Johnson レーベル所属のグループ (NME C86 にも参加している) とも似た、 オフビートな rock を演するグループだった。 Ron Johnson 在籍のバンドの中では出世頭だったものの、 A Fierce Pancake (Ensign, CHEN9, 1988, LP) を大手 Chrysalis 傘下のレーベル Ensign からリリースした後、解散してしまった。 そんな彼らの残した録音をほぼ完全に収録したアンソロジーが 解散20年後の今になってやっとリリースされた。

Barry Lazell (comp.), Indie Hits 1980-1989 (Cherry Red Books, ISBN0-95172-069-4, 1997) には Stump は "from Manchester" と書かれており、 Big Flame や A Witness と同郷の Manchester のグループなのかと思っていた。 (このレビューでもそう書いた。) しかし、このアンソロジーのライナーノーツによると、 Manchester とは関係無いようだ。 Ron Johnson レーベルの他のグループとの交流らしきものも、 ライナーノーツでは触れられていない。

Captain Beefheart や Pere Ubu の影響を感じる ギクシャクした展開と演劇的な歌唱は、 形式的には単調だった NME C86 の indie pop 主流からは外れていたが、 その分だけ、20年後の今でも新鮮に聴かれる。 このCDで初めて聴いた曲もあるのだが、 banjo を使った "The Rat" など folk/roots 的で、 こういう面もあったのかという発見もあった。 当時興隆し始めた rave movement に反したその音楽性が、 Stump が借金を残して解散する破目になった原因と Kev Hopper はライナーノーツで語っている。 しかし、その一方で、rave movement のカウンターとも言える1980代後半の indie pop (関連する談話室発言) からも外れていたことも、グループの寿命を短くしたのかもしれない。

ライナーノーツは Kev Hopper が執筆している。 そのテキスト "The Stump Story" は Kev Hopper のウェブサイトで公開されているものから "Before Stump" の章を除いたものである。これもとても興味深い。 Holger Hiller (ex-Palais Schaumburg) を制作に迎えた A Fierce Pancake は、当時は、Holger Hiller が electronics でやっている音楽を 4人組 guitar band で演ろうとしているかのような印象を受けていた。 しかし、実際の制作では、何かと「rock は死んでいる」と言う Hiller と Stump の関係は最悪だったとのこと。 結局、最初のシングル Quirk Out を制作した Hugh Jones に仕上げてもらうことになったという。

A Fierce Pancake の1曲 "Heartache" は、 Arthur Baker との活動で知られる hip hop ミュージシャン/プロデューサ John Robie が制作している。 レーベル Ensign からオファーがあるまで John Robie を知らなかったというのも凄いと思うが、 彼との関係も Hiller と同様に最悪だったようだ。 実際に仕上がった音楽は、Hiller 制作とあまり変わらなくなっている。 プロデューサとの衝突といい、 Stump はそれだけアクの強いグループだったということなのかもしれない。

ちなみに、"complete" とタイトルで謳っているが、微妙に完全ではない。 "Chaos" と "Charlton Heston" の 7″ Version、 "Charlton Heston" の The Irresistable Force による remix に相当する "Light! Comel! Action! (Charlton Heston Meets The Irresistable Force)" は収録されていない。 また、The Peel Session (Strange Fruit, SFP019, 1987, 12″) としてリリースされた 1986-02-05 放送の John Peel session 4曲 ("Down On The Chicken Table", "Orgasm Way", "Grab Hands", "Buffalo") も収録されていない。未発表曲7曲は嬉しいが、こうして洩れた曲があるのは残念だ。

10年余り前に出た Big Flame のアンソロジーCD (レビュー) も既に廃盤。 indie pop 再評価の中でもなかなか日の当たらない Ron Johnson レーベルだが、 Big Flame や A Witness のようなグループ毎のアンソロジーは無理だとしても、 レーベルのアンソロジーを是非編纂して欲しい。

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