Porta Chiusa (イタリア語で「閉じられた扉」) は、 jazz/improv の文脈でスイスを拠点に活動する clarinet 奏者 Paede Conca のプロジェクトだ。 正直、Conca はほとんどフォローしていなかったのだが、 Koch-Schütz-Studer [レビュー] で知られる Hans Koch も参加しており、 演奏だけでなくビデオ作品の投影を含むプロジェクトという興味もあって観てきた。 形式的にはビデオ投影に合わせて3人のミュージシャンが演奏するというもので、斬新さは無かった。 しかし、ヨーロッパにおける難民認定/移民不法滞在の問題を主題とした興味深い1時間のステージだった。 「閉じられた扉」というプロジェクトの名前も納得だ。
演奏は作曲に基づくもののようであったが、抽象的なテクスチャーを多用するもので、 glitch/click な electronica を clarinet で模して演奏しているよう、と感じる時もあった。 ビデオは3本。 まずは、目隠しをしたパフォーマー (Giovanni Di Stefano) が硝子の扉を 黒のオイルチョークで塗りつぶしていくパフォーマンスを捉えたビデオだ。 両面から捉えたビデオを並べたもので、次第に閉ざされていく様子が淡々と写し出される。 続いて、Heike Fiedler による白黒ミニマルな視覚詩のようなものが投影された。 ヨーロッパにおける移民不法滞在/に関連するような単語 (自分が判る範囲で英語、フランス語、ドイツ語の単語があった) を配置したもの。 そして、最後はチューリヒ (Zürich, CH) 空港で 難民認定申請者の本国送還の様子を取材撮影した映像に基づく作品だ。 音無しの映像でどういう状況なのは正確には掴みかねたが、 入管収容所や護送の様子などが映し出されていく。 そして、抽象的な clarinet の音も、この映像の緊張感に合っていたし、 これが最後だったために全体もぐっと引き締まったものになったように思う。 今年に入って日本の入管収容所で頻発しているハンストのことを思い出したりもした。 雄弁に問題を訴える作品ではないし、その理解が深められたわけでもないが、 問題の孕む静かな緊張が伝わってきたようにも感じた。
Porta Chiusa はCDのリリースは無いようだが、Conca、Koch の2人と Viktoria Frey [レビュー] の2人による Sabina Meyer / Hans Koch / Paed Conca / Fabrizio Spera: Thau (Die Schachtel, ZEIT Imp1.1, 2004, CD) というCDを入手してみた。 一通り聞いてみたが、free improv 的な演奏が収録されているが、 drums や voice も入り Porta Chuisa ほどテクスチャー的ではない演奏だ。 ちなみに、Conca と Spera は1990年代から Blast 4tet という グループでも活動している。Cuneiform レーベル等からリリースがある他、 2001年には来日し横濱ジャズプロムナード等で演奏している (この時は残念ながら見逃したが)。