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Review: Rebecca Horn: Rebellion in Silence Dialogue between Raven and Whale @ 東京都現代美術館 (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2010/01/03
Rebellion in Silence Dialogue between Raven and Whale
東京都現代美術館
2009/10/30-2010/02/14 (月休; 11/23,1/11開; 11/24,12/28-1/1,1/12休), 10:00-18:00.

身体の拡張装置 (extension) で知られる 1970年代から活動するドイツの現代美術作家 Rebecca Horn の日本では初の個展だ。 企画展示室3階で立体作品の展示、企画展示室1階で映像作品の上映が行われている。 グループ展で以前に作品を観たときにも思ったことだが、作品の多くは、 立体作品は Modernism というより、象徴的な所などいかにも Surrealism の流れを汲む表現。 しかし、意識/無意識の問題というより身体感覚に着想を得ているためか、 abject なものをあまり感じさせず、むしろユーモラスで可愛らしく感じることもあった。 詩との組み合わせもあって、奇妙に叙情的と感じた時すらあった。

しかし、興味深く観ることができたのは、そこからちょっと外れた所。 床に広く張った水面を機械仕掛けの真鍮の棒で軽く掻き乱し、そこに光を反射させる作品だ。 円形の水面に反射させて光の濃淡に変換された波を観る “Heartshadows for Pessoa, Cinema Verité” の、タイトルを裏切るようなミニマルさも良かった。 しかし、Heyden Chisholm の環境的な音楽の中、 プロジェクタで投影された自身の詩を文字列が回転し、反射で裏返り、波でゆらめく “Light Imprisoned in the Belly of the Whale” の アナログながら立体的なムービング・タイポググラフィのような所が、最も気に入った。

Surreal な表現なら、逆さ吊りにしたグランドピアノから鍵盤が飛び出してだらんとぶら下がった “Concert for Anarchy”。 時々、大きな音を立てて鍵盤が正しい位置に吸い込まれていくのが可笑しかった。 壁にインクを吹き付ける “Painting Machine” は描いた痕跡のみの所が少々物足りなかった。

映像作品は1970年代のパフォーマンスの記録から最近の長編映画まで。 全8本8時間以上の長さで、全部観ることは到底できないので、 初期 (1970年代前半) の映像作品、 Performance 1 (1972)、 Performance 2 (1973)、 Berlin (10. 11. 1974 – 28. 1. 1975) – Übungen in neun Stücken (1974/75) を通して観た。 機能や感覚のための身体の拡張というコンセプトのミニマルな映像化から、 次第にシュールな叙情を湛えた演出が加わってくるよう。 現在の作風の成立過程を見るようで興味深く楽しめた。

ところで、2000年代の Horn の多くの作品で音楽を手がける Heyden Chisholm は 自身のグループ The Embassador や Nils Wogram のグループ Root 70 など ケルンの jazz/improv シーンで活躍する saxophone 奏者だ [関連レビュー 1, 2]。 この展覧会に合わせ Horn と一緒に Chisholm も来日したよう。 10/31に Horn × Chisholm のアーティスト・トークがあり、 オープニングでは展示室で saxophone を吹いていたとも聞く。 しかし、ライブハウス等でライブをしたという噂は聞いていない。 ライブがあれば、是非聴きに行きたいと思っていただけに、少々残念だ。