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Review: Various Artists: Factory Records: Communications 1978-92
2009/02/11
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
(Rhino UK, 564-69789-0, 2008, 4CD+book box set)
CD1)1 1978-1981: 1)Joy Division: “Digital” 2)Cabaret Voltaire: “Baader Meinhof” 3)A Certain Ratio: “All Night Party” 4)Orchestral Manœuvres In The Dark: “Electricity (original version)” 5)Joy Division: “She's Lost Control” 6)The Distractions: “Time Goes By So Slow” 7)Joy Division: “Transmission” 8)The Durutti Column: “Sketch For Summer” 9)Crispy Ambulance: “Deaf” 10)Joy Division: “Love Will Tear Us Apart” 11)A Certain Ratio: “Shack Up” 12)Section 25: “Girls Don't Count” 13)Crawling Chaos: “Sex Machine” 14)A Certain Ratio: “Flight” 15)The Names: “Night Shift” 16)New Order: “Ceremony (original version)” 17)Minny Pops: “Dolphin's Spurt” 18)John Dowie: “Its Hard To Be An Egg” 19)Section 25: “Dirty Disco”
CD2)2 1981-1984: 1)New Order: “Everything's Gone Green” 2)Tunnel Vision: “Watching The Hydroplanes” 3)The Durutti Column: “Messidor” 4)A Certain Ratio: “Knife Slits Water (LP version)” 5)Royal Family And The Poor: “Art On 45” 6)Swamp Children: “Taste What's Rhythm” 7)New Order: “Temptation” 8)52nd Street: “Cool As Ice” 9)New Order: “Blue Monday” 10)Cabaret Voltaire: “Yashar (John Robie remix)” 11)Quando Quango: “Love Tempo” 12)The Wake: “Talk About The Past”
CD3)3 1983-1987: 1)New Order: “Confusion” 2)Marcel King: “Reach For Love” 3)Section 25: “Looking from A Hilltop (Restructure)” 4)Stockholm Monsters: “All At Once” 5)Life: “Tell Me” 6)The Durutti Column: “ A Little Mercy (Duet)” 7)James: “Hymn From A Village” 8)Kalima: “Trickery” 9)A Certain Ratio: “Sounds Like Something Dirty” 10)Quando Quango: “Genius” 11)Happy Mondays: “Freaky Dancin'” 12)Miaow: “When It All Comes Down” 13)The Railway Children: “Brighter” 14)Biting Tongues: “Compressor” 15)New Order: “True Faith” 16)Happy Mondays: “24 Hour Party People”
CD4)4 1988-1992: 1)New Order: “Fine Time” 2)Happy Mondays: “W.F.L. (Think About The Future)” 3)Revenge: “Seven Reasons” 4)Happy Mondays: “Hallelujah (Club Mix)” 5)Electronic: “Getting Away With It” 6)Happy Mondays: “Step On” 7)Northside: “Shall We Take A Trip” 8)New Order: “World In Motion” 9)Happy Mondays: “Kinky Afro” 10)The Durutti Column: “Home” 11)Electronic: “Get The Message (DNA remix)” 12)Northside: “Take 5” 13)Cath Carroll: “Moves Like You (remix)” 14)The Other Two: “Tasty Fish (12″ mix)” 15)Happy Mondays: “Sunshine And Love (Lionrock remix)”
Compiled by Jon Savage. Contributed by Paul Morley, James Nice.

Factory は post-punk の1978年に 当時 Granada TV のレポーターだった Anthony Wilson (Tony Wilson) が設立した イギリス・マンチェスター (Manchester, UK) の独立系レーベルだ。 New Order や Happy Mondays というヒットした rock/pop のグループを擁し、 1980年代のマンチェスターの音楽シーンの核となったレーベルだ。 その活動は 24 Hour Party Peaple (dir. Michael Winterbottom, 2002) として映画化されてもいる。 その1992年の倒産までの15年の活動をCD4枚にまとめた box set が Warner Music 傘下のリイシュー専門レーベル Rhino UK からリリースされている。 主要な曲をほぼ押えた選曲、Factory レーベルのイメージを継承したデザイン、 情報をしっかり載せた本と、丁寧な作りのアンソロジー box set だ。お薦め。

選曲は Jon Savage。 Savage といえば London punk の展開を綴ったドキュメンタリー本 England's Dreaming (1991) の著者として知られる音楽評論家だが、 Joy Division 関連の仕事も多い。 アンソロジー Heart And Soul (London, 828 968-2, 1997, 4CD+Book) [レビュー] を選曲・編集し、 ドキュメンタリー映画 Joy Division (dir. Grant Gee, 2007) ではインタビュー・脚本を担当している。 また、Paul Morley がエッセーを寄稿している。 Morley は1980年前後に New Musical Express のライターとして活動し、 1983年にZTTレーベルを設立したことで知られるが、 New Order のドキュメンタリー・ビデオ New Order Story (1993) [レビュー] では脚本を手がけていた。 収録曲の解説を書いている James Nice は、 1997年以来 Factory / Les Disques Du Crépuscule 音源のリイシューを 精力的に行っているレーベル LTM [レビュー] の主宰者だ。 box set のデザインを手掛けるのは Factory レーベルの多くのデザインを手掛けていた Peter Saville の デザイナー集団 Saville Parris Wakefield と、 Factory のデザイン・アンソロジー本 Factory Records: The Complete Graphic Album (Thames & Hudson, 2006) [レビュー] を編集した Matthew Robertson だ。 現時点で考え得るほぼベストの顔ぶれで制作されたアンソロジーだ。

Factory のアンソロジーとしては、倒産直前の1991年にリリースされた Palatine: The Factory Records Story 1978-1990 (Factory, FACD400, 1991, 4CD+book box set) がある (ちなみに、LP版も存在する)。 このリイシューをしようと Warner が Savage に持ちかけた話が企画の始まりだったが、 結局、新たに選曲し直している。その理由は、 Palatine で 1枚ごとに立てられた4つの選曲のテーマがいささか気まぐれであり、 さらに、1枚あたりの収録時間が短いことだという。 Factory Records: Communications 1978-92 はテーマ別を排し、ほぼ年代順となっている。 Factory の第一弾シングル A Factory Sample (Factory, FAC2, 1978, 2×7″) からの曲を最初に置き、 レーベル最後のリリースとなった Happy Mondays の Sunshine & Love (Factory, FAC372, 1992, 12″) からの曲で終えている。 この2曲の違いに Factory の辿った歴史を象徴させるような選曲だ。

選曲はアルバムやシングルとしてリリースされた代表的な曲を中心に据えたもの。 年代順の編集方針に合わせて、複数のバージョンがある曲については最初にリリースされたバージョンを収録している。 また、Factory ヨーロッパ支部ともいえるレーベル Factory Benelux からリリースされた曲も いくつか収録している。 レアだがローファイなライブやデモの音源は使われておらず、音質に問題はない。 同時代で追っていた者にとって新たな発見があったという程ではないが、 名曲揃いで聴いていて掴まれる内容だ。 曲を追いながら時代の雰囲気とその変化を感じることもでき、入門盤として良いだろう。

選曲の核となるのは、やはり、Joy Division / New Order と Happy Mondays だ。 彼らの曲だけで全61曲中22曲と1/3余りを占めている。 しかし、それでも、エンディングで象徴的に使われることが多かった Joy Division の “Atmosphere” や、 多くカバーされている New Order の名曲 “Bizarre Love Triangle” などが、 選から漏れている。 Savage も認めているように、“greatest hits” 的な基準で選曲したら、 ほぼ New Order と Happy Monday だけのコンピレーションとなってしまうだろう。 むしろ、“Ceremony” (1980) から “Confusion” (1983) にかけての曲を丁寧に追った New Order からの選曲は、 punk 色濃い Joy Division から electro のビートを使った脱 punk の試みを 追うのに適切だ。

そして、残り 2/3 の選曲は、CD1の1981年頃までは post-punk 色濃い rock/pop が中心だ。 CD2からCD3にかけての1986年頃までは、 Be Music (New Order) や DoJo (Donald Johnson, A Certain Ratio)、 もしくはニューヨーク (New York, USA) の Arthur Baker や Mark Kamins のプロデュースで funk / electro hip-hop の要素を採り入れダンス指向を強めていく [レビュー]。 そして、1987年以降のCD3後半からCD4にかけて、 Happy Mondays が登場しレイブ (rave) の影響を強く感じるようになる。 Be Music や DoJo のプロデュースが消え、 Happy Mondays のリミックスを手がけるのも Paul Oakenfold や Lionrock だ。

一方で、Joy Division と Happy Mondays を結ぶ線から外れるような曲があまり選ばれていない。 The Durutti Column からは4曲選ばれており、展開にメリハリを付けているが。 Palatine に収録されていた曲と比較しても、 例えば、アルジェリア (Algeria) のライ (raï) の女性歌手 Cheba Fadela のヒット曲 “N'Sel Fik” や、 Louis Andriessen に師事した contemporary classical の作曲家 Steve Martland の “The World Is In Heaven” のような曲が外されている。 確かに、Palatine より選曲のポリシーが明確なのは良いと思うし、 CD4枚に収録できる曲には限りもある。 しかし、こういった音楽もリリースしていた事が Factory の多様性を作っていただけに、 収録されなかったのは少々残念だ。 また、ニューヨーク (New York) のグループ ESG の “You're No Good” が選から漏れたが、 その一方で、Palatine には収録されていなかった ベルギー (Belgique / België / Belgium) の The Names や オランダ (Nederlands / Netherlands) の Minny Pops のようなグループが収録されている。 Factory Benelux 音源の使用といい、ヨーロッパとの関係にウェイトが置かれたようだ。

この box set には、ほぼDVDケース大の72頁の本が付いている。 見開きの写真ページが章区切りのように使われているが、 他の図版は収録曲のオリジナルのレコードジャケットのサムネイルだけだ。 この本に、7ページのPaul Morley のエッセー、 32ページにわたるJames Nice の曲解説、 そして、ジャケットのサムネイルを含む収録曲のクレジットを収録している。

“The Essay of November 4th 2008” と題された Paul Morley のエッセーは、Factory の15年の歩みを物語るものではない。 「世間にとって、大抵の場合、Factory とは Madchester であり、 24H Party People であり、栄光と麻薬と混乱だ」とエッセー中で触れ、 あえてそのような話は避けている。 Factory の音楽出版会社 The Movement of 24th January の名前を手懸りに、 そのルーツにある Situationist 的な面を描いている。 その音楽出版会社の名前は、 Factory の起源となる会話を Tony Wilson が共同設立者の Alan Erasmus とした1978年1月24日に因んだものだが、 1968年のパリ五月革命 (Mei 1968) に先立って発生した学生運動 Mouvement du 22-Mars (Movement of 22nd March) に倣ったものだ。 さらに、Morley は18世紀末フランス革命 (Révolution Française) 時に Les Enragés (過激派) を結成した Jacques Roux までそのルーツを遡っている。

Factory の Situationist からの影響は、The Durutti Column のアルバム The Return Of The Durutti Column (Factory, FACT14, 1979, LP) のタイトルが Situationist の Andre Bertrand のコミック Le Retour De La Colonne Durutti (1966) [Cerysmatic Factory] から採られた [レビュー] ことからも知られていた。 Simon Reynolds の本 Rip It Up And Start Again: PostPunk 1978-1984 (2005) でも Factory の Situationist 的な面への言及があった。 しかし、The Movement Of 24th January の名前の由来は、この Morley のエッセーで初めて知った。 Jon Savage や Simon Reynolds に比べて大げさな言い回しの多い Morley の文体は少々苦手だし、 フランス革命時の Roux まで遡るのは大風呂敷を広げ過ぎ (Dada から Situationist を経て punk に至る地化水脈を描いた Greil Marcus の本 Lipstick Traces (1990) ですら20世紀までだ) とは思うけれども、とても興味深く読むことができたエッセーだった。

歴史を語る役割を担っているのは、James Nice の曲解説だ。 解説はグループ、ミュージシャンごとではなく曲ごとで、 当事者の言葉を引きつつその制作時のエピソードを紹介している。 年代順に並べられた曲に沿って、そのようなエピソードが並ぶことにより、 そこから Factory の歩みが浮かびあがるようになっている。 プロデューサー Martin Hannett を Joy Division のメンバーは嫌っていた、 というよう音楽に関わる人間関係の話だけでない。 New Order: Blue Monday (Factory, FAC73, 1982, ″) の初期バージョンで使われていた 打抜きを使い Emulator 用5&Prime floppy disk を模したジャケットは費用がかかり、 New Order との利益折半の中に印刷物費用を含まない契約もあって、 1枚あたり3.5ペンスの損失が Factory に出ていた、というような金にまつわるエピソードも書かれている。

最も印象に残ったエピソードは、 Joy Division の代表曲とも言える “Love Will Tear Us Apart” のメロディの一部は 同郷マンチェスターのグループ Manchester Mekon の “The Cake Shop Device” のメロディーを許可を得て使ったものだったというもの。 この Manchester Mekon の曲は、 Auteur Labels: Object Music (LTM, LTM2527, 2008, CD) [レビュー] で聴くことができる。そのメロディは確かに似ているけれども、まったく同じという程ではない。 Auteur Labels: Object Music のライナーノーツでも James Nice はこのエピソードに触れているのだが、 レビューで紹介し忘れたので、こちらで紹介。

CD4枚と本を納めるケースは、縦に本を取り出すブックケースを中央に CD2枚収納のDVDケース大のデジバックケースを左右に繋げた、三つ折りのもの。 表紙の絵は第一弾シングル A Factory Sample の裏ジャケットから採られ、 銀字に黒という色使いもそれに倣っている。 しかし、使われたイラストは表紙だけで、色使いも黒、銀にCDレーベル面のミントグリーンが加わるだけ。 タイポグラフィのみのミニマルなグラフィック・デザインだ。 Rhino UK からのリリースだが、 リイシューやアンソロジーにおける信頼の目印にすらなっている Rhino の赤いロゴすら付けられていない。 バーコードも剥せるようにリムーバブルなシールになっている徹底ぶりだ。 このようなミニマルなグラフィック・デザインと、 デザインへのこだわりも、Factory のイメージをよく継承している。

このように、Factory Records: Communications 1978-92 は、 非常に丁寧に作られたアンソロジーだ。 今から Factory を聞き進めてみたいという人への良い入口だ。 それだけではなく、Factory の昔からのファンにとっても持っておく価値が十分にある内容だろう。

比較参考までに、Palatine の収録曲等の情報も、以下に載せておく。

Various Artists
Palatine: The Factory Records Story 1978-1990
(Factory, FACD400, 1991, 4CD+book box set)
CD1)Tears In Their Eyes (FACD314): 1)Joy Division: “Transmission” 2)Orchestral Manoeuvres In The Dark: “Electricity” 3)A Certain Ratio: “All Night Party” 4)The Durutti Column: “Sketch For Summer” 5)X-O-Dus: “English Black Boys” 6)ESG: “You're No Good” 6)Joy Division: “Love Will Tear Us Apart” 7)James: “Folklore” 8)A Certain Ratio: “Flight” 9)Section 25: “New Horizon” 10)New Order: “Ceremony” 11)Stockholm Monsters: “Happy Ever After” 12)Quando Quango: “Tingle”
CD2)Life's A Beach (FACD324): 1)A Certain Ratio: “Shack Up” 2)New Order: “The Beach” 3)Section 25: “Looking From A Hilltop” 4)A Certain Ratio: “Skip Scada” 5)Kalima: “Sparkle” 6)Marcel King: “Reach For Love” 7)Cabaret Voltaire: “Yashar” 8)52nd Street: “Cool As Ice” 9)New Order: “Confusion” 10)Fadela: “N'Sel Fik” 11)Quando Quango: “Genius” 11)Happy Mondays: “24 Hour Party People”
CD3)The Beat Group (FACD334): 1)Joy Division: “Wilderness” 2)Tunnelvision: “Watching The Hydroplanes” 3)The Distractions: “Time Goes By So Slow” 4)The Wake: “Talk About The Past” 5)Stockholm Monsters: “Partyline” 6)Happy Mondays: “Kuff Dam” 7)New Order: “Age Of Consent” 8)The Railway Children: “Brighter” 9)The Durutti Column: “Otis” 10)Miaow: “When It All Comes Down” 11)Revenge: “Seven Reasons” 12)James: “Hymn From A Village”
CD4)Selling Out (FACD344): 1)New Order: “True Faith” 2)Happy Mondays: “WFL (Think About The Future)” 3)The Durutti Column: “The Together Mix” 4)Northside: “Shall We Take A Trip” 5)New Order: “World In Motion” 6)Steve Martland: “The World Is In Heaven (classical version)” 7)Electronic: “Getting Away With It” 8)The Wendys: “Pulling My Fingers Off” 9)Cath Carroll: “Moves Like You” 10)Northside: “My Rising Star” 11)Happy Mondays: “Step On (Remix '91)” 12)Joy Division: “Atmosphere”
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