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Review: Various Artists: Auteur Labels: Factory Records 1984
2009/08/25
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
(LTM, LTMCD2534, 2009, CD)
1)New Order: “Lonesome Tonight” 2)Stockholm Monsters: “Terror” 3)The Wake: “Talk About The Past (7″ edit)” 4)Section 25: “Reflection” 5)Marcel King: “Reach For Love (New York Remix)” 6)52nd Street: “Can't Afford (Unorganised Mix)” 7)Quando Quango: “Atom Rock” 8)Shark Vegas: “Pretenders Of Love” 9)Abecedarians: “Smiling Monarchs” 10)Red Turns To: “Deep Sleep” 11)The Durutti Column: “Duet (Without Mercy)” 12)Kalima: “The Smiling Hour” 13)Simon Topping: “Chicas Del Mundo” 14)Streetlife: “Act On Instinct (Hot Swedish Mix)” 15)Lavolta Lakota: “A Prayer”
Compilation curated by James Nice.

post-punk の独立系レーベル Factory / Les Disques Du Crépuscule 界隈のリイシューを精力的に行っている レーベル LTM による レーベル・アンソロジー・シリーズ Auteur Labels、 第5弾のテーマは 1984年の Factory レーベルだ。 収録されている曲は1曲を除き全て1984-85年に Factory もしくは Factory Benelux からリリースされたもの。 Shark Vegas: “Pretenders Of Love” のみ コンピレーション Young, Popular & Sexy (Factory US, FACTUS17, 1987, LP) 収録曲だが、1984年頃に録音されたもののようだ。

このコンピレーションに収録された1984-85年というのは、 設立時のディレクターの1人だったプロデュースの Martin Hanette が抜けた後、 そして、Happy Mondays などレイヴ (rave) の影響を受けたグループが登場する前。 Be Music (New Order)、そして DoJo (Donald Johnson, A Certain Ratio) が、 Factory のプロダクションの多くを担い、 synth-pop / funk / electro hip-hop 的な音を作っていた頃だ。 実際、収録された15曲中9曲で Be Music がプロデュースにクレジットされている。 それ以外も New Order や A Certain Ratio の関係者によるプロデュース。 室内楽的な The Durutti Column: “Duet (Without Mercy)” が 最も異質な収録曲だ。 そんな、New Order と A Certain Ratio がレーベルのカラーを決めていた、 最もはっきりとした個性が感じられた1984-85年頃の Factory レーベルを取り出してみせている。 アンソロジーの切り口は明確だ。

しかし、LTM の James Nice が曲解説を担当した Factory のアンソロジー Factory Records: Communications 1978-92 (Rhino UK, 564-69789-0, 2008, 4CD+book box set) が今年の頭にリリースされたばかり。 この box set でも、この時代の曲がCD 1枚半程を占めていた。 また、1980年代半ばの Be Music や DoJo のプロデュースした曲を集めたコンピレーションとして、 Cool As Ice (LTM, LTMCD2377, 2003, CD) と Twice As Nice (LTM, LTMCD2398, 2004, CD) の2タイトルを LTM は既にリリースしている。 それらとの重複はヴァージョンの違いを無視しても3曲のみというのは、 フォローしてきたファンには有り難いが、重箱の隅という印象も否めない。 Auteur Labels: Factory Records 1984 は、 さらに聴き進めたい人向けのアンソロジーだろう。

そういうファン向けとしたら、聴き所のあるアンソロジーだ。 Abecedarians、Red Turns To、Streetlife、Lavolta Lakota のような、 今までアンソロジー等でも顧みられることのなかった知名度の低いグループの曲を聴くことができる。 特に、Red Turns To: “Deep Sleep” は 1980年代初頭 Depeche Mode 的な synth pop、1980年代後半のドリーミーや Wire、 そしてももちろん制作の Be Music (New Order) の要素が同居するような曲で、 とても気に入った。 まだまだ、Be Music プロデュースの知られざる名曲があるのかもしれない。

もちろん、James Nice の曲解説は丁寧なもので資料的な価値もある。 Alan Goes To Moscow poster (Factory, FAC126, 1984, poster) に基づくジャケットデザインも、的を射ている。 これからも Factory 界隈の音源を丁寧にリイシューし続けて欲しい。