TFJ's Sidewalk Cafe > Cahiers des Disuqes >
Review: Various Artists, Auteur Labels: New Hormones 1977-1982; Various Artists, Auteur Labels: Les Disques Du Crépuscule 1980-1985; Various Artists, Auteur Labels: Factory Benelux 1980-1985; Various Artists, Auteur Labels: Object Music 1976-1981
2009/01/12
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
(LTM, LTM2492, 2008, CD)
Buzzcocks, The Tiller Boys, Ludus, Diagram Brothers, Dislocation Dance, Biting Tongues, Eric Random, The Decorators, Howard Devoto.
Liner notes by Justin Toland.
(LTM, LTM2517, 2008, CD)
Michael Nyman, Marine, Thick Pigeon, Josef K, Repetition, Bill Nelson, Paul Haig, Tuxedomoon, Ike Yard, The Durutti Column, The Names, Steven Brown, Richard Jobson, The French Impressionists, Isolation Ward, Antena, The Pale Fountains, Mikado, Anna Domino, Blaine L. Reininger, Devine & Statton.
Liner notes by Frank Brinkhuis with additional material by James Nice.
(LTM, LTM2521, 2008, CD)
The Durutti Column, Section 25, The Names, Minny Pops, Crispy Ambulance, Crowling Chaos, Stockholm Monsters, The Wake, Life, Swamp Children, Quando Quango, Nyam Nyam, Simon Topping.
Liner notes by Frank Brinkhuis.
(LTM, LTM2527, 2008, CD)
Spherical Objects, Steve Miro & The Eyes, Grow Up, Alternomen Unlimited, Warriors, Steve Miro, Contact, The Passage, Manchester Mekon, IQ Zero, Steve Solamar, The Noyes Brothers.
Archive images and label history by James Nice with contribution from Steve Solamar.

LTM は1983年に Les Temps Modernes として James Nice によって設立された イギリス (UK) の独立系レーベルだ。 1997年から post-punk 期の Factory / Les Disques Du Crépuscule レーベル界隈の リイシュー・レーベルとして精力的に活動している。 そんな LTM が、post-punk 期のインディレーベルのアンソロジー・シリーズ Auteur Labels をリリースし始めた。 タイトルの意味は、作家主体としてのレーベル。 マンチェスター (Manchester, England, UK) のレーベル New Hormones と Object Music、 ブリュッセル (Bruxelles, Belgique / Brussel, België) のレーベル Les Disques Du Crépuscule と Factory Benelux の4タイトルが 現在リリースされている。

Les Disques Du Crépuscule は様々に変遷しつつ2006年まで、 Factory Benelux は1988年まで活動を続けたが、 このアンソロジーはいずれも1985年で切っている。 洗練されてはいないが独立系レーベルとしての勢いがあった時期、という点で、これは適切だろう。 ただし、New Hormenes では Dislocation Dance、Ludus、Biting Tongues と Howard Devoto の2000年代の録音を、 Les Disques Du Crépuscule では1989年の曲 Devine & Statton, "Bizarre Love Triangle" を収録している。 これらは bonus tracks 的なものとして看做して良いだろう。

収録音源は個別に LTM がリイシューを進めているものも多く、 レア曲を多く収録したというより、有名曲中心の編集だ。 当時のレーベルの持っていた雰囲気をよく伝えており、 初めて聴く人向けのレーベル入門盤としても良いだろう。 資料的価値という点では、レコードジャケットや写真などの図版と テキストでレーベルの歴史を描く22頁のライナーノーツだ。 テキストだけであればウェブサイトでも公開されているが、図版は無い。 ライナーノーツを読みながら、図版を見てその音を聴くことができる、という点でも、 CDで持っておいても損は無いだろう。

1979年にオープンしたブリュッセルのクラブ Plan K で ブッキングを多く手掛けていた Michel Duval と Annik Honoré が 1980年に設立した Les Disques Du Crépuscule と、 マンチェスターのレーベル Factory の Tony Wilson が Duval、Honoré と設立した Factory Benelux については、 1980年代半ばには新星堂から日本盤もリリースされ、日本に紹介されていた。 しかし、マンチェスターの New Hormones と Object Music についての 情報は少かったので、とても興味深くライナーノーツを読むことができた。

New Hormones は Buzzcocks のマネージャー Richard Boon が設立したレーベルだ。 その第一弾 Buzzcocks, "Spiral Scratch" (1977) は post-punk の indie ブームの火を付けたことで知られている [関連発言]。 しかし、続いて fanzine The Secret Public (1977) を 発行した直後に活動を停止、 その後1980年に活動を再開している。 このブランクが、同じくマンチェスターのレーベル Factory の後塵を拝するきっかけになったようだ。 Buzzcocks だけでなく、Linder と Ian Devine による フェミニスティックな duo Ludus [レビュー] や、 Graham Massey (808 State) のグループ Biting Tongues など、 post-punk の文脈で重要なグループも在籍していた。 実際に音を聴いていても Factory に劣らないと思うだけに、 ポピュラリティの獲得はちょっとしたタイミングなのだな、と思う。 ライナーノーツによると、Linder の友人 Morrissey のグループ The Smiths と契約という話があったが、 既に破綻寸前だった New Hormones のリソースでは支えられないと判断して Rough Trade に振ったようだ。 その直後、Boon 自身も Rough Trade にスタッフとして迎えられ、New Hormones は活動を終えている。

Object Music は Spherical Objects の Steve Solamar が1978年に設立したレーベルだ。 Cherry Red からのリリースもある The Passage が最も知られるグループだろう。 活動期間も短く、Factory はもちろん New Hormones と比べても知名度は低い。 New Hormones のライナーノーツにもその話が出てくるが、 Object Music のライナーノーツで興味深かったのは、 Manchester Musicians' Collective (MMC) の話だ。 London Musicians' Collective (LMC) に参加していたこともあった Dick Watts (The Passage) が Trevor Wishart と1977年4月に設立したコレクティヴだ。 1975年設立の London Musicians' Collective は new music / free improv の拠点として知られるが、 MMC も設立直後は LMC と同様 free improv のミュージシャンを引きつけていた。 しかし、次第に新たに登場したシーンと同期し始めたようだ。 New Hormones の Dislocation Dance も MMC のコレクティヴから出てきたグループで、 Joy Division や A Certain Ratio も MMC が組織したギグに出演したことがあったようだ。 Object Music は MMC のコンピレーション A Manchester Collection (Object Music, OM3, 1979, LP) をリリースしており、MMCに最も近いレーベルだったようだ。 しかし、このコンピレーションを聴いていても free improv の名残はほとんど無く、 むしろ、Spherical Object にしても Magazine の影響を強く感じる post-punk だ。

LTM の Auteur Labels シリーズは今後もリリース予定がある。 どんなレーベルが取り上げられるのか楽しみだ。 Factory、New Hormones、Object Music と同世代のマンチェスターの独立系レーベルとして Object Music のライナーノーツで触れられている Rabid/Absurd が取り上げられることを期待したい。 Les Crépuscule Du Crepuscule 界隈では noise/industrial のサブレーベル L.A.Y.L.A.H. はどうだろうか。

sources: