ベルリンを拠点に techno/electronica の文脈で活動する3人のDJ/プロデューサーによる 即興生演奏によるユニット Moritz von Oswald Trio の新作は、 2人のミュージシャンをゲストに迎えてのスタジオ録音。 1作目 Vertical Ascent (Honest Jon's, HJRCD45, 2009, CD) の 淡々とした反復感 [関連レビュー] も良かったが、 弦楽器のゲストを加えることにより、淡々とした雰囲気ながらも音空間を広げている。
ゲストの1人、Marc Muellbauer は jazz の文脈で活動するベルリンを拠点とする bass 奏者で、 ECM レーベルの piano trio Julia Hülsmann Trio で知られる。 Moritz von Oswald との共演は Carl Craig & Moritz von Oswald: ReComposed (Deutsche Grammophon, 00289 478 6912 8, 2008, CD) [レビュー] に続いてとなる。 もう1人の Paul St. Hilaire はドミニカ生まれで1990年代からベルリンを拠点に techno/electronica 文脈で Tikiman 名義で歌手として活動、 Moritz von Oswald、Mark Ernestus との dub techno グループ Rhythm & Sound で知られる。 この作品では歌手としてではなく guitar 奏者として参加している。 [ReComposed については 2011/04/27追記]
耳を捉えるのは、やはり、bass と guitar が活躍する所。 “Structure 2” では Marc Muelbauer がピチカートで刻むベースラインが着実なグルーヴ感を加え、 “Structure 4” では細かく刻むアルコ弾きが音のテクスチャに厚みを加えている。 “Structere 1” でも強くリバーブをかけたアルコ弾きの音がふっと割り込んでくる。 Paul St. Hilaire の guitar は全体を通して リバーブを強くかけた音でとりとめのない旋律 (抽象的な音響というよりふと歌心を感じる所もある) を背景に漂よわせている。 脈動するような dub techno 的なテクスチャの向こうで guitar がかき鳴らされる “Structure 3” は深く淡く引き延ばした初期 Public Image Ltd. のバックトラックのようにも聴こえた。
もちろん、Max Loderbauer と Moritz von Oswald が作り出す 淡くうねるような電子音のテクスチャ、そのテクスチャの上に疎に撒かれるような Vladislav Delay の metal percussion の音も相変わらず良い。 “Structure 1” の後半での metal percussion と conga が淡々と掛け合うような展開も聴かれる。 ちなみに、ダウンロードのみのボーナストラック “Structure 5” は この metal percussion の音をメインに据えたものになっている (この曲にはゲスト2人は参加していないように聴こえる)。
アルバム Horizontal Structures に先行してリリースされたシングルは、 アルバム中最もグルーヴ感のあった “Structure 2” のリミックスに相当するもの。 自身による “Restructure 2” は、 ビートとキーボードの音を強調して素直にダンスフロア向けにしたよう。 dubstep の文脈で活動するDJ/プロデューサー Digital Mystikz による “Restructure 2 Rebuild” は、 dubstep 的な重いビートや装飾的なコンガの音が飛び交い、ほとんど原型をとどめていない。
1作目 Vertical Ascent と 最新作 Horizontal Structures の間に、 ゲスト2名を加えてニューヨークで録音されたライブ盤がリリースされていた。 ここでのゲストはデトロイトの techno DJ/プロデューサー Carl Craig と、 ニューヨークの DJ/プロデューサー François K (aka François Kervorkian)。 観客の声もかなりしっかり収録されており、 スタジオ盤の淡々とした音作りとは違う勢いも感じられる。 例えば、オープニングの “Nothing 1” は “Structure 2” と同じパターンに基づく曲だが、 後半、スペーシーな電子音で盛り上げていくかのような所など、かなり展開は異なっている (ライブならではの勢いなのか、ゲストの資質なのかは、判断しかねる所もあるが)。 そんな所も興味深いライブ盤だ。