今年で3年目となる JAZZ ART せんがわ。 jazz と銘打ってはいるけれども、 jazz に限らず様々なアンダーグラウンドな音楽の文脈から出て来た即興のセッションを得意とするような 日本のミュージシャンを集めたフェスティバルとして、定着つつあるように思う。 一昨年、昨年は、他のイベントとの重なりもあって、ステージを1つ観ただけだった。 今年はゆっくり仙川に腰を据えて、初日金曜の晩と、土曜の午後以降の せんがわ劇場でのステージを観ることができた。 いくつかのステージを続けて観て、単に先鋭的というだけではない、 このフェスティバルのラインナップの多様さというか懐の広さを感じることができたように思う。
以下、観たステージのそれぞれについて、簡単にコメント。
初日金曜の晩は、詩の朗読、ライブ・ペインティング、舞踊などを含む パフォーミング・アーツのセッションが集められていた。
金曜の晩に観ることができたのは、このセッションの途中から。 自分にとって 荒井 良二 といえば NHK教育『プチプチアニメ』枠で放送されている 『すきまの国のポルタ』 の印象が強いので、 Haco の歌に合わせてそんな絵を描いていくような、少々緩めの展開を予想していた。 しかし、そんなことはなく、坂本 も鉛筆やドリルを使うなどの荒い演奏も見せ、テンションは高め。 荒井の描く絵も、抽象表現主義のよう。 予想を裏切られたところを楽しんだけれども、これはこれで即興のクリシェでは、と少々引っかかった。
初日トリを努めたのは、大物3人によるセッション。 梅津 や 山下 の演奏はもちろん、田中 の最近の場踊りなども観たことがある。 そんなこともあり、確かに、斬新なものを観たという感じで無かった。 それでも、最前列で観たこともあって、その静かに迫ってくる迫力が充分に堪能できた。 梅津 &山下 の演奏も、どしゃめしゃ熱狂的というよりも、少々抽象的に抑えた感じの音出し。 その音が、田中 のひきつったような、そして時折大きく空間を切り裂くような動きに、合っていた。
土曜は体力温存のため、午後のこのステージから見始めた。
レギュラーの 大坪 寛彦 (bass) に代わりにゲストに Gideon Juckes の tuba を加えての Warehouse。 ちょっと懐かしいような可愛らしいメロディを持つ曲を、 effect や特殊な音出しも控えめなアクセントに、guitar と vib で弾いていく。 そんな演奏に、ゲストの tuba の音が加わり、よりユーモラスになったよう。 弦楽器、打楽器、管楽器の最小限の編成ながら、その役割分担から自由な展開の演奏が楽しめた。 こういう編成の妙が楽しめる演奏はかなり好みだ。
藤井 郷子 + 田村 夏樹 のライブはそれなりに観ているけれども、ビックバンドを観るのは初めて。 確かにアクの強そうなミュージシャンを揃えたビックバンドで、 管楽器が吹きまくるような展開や、Churko の歪んだ guitar 音などから、 音圧の迫力を感じた時もあった。 しかし、ソロに他の管楽器の音を重ねて brass & wind 的な管楽器の音のテクスチャを作り出していくような展開もあり、 アンサンブルの妙もあるビックバンドが楽しめた。
せんがわ劇場のステージの入れ替え時間の間、ふらふら街中を歩いていて、 Club Jazz 屏風 のパフォーマンスを観ることができた。 夕方のお買物で賑わうスーパーマーケットの隣の公園という場所もあって、 人垣が出来るという程ではないものの、腰掛けて観ている親子連れがけっこういた。 ヤマねこさん + 林 加奈 他 melodica 数名 に guitar × 2 + darbuka からなるリズム隊を加えた編成で、 少々緩めの軽快な演奏。 子供にまじって公園で座ってのんびり観るのに、雰囲気もぴったりだった。
JAZZ ART せんがわ 設立メンバー、という程度の予備知識しかなかったが、 際物っぽさを感じさせない正統派ながら free の要素も濃い jazz piano trio が楽しめた。 アコースティックでギミック無しながら楽器がとてもよく鳴っていたのが気持ちよかった。 こういうグループばかりではフェスティバル的な祝祭感覚に欠けそうにも思うが、 こういうグループがプログラムに入っているとぐっと引き締まる。
土曜のトリは、この 坂田 明 らの4tet。 関西のアンダーグラウンド・ロックのグループ Afrarimpo のPIKA☆の drums の癖もあってか、 jazz というよりも、ラウドでサイケデリックというか魔術的グロテスクなインストゥルメンタルの rock に、 坂田 明 の sax や voice をフィーチャーしたようだった。 勢いだけで持っていった感も少々あったが、これもフェスティバルらしいセッションだったかもしれない。 しかし、前から2列目で観ていたのだが、周囲が皆、昔からの 坂田 明 のファンと思われる客で、 その根強い客層に感心させられてしまった。
このトリの 坂田 明 らの演奏と 藤原 清登 NY Trio Original との振幅も大きかったが、 この振れ幅が JAZZ ART せんがわ の先鋭的な指向性と懐の広さの絶妙なバランスを感じたようにも思う。
メインの会場の音楽プログラムだけでなく、その他の面も充実してきている。 今年から、チケット半券提示で、仙川商店街の23店舗で割引などのサービスを受けられるようになった (東京アートミュージアムの入館料割引も含む)。 ステージの合間の時間の過ごし方という点で、このようなサービスの充実は非常にありがたい。 共同開催という形で、2店舗 (キックバックカフェ、アトリエディンドン) では、関連するライブも行われていた。 東京アートミュージアムやブラザギャラリーの展示・イベント企画にも連動するものがあれば、より面白くなりそうだ。 このような広がりを見せている所から、このフェスティバルが根付いてきていることを感じられた。 親しみやすいとは必ずしも言い難い音楽を集めたフェスティバルが、 こうして3年も続き、根付いてきているというのは、素晴らしいと思う。