Viktoria Frey はイタリア (Italy) の jazz/improv の文脈で活動する ミュージシャンたちによる女性歌手をフィーチャーした Bertolt Brecht 作詞 Hans Eisler 作曲の歌を演奏するプロジェクトだ。 (一曲、Kurt Weill 作曲の曲を演奏している)。 Brecht の歌を強い歌声で聴かせるというより、 free jazz/improv 的な少々抽象的な展開も見せる 変則的な編成が生きた演奏が楽しめる作品に仕上がっている。
この作品の面白さは、trombone、piano、drums という変則的なバッキングだ。 特に、Italian Instabile Orchestra はもちろん、 Carlo Actis Dato、 Alberto Mandarini との Brasserie Trio や Pino Minafra の Sud Ensemble で活動する Lauro Rossi による trombone が良い。 曲の旋律をきれい吹くようなときはほとんどなく、 むしろ、少々強めに吹かれたひょうきんさも感じる音出しで、 歌声に絡んでいくという感じだ。 piano や drums はもっと伴奏らしいが、それでも、 free jazz 的なドシャメシャな展開になる時もある。 そういう時の Fabrizio Pugilsi の強い piano の音もカッコよい。 特に free jazz 的な展開の中から強い歌唱を浮かびあがってくる "Bettellied" が 気に入っている。
Sabina Meyer は スイス出身の女性歌手で、 jazz というより improv での文脈での活動が多いようだ。 このCDでしか聴いていないが、正直に言って、 もう少し低く抑えた声の方が Brecht / Eisler に似合うような気もするし、 バックの演奏同様にもっと抽象的なヴォイシングを聴かせてくれても いいようにも感じるときもあった。 しかし、強い歌声から、音出しの間合いを生かしたギクシャクした演奏になるのに合わせ 抽象的なヴォイシングなども聴かせる "Punzererschiacht" など、気に入っている。
この作品をリリースしているのは、 イタリア公共放送 RAI (Radiotelevisione Italiana) の 出版部門 Rai Trade が 昨年2006年に設立した jazz のレーベル Tracce だ。 まだリリースは多くないし、多くは聴いていないが、カタログを見ると、 この Viktoria Frey をはじめ、Butch Morris の Conduction、 Joe McPhee、Sabir Mateen / Daniel Carter など free jazz/improv 色濃い意欲的なラインナップだ。 今後の展開に期待したい。
そんな Rai Trade / Tracce のカタログの中からもう一タイトル、歌物を簡単に紹介。
William Parker は、 Cecil Taylor の The Feel Trio や Peter Brötzmann の Die Like A Dog Quartet、 そして最近の AUM Fidelity や Thirsty Ear といった レーベルからの一連の作品など、 ニューヨーク (New York, NY, USA) の free jazz の文脈で活躍する bass 奏者だ。 彼は、最近、R & B 〜 soul の歌手/ソングライター Curtis Mayfield の 歌を演るプロジェクトをやっている。 このプロジェクトは詩人・音楽評論家として知られる LeRoi Jones こと Amiri Baraka をフィーチャーしており、"People Get Ready" に乗せて Baraka が詩を朗読するなど、 明確に1960年代公民権運動を意識した内容だ。 この作品はそのプロジェクトのローマ (Roma, IT) での2002年のライブを収録したものだ。
Parker & Drake のお馴染強力リズム隊に、piano も Dave Burrell と、 かなり強面するメンバーで、 William Parker のグループ In Order To Survive 等で聴かせる Cecil Taylor 直系 free jazz 的展開を期待してしまうのだが、 伴奏的な演奏が多く free jazz 的な展開は少め、 比較的普通の soul 風 jazz vocal 物に聴こえるときもあるのは残念。 (ちなみに、フィーチャーしている女性歌手は William Parker, Raining On The Moon (Thirsty Ear, THI57119.2, 2002, CD) でもフィーチャーされていた Leena Conquest。) 面子からするともっと出来るだろうと思ってしまうけれど、 "People Get Ready" の後半で熱い free jazz 的な展開や、 エンディングの "Freddy's Dead" での一体感を感じるような祝祭的な盛り上がりなど、 良いと感じる所もそれなりにある佳作だ。
ちなみに、2006年9月7日、フェスティバル Jazz à la Villette (Paris, FR) での "The Inside Songs Of Curtis Mayfield" のライブ映像の断片を YouTube で観ることができる (⇒YouTube)。 しかし、短い上画面がとても暗く、雰囲気が判るという程度でも無いのは、少々もどかしい。
William Parker 関連の作品については今までも沢山レビューしてきている。 参考までに、その中から主要なものを次に挙げておく: Cecil Taylor (1995年)、 David S. Ware Quartet (1995年)、 William Parker In Order To Survive (1996年)、 William Parker, etc (1997年)、 Davis S. Ware, William Parker (1999年)、 Peter Brötzmann Die Like A Dog Quartet (1999年)、 Spring Heel Jack (2001年)、 Organic Grooves (2002年)。