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Review: Moritz von Oswald Trio: Horizontal Structures; Moritz von Oswald Trio: Restructures 2; Moritz von Oswald Trio: Live In New York
2011/04/24
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Moritz von Oswald Trio
Horizontal Structures
(Honest Jons, HJR54, 2011, CD/DL)
1)Structure 1 2)Structure 2 3)Structure 3 4)Structure 4 5)Structure 5
Produced by Moritz von Oswald.
Vladislav Delay [aka Sasu Ripatti] (congas, metal percussion), Max Loderbauer (sequencer, synthesizer), Moritz von Oswald (programming, keyboards, additional percussion); Marc Muellbauer (double bass), Paul St. Hilaire [aka Tikiman] (guitar).

ベルリンを拠点に techno/electronica の文脈で活動する3人のDJ/プロデューサーによる 即興生演奏によるユニット Moritz von Oswald Trio の新作は、 2人のミュージシャンをゲストに迎えてのスタジオ録音。 1作目 Vertical Ascent (Honest Jon's, HJRCD45, 2009, CD) の 淡々とした反復感 [関連レビュー] も良かったが、 弦楽器のゲストを加えることにより、淡々とした雰囲気ながらも音空間を広げている。

ゲストの1人、Marc Muellbauer は jazz の文脈で活動するベルリンを拠点とする bass 奏者で、 ECM レーベルの piano trio Julia Hülsmann Trio で知られる。 Moritz von Oswald との共演は Carl Craig & Moritz von Oswald: ReComposed (Deutsche Grammophon, 00289 478 6912 8, 2008, CD) [レビュー] に続いてとなる。 もう1人の Paul St. Hilaire はドミニカ生まれで1990年代からベルリンを拠点に techno/electronica 文脈で Tikiman 名義で歌手として活動、 Moritz von Oswald、Mark Ernestus との dub techno グループ Rhythm & Sound で知られる。 この作品では歌手としてではなく guitar 奏者として参加している。 [ReComposed については 2011/04/27追記]

耳を捉えるのは、やはり、bass と guitar が活躍する所。 “Structure 2” では Marc Muelbauer がピチカートで刻むベースラインが着実なグルーヴ感を加え、 “Structure 4” では細かく刻むアルコ弾きが音のテクスチャに厚みを加えている。 “Structere 1” でも強くリバーブをかけたアルコ弾きの音がふっと割り込んでくる。 Paul St. Hilaire の guitar は全体を通して リバーブを強くかけた音でとりとめのない旋律 (抽象的な音響というよりふと歌心を感じる所もある) を背景に漂よわせている。 脈動するような dub techno 的なテクスチャの向こうで guitar がかき鳴らされる “Structure 3” は深く淡く引き延ばした初期 Public Image Ltd. のバックトラックのようにも聴こえた。

もちろん、Max Loderbauer と Moritz von Oswald が作り出す 淡くうねるような電子音のテクスチャ、そのテクスチャの上に疎に撒かれるような Vladislav Delay の metal percussion の音も相変わらず良い。 “Structure 1” の後半での metal percussion と conga が淡々と掛け合うような展開も聴かれる。 ちなみに、ダウンロードのみのボーナストラック “Structure 5” は この metal percussion の音をメインに据えたものになっている (この曲にはゲスト2人は参加していないように聴こえる)。

Moritz von Oswald Trio
Restructure 2
(Honest Jons, HJP54, 2011, 12″/DL)
1)Moritz von Oswald Trio: “Restructure 2” 2)Digital Mystikz: “Restructure 2 Rebuild”
Vladislav Delay, Max Loderbauer, Moritz von Oswald, Marc Muellbauer, Paul St. Hilaire.
2) Produced by Mala [aka Mark Lawrence].

アルバム Horizontal Structures に先行してリリースされたシングルは、 アルバム中最もグルーヴ感のあった “Structure 2” のリミックスに相当するもの。 自身による “Restructure 2” は、 ビートとキーボードの音を強調して素直にダンスフロア向けにしたよう。 dubstep の文脈で活動するDJ/プロデューサー Digital Mystikz による “Restructure 2 Rebuild” は、 dubstep 的な重いビートや装飾的なコンガの音が飛び交い、ほとんど原型をとどめていない。

Moritz von Oswald Trio
Live In New York
(Honest Jons, HJR53, 2010, 2×12″+CD)
1)Nothing 1 2)Nothing 2 3)Nothing 3 4)Nothing 4
Recorded by François K at Le Poissen Rouge, NY on 2010/02/06. Produced by Moritz von Oswald.
Vladislav Delay (percussion, metal instruments), Max Loderbauer (sequencer, synthesizer), Moritz von Oswald (live programming, string keyboards, additional percussion); Carl Craig (modular synth), François K (live mix and effects).

1作目 Vertical Ascent と 最新作 Horizontal Structures の間に、 ゲスト2名を加えてニューヨークで録音されたライブ盤がリリースされていた。 ここでのゲストはデトロイトの techno DJ/プロデューサー Carl Craig と、 ニューヨークの DJ/プロデューサー François K (aka François Kervorkian)。 観客の声もかなりしっかり収録されており、 スタジオ盤の淡々とした音作りとは違う勢いも感じられる。 例えば、オープニングの “Nothing 1” は “Structure 2” と同じパターンに基づく曲だが、 後半、スペーシーな電子音で盛り上げていくかのような所など、かなり展開は異なっている (ライブならではの勢いなのか、ゲストの資質なのかは、判断しかねる所もあるが)。 そんな所も興味深いライブ盤だ。