レバノン (Lebanon) 出身でヨーロッパで活動する oud 奏者 Rabih Abou-Khalil のリーダー作としては19作目となる最新作は、 ポルトガル (Portugal) の男性歌手 Ricardo Ribeiro をフィーチャーした作品だ。 Rebeiro は1981年生まれの若い fado 歌手だ。 そんな新作は、地中海の東端と西端の出合いと思いきや、確かに地中海風だけれども、 どこでもない架空の場所の folk/roots に基づいた jazz rock に仕上がっている。
歌詞は全てポルトガル語で、 José Luís Gordo, Mário Raínho, Rui Manuel といった作詞家が歌詞を書いている。 O Fado E Portugal というブログに掲載された Rebeiro へのインタビューに基づく 記事 によると、Silva Tavares による "Casa Da Mariquinhas" を除いて、 存命の若い世代の fado の作詞家による未発表の歌詞を選んだ、とのこと。 Rebeiro の低く押し殺したような歌い方もあまりこぶしは効かさず、 fado のようなサウダージを感じさせる所はほとんど無い。 スタンダードな fado の新たな解釈ではなく、 新しい音楽作りをしているという方が適切だろう。
バックの演奏は Godard、Biondini、Cagwin が参加していた Morton's Foot (ENJA(MW), 2003) に近い。 "No Mar Das Tuas Pernas" に対する "Ma Muse M'Abuse" のように ほとんど同じ曲想の曲もある。 Jarrod Cagwin が frame drum ではなく drum kit の snare や kick でリズムを刻み、 Godard が bass guitar を弾く、その重めのリズムは jazz rock 風ですらある。
少々重苦しい jazz rock 風の曲も悪くは無いのだが、 通して聴いて印象に残るのはむしろ軽快な曲だ。 最も気に入ったのは、歌詞の面でも例外の1曲 "Casa Da Mariquinhas"。 Abou-Khalil の刻む oud と snare 中心に刻まれる Cagwin の軽快なリズムに乗って歌う Ribeiro の歌も軽め。 それに、Biondini の細かいフレーズ、Ribeiro の詠唱を伴いながら、 Godard が吹く serpent (もしくは tuba) のソロも、 流れるようでとても気持ちが良い。