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Review: Various Artists, Monika Bärchen: Song For Bruno, Knut & Tom; Various Artists, Monika Force; Various Artists, 4 Women No Cry Vol. 1; Various Artists, 4 Women No Cry Vol. 2; Gudrun Gut, I Put A Record On
2008/09/16
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Various Artists
Monika Bärchen: Song For Bruno, Knut & Tom
(Monika Enterpirse, monika 60, 2008, CD)
1)Robert Lippok, "The Heart Of Nuut Picked By The Crows Of Neu Koeln" 2)Èglantine Gouzy & Landini, "L.A." 3)Chica And The Folder, "Kleines Hoppla" 4)Rosario Bléfari, "Verdad" 5)Max Punktezahl, "Dashes" 6)Masha Qrella, "Goodnight Lovers" 7)Gudrun Gut, "Monika In Polen" 8)Dorit Chrysler, "Sweden" 9)Quarks, "Willkommen" 10)Lile, "Sticky Images (Ismael Pinkler Remix)" 11)Iris, "Fever" 12)Milenasong, "Streicheln" 13)Mico, "I See A Soul" 14)Michaela Melián, "Locke Pistole Kreuz (edit)" 15)Barbara Morgenstern, "Wilderness"
Collected by Uta Heller. Compiled by Gudrun Gut, Berlin, 2007.

Monika Enterprise は1997年に設立されたベルリン (Berlin, DE) の独立系レーベルだ。 electronica/indietronica をレーベルカラーとし、 女性ミュージシャンを多くリリースしていることも特徴的なレーベルだ。 去年の11月に設立10周年イベントを開催したが、 今年に入って10周年を記念するコンピレーションをリリースした。 全曲、このコンピレーション限定のトラックだ。 レーベルの歴史を振り返るような内容ではなく、 コンピレーション 4 Women No Cry シリーズで 取り上げたミュージシャンも多く収録しているなど、 むしろ現在のレーベルの方向性を切り取ったような内容だ。

音楽性も electronica 色がぐっと引いている。 1980s US indies の女性歌手のように guitar 一本で Depeche Mode, "Goodnight Lovers" を歌ってカバーした Masha Qrella や、 ささやかな電子音をアクセントに piano を控えめに弾きながら歌う Barbara Morgenstern, "Wilderness" のような曲が、むしろ耳を捉える。 もちろん、Robert Lippok や Chica And The Folder、Gudrun Gut らの electronica 色濃いトラックや、 indietronica らしい Max Punktezahl の曲も悪く無い。

indietronica というのは、Monika Enterprise や 1997年にケルン (Köln) で設立され後にベルリンに拠点を移した Karaoke Kalk (Donna Regina 等)、 1999年にベルリンで設立された Morr Music (Lali Puna 等) といったドイツの独立系レーベル界隈から出てきた、 1980s後半の indiepop のDIY的で素朴な pop の音楽性 (関連発言) と electronica 的な楽器構成を合わせたような音楽を指すジャンル用語だ。 Monika Enterprise の indietronica な面を聴くのであれば、 むしろ、3年前のこのコンピレーションの方が良いだろう。

Various Artists
Monika Force
(Monika Enterpirse, monika 40, 2005, CD)
1)Chica And The Folder, "I'll Come Running" 2)Figurine, "Connections" 3)Florida, "The Girl On The Escalator" 4)Manuela Krause + Pole, "Mein Freund Der Baum" 5)Burka Band, "Burka Blue (Barbara Morgenstern mix)" 6)Masha Qrella "I Want You To Know (Tobi Higgs mix)" 7)Komëit, "Parade" 8)Contriva, "Shadow" 9)Barbara Morgenstern, "Eine Verabredung" 10)Chica And The Folder "Daleko (Dinky mix)" 11)Contriva, "Shadow (Mo mix)" 12)Cobra Killer, "Heavy Rotation (Like A Tim mix)" 13)Robert Lippok, "Rearrange" 14)Figurine, "So Futuristic" 15)Cobra Killer, "L.A. Shaker" 16)Masha Qrella, "Hypersomnia" 17)Barbara Morgenstern, "Aus heiterem Himmel (Dntel mix)" 18)Michaela Melián, "Brautlied" 19)Komëit, "3 Hours (T. Raumschmiere mix)"
CD plus bonus video: Barbara Morgenstern, "We're All Gonna Fucking Die"
Compiled by Gudrun Gut.

Masha Qrella, "I Want You To Know (Toby Higgs mix)" や Contriva, "Shadow (Mo mix)" のような indiepop 的な曲の remix など、 indietronica らしい曲といえるだろう。 Chica And The Folder による Brian Eno, "I'll Come Running" のカバーも良い。 もちろん、Fugurine、Komëit、そして、 Monika Enterprise の看板ミュージシャンともいえる Barbara Morgenstern も indietronica らしい佳曲を提供している。

19曲目以外は既発のシングル/アルバムから取られているが、 入門的なサンプラーとして良いリリースだろう。 CD extra に収録されている Barbara Morgenstern, "We're All Gonna Fucking Die" の video clip もお薦めだ。

Monika Force のジャケットは、 両手拳銃を構える少女の写真の切抜きが、ピンクのニットの上に置かれたもの。 「モニカの力」というタイトルといい、いかにも DIY フェミニスト風。 (あまりに直球でパロディかと思う程だ。) そして、そのような所も、Monika Enterprise の気風を象徴しているように思う。

Monika Enterprise を主宰しているのは、 1980年代初頭に女性 new wave グループ Mania D 〜 Malaria! の中心メンバーとして活動を始めた女性ミュージシャン Gudrun Gut だ。 Monika Enterprise のリリースは明らかに女性ミュージシャンが多いのだが、 今年の4月に The Wire 誌に載った記事に こんな彼女の言葉が紹介されている (引用者訳)。

女性に機会を与えることが今だ不可欠だと Gut は断言する。 「女性だけで一緒に演奏するということではなく —— むしろ、男女混成のバンドだったら素晴しいと思う —— しかし、女性の発言権を保つために。」 彼女は続ける。 「ポップの業界というのは実に保守的。 実社会ではほとんどフィフティフィフティか、もしかしたらそれより少し悪いかもしれない。 けど、音楽業界というのは、ちょっと雑誌を見てみれば判るけど、男の子のクラブという感じ。 私はそういうのは嫌い。」

このような「フェミニスト・アジテータ」 (と、The Wire 誌記事はその冒頭で Gut を紹介している) としての Gut の意識の良い反映が、 Monika Enterprise のコンピレーション・シリーズ 4 Women No Cry だろう。 現在、以下の2タイトルがリリースされている。 (The Wire 誌記事によると第3弾が編纂中という。)

Various Artists
4 Women No Cry Vol. 1
(Monika Enterpirse, monika 42, 2005, CD)
Rosario Bléfari: 1)Partir Y Renunciar 2)Nunca 3)Melodia 4)Vidriera Chilena
Tusia Beridze: 5)Gorod 6)Cuet 7)Wound 8)Kursaa 9)Hextention 10)Late
Èglantine Gouzy 11)Eglantine Longe 12)Nurse Song 13)12h12 14)Zone A 15)Boa 16)Y'a Pas De Mal
Catarina Pratter: 17)Johnny Isoläschn 18)Dreamin Of Love 19)Policeman 20)Stronger Than Before
Art Direction: Uta Heller. A&R: Gudrun Gut.
Various Artists
4 Women No Cry Vol. 2
(Monika Enterpirse, monika 52, 2006, CD)
Dorit Chrysler: 1)Spring Breeze 2)Satellite 3)Chlorophyll 4)My Sweet Chimera 5)Animoso
Mico: 6)Signal Found 7)After Rain 8)Fruit Tree
Monotekktoni: 9)Operation 10)Hands Up 11)No Cry 12)Pappeln
Iris: 13)Already Ready 14)A Bath 15)Rolling Down 16)Song For A Past
Art Direction: Uta Heller. A&R: Gudrun Gut.

これらのコンピレーションは、 「これからの女性ミュージシャン」を紹介するような内容というだけでなく、 ミュージシャンの拠点も中心主義を排しているという特徴がある。 例えば、Rosario Bléfari はアルゼンチンのブエノスアイレス (Buenos Aires, Argentine)、 Tusia Beridze はグルジアのトビリシ (Tbilisi, Georgia) のミュージシャンだ。

1980年代半ばの indiepop には「地域的/非ロンドン」「女性にオープン」という 特徴があったのだが (レビュー)、 indietronica は、単に、素朴な pop という音楽性だけでなく、 こういった indiepop の気風とでもいうものにも影響を受けているように思う。

4 Women No Cry シリーズの内容は、 やはり indietronica 的な音楽性のもの。 強い個性を感じる程ではないというのも indiepop に似ているかもしれない。 フェミニンというか girlish な雰囲気を残しているのも post-feminism 的な戦略なのかもしれないが、 一歩間違えると反動的という危うさも感じてしまうのも確かだ。

Gudrun Gut
I Put A Record On
(Monika Enterpirse, monika 55, 2007, CD)
1)Move Me 2)Rock Bottom Riser (with Uta Heller & Matt Elliott) 3)The Land 4)Cry Easy 5)Girlboogie 06 6)Blätterwald 7)Last Night 8)Sweet 9)Pleasuretrain (with Manon P. Duursma) 10)The Wheel (with Manon P. Duursma) 11)Tip Tip
CD plus bonus video: Gudrun Gut & Pipilotti Rist, "Celle"
Programmed, Played, Produced & Mixed by Gudrun Gut at Good Studio, Berlin; except 7, 8, 9) Mixed by Thomas Fehlmann at LAB.
All songs written by Gudrun Gut; except 2) by Smog; 9, 10) by Gudrun Gut & Manon P. Duursma.

Gudrun Gut も去年、久々にソロをリリースしている。 Monika Enterprise からのリリースだが、indietronica 的な軽さは無い。 downtempo なバックにオフ気味な歌声がコラージュされているような感もあり、 不穏なシュールさのあるサウンドトラックのようにも聴こえる。 全ての曲に inspired by と dedicated to がクレジットされているのが面白い。 例えば、"Blätterwald" は inspired by New Order, dedicated by Kim Gordon といった具合だ。

CD extra に収録されている music video "Celle" は、 スイス (Switzerland) の女性美術作家 Pipilotti Rist とのコラボレーション GUTaRIST として制作したインスタレーション作品 "Celle Zu Zweit Selbst" (2006) のために制作されたビデオと音楽の "short edit" だ。 guitar を抱えた女性 (ちょっと riot grrrl 風) が登場するのだが、 Rist ではなく Gut が出演しているようだ (クレジットによると cast: Gudrun Gut)。

sources:
  • Monika Enterprise
  • m-enterprise (Gudrun Gut's projects)
  • Philip Sherburne. "The Life Aquatic: on Gudrun Gut". The Wire, Issue 290, pp.34-39, April 2008.
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