ドイツの現代美術作家 Rebecca Horn は、2000年代以降、 その多くの作品に Hayden Chisholm の音楽を用いている。 Chisholm はドイツのケルン (Köln, NRW, DE) を拠点に活動する saxophone 奏者/作曲家で、 ライブハウス Loft 界隈の jazz/improv や Nonplace レーベル界隈の dub/electronica でも知られる。 そんな Chisholm が音楽を手掛けた Horn の2000年代前半の インスタレーション3作の音楽に焦点を当てた本を入手した。 A4判大のハードカバーながら16ページと薄い本だが、 インスタレーションに使われた音楽を収録したCD 2枚が付いている。 本には、解説や Chisholm 自身によるテキストの他、 その作品の写真、作品で使われた Horn の詩も載っている。 写真が少なくインスタレーション作品の様子がよく判らないのは残念だが、 CD 2枚がメインで本が付録と考えれば、CDケース大のブックレットよりはましだ。
Mirror Moon は 西地中海バレアレス諸島マヨルカ島 (Mallorca, Illes Balears, ES) の Pollença にある Sant Domingo 教会・修道院を使って2003年の夏に制作したインスタレーション作品。 その音楽は、ギリシャ出身の Thymios Atzakas [Θύμιος Ατζακάς] の oud と モロッコ出身の Abdel Rhani Krija の hand drum (darbuka かその類の打楽器) を伴奏に、 トルコ系の女性歌手 Denizhan Koçer がハイトーンでゆったり揺らめくように歌うというもの。 oud と歌声の節回しはトルコかギリシャかと思わせるものだが、 作曲は Chisholm によるもので、歌詞は Horn の詩をスペイン語に訳したものだ。 hand drum のリズムは時折アップテンポになるものの、oud と Koçer の歌声はゆったりとしたまま。 cello や overtone voice は背景で通奏低音のように鳴り、奥行きを作っている。 oud、hand drum そして歌声に地中海の雰囲気を乗せ、漂うような音に空間を感じさせる音楽だ。 この作品を観たことはないが、音楽だけでも十分楽しめるものだった。
Spiriti di Madreperla と Light Imprisoned in the Belly of the Whale の音楽は、 声を中心とした contemporary classical なもの。 子供のコーラスと soprano の歌唱を合わせた Spiriti di Madreperla は、音楽だけはピンとこなかった。 soprano の歌唱、overtone voice、strings、鈴のような percussion の音が遠くで響くような Light Imprisoned in the Belly of the Whale の音楽は瞑想的。 この作品は『静かな叛乱 鴉と鯨の対話』 (Rebellion in Silence Dialogue between Raven and Whale) 展 (東京都現代美術館, 2009-2010) で観ていることもあるせいか、 音楽だけでもその雰囲気を楽しめた。
Moon Mirror での歌声が気に入ったので、 Denizhan Koçer が歌った他の録音も聴いてみたいのだが、ほとんど録音は残していないようだ。 トルコ系ながらドイツのケルン (Köln, NRW, DE) を拠点に活動しているようで、 2008年にケルンでの行われた Reconstructing Song というコンサートシリーズ [MySpace] の中の Burnt Friedman & Jaki Liebezeit / Hayden Chisholm のコンサートにも参加していたよう。 今後、この界隈の録音に、また Koçer がフィーチャーされることがあるかもしれない。 Koçer をフィーチャーした Friedman & Liebezeit もしくは The Embassadors の曲を是非聴いてみたい。