1980年代旧ソ連時代からレニングラード (Ленинград, SU; 現サンクトペテルブルグ (Санкт Петербург, RU)) の underground な rock と jazz の文脈でそれぞれ活動を続ける Леонид Фёдоров [Leonid Fedorov] と Владимир Волков [Vladimir Volkov]。 2人は Зимы Не Будет (Manchester File, CDMAN049, 2000, CD) 以来、 デュオもしくは2人を核としたプロジェクトでのリリースを続けている。 そんな彼らの新作はニューヨーク (New York, US) とモスクワ (Москва, RU) で録音、 NY downtown / Brooklyn の jazz/improv シーンで活躍する John Medeski (Medeski Martin & Wood) と Marc Ribot を加えた4人名義でのものだ。
Leonid Fedorov 率いる rock グループ Аукцыон [Auktyon] は2006-7年にニューヨーク録音でアルバム Девушки Поют [Girls Sing] (Геометрия (Geometry), GEO 012 CD, 2007, CD) [レビュー] を制作しており、このアルバムに Volkov、Medeski、Ribot も参加していた。 Разин Рим и Лев [Razin Rim i Lev] はその続編とも言える作品だ。
Fedorov は自分で作詞をするシンガーソングライターではない。 Auktyon の主要な作曲者だが、作詞はほとんど手掛けていない。 Fedorov & Volkov の一連の作品でも、曲こそ自作もするが、 Auktyon の歌詞を多く手掛ける Дмитрий Озерский [Dmitry Ozersky] による歌詞を歌ったり、 1960年代から活動している詩人 Алексей Хвостенко [Alexei Xvostenko] の詩を取り上げたりしている。 この新作は、1922年に37歳の若さで死んだ放浪のアヴァンギャルド詩人 Велимир Хлебников [Velimir Khlebnikov] の最も後期の詩集 Разин [Razin] (1920) の詩を歌うというコンセプトだ。 この Razin は詩の全ての行が回文で書かれており、 そんな詩を歌おうとよく思いついたものだとも思う。 といっても、Auktyon でも Xvostenko との共作で Khlebnikov の詩を歌ったアルバム Хвост и Аукцион: Жилец Вершин (1995) を制作しており、 これが初めてというわけではない。 semi-absurd とも言われる Auktyon の歌詞は Khlebnikov の影響を受けたものなのだろう。
ちなみに、日本語で書かれた Khlebnikov の本格的な評伝として、 亀山 郁夫 『甦るフレーブニコフ』 (晶文社, 1989; 平凡社ライブラリー, ISBN978-4-582-76668-4, 2009) がある。 Razin に関する記述はほとんど無いけれども、 Khlebnikov の詩のバックグラウンドとなる世界観や、 Russian Avant-Garde の時代の雰囲気を感じることができる。お勧めだ。
曲や演奏は、回文という詩の構造を反映させたようなものではない。 歪んだ guitar に Tom Waits にも似たしゃがれた歌声、 jazz のイデオムもあまり感じさせない avant-rock だ。 Fedorov & Volkov の一連の作品にあったようなドラムレスで音のテクスチャや空間を生かしたセッションは少なめ。 意外にも Auktyon: Girls Sing (2007) と共通する部分も多いバンド的な演奏もしている。 “Утро (Путь)” や “Пляска” のような rock 的なノリの曲も良いけれども、 Khlebnikov を歌うというコンセプトでもあるし、 ノイジーなでアウトな展開に詩を朗読するような “Пытка” のようなものだけで アルバムを作っても良かったかもしれない、とも思ってしまった。