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Review: Carl Craig & Moritz von Oswald, ReComposed; Jimi Tenor, ReComposed
2008/12/14
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Carl Craig & Moritz von Oswald
(Deutsche Grammophon, 00289 478 6912 8, 2008, CD)
1)Intro 2)Movement 1 3)Movement 2 4)Movement 3 5)Movement 4 6)Interlude 7)Movement 5 8)Movement 6
Concept: Christian Kellersmann, Moritz von Oswald.
Original Music by Maurice Ravel: Bolero (1928), Rapsodie Espagnole (1907); Modest Mussorgsky: Pictures At An Exhibition (1874).
Interpreted by Berliner Philharmoniker, Conducted by Herbert von Karajan.
Recorded 1985/12 (Bolero), 1986/2 (Pictures), 1987/2 (Rapsodie).
ReComposed artists: Kelvin Sholar (piano) on 7; Daniel "Topo" Gioia (percussion) on 8; Marc Muellbauer (doublebass) on 2, 3, 8; Collin Dupuis (engineer).

Basic Channel やその派生レーベルを主宰する ベルリン (Berlin) の minimal techno の代表的 DJ/producer Moritz von Oswald (aka Maurizio) が Planet E レーベルを主宰するデトロイト (Detroit, MI, USA) の第2世代の techno DJ/producer Carl Craig と組んで制作した、classical 音源の remix アルバムだ。 使っている音源は、Deutsche Grammophon レーベルからリリースされている Herbert von Karajan 指揮 Berliner Philharniker (ベルリン交響楽団) の演奏による Maurice Ravel 曲集、 Bolero (1928), Rapsodie Espagnole (1907) と Ravel が1922年に管弦楽曲として編曲した Modest Mussorgsky, Pictures At An Exhibition (1874) だ。

Moritz von Oswald のコンセプトということで、 classical の音源の旋律やリズムを生かして そこに electronic なビートやエフェクトを重ねるような remix はしていない。 交響楽団の響きをブレイクとして使用し、 その脈動するような反覆でグルーヴを作り出す minimal techno 的な音作りだ。 特に、前半 "Movement 1" から "Movement 4" で brass の音色でテクスチャを織り上げているところが良い。 Balkan brass を使った Villalobos, Fizheuer Zieheuer (Playhouse, PLAYCD021, 2006, CD) [レビュー] も連想させられるが、華やかで美しい音色は classical な音源ならではだろう。 淡々とゆったりめの "Movement 1" からハードな "Movement 4" に向かう展開も良い。

"Movement 5" は Carl Craig のみによる remix だ。 は strings や winds も含めた管弦楽団全体の音色を使っており、 前半より minimal さが控えめで劇的にすら感じられる。 続く "Movement 6" は Moritz von Oswald のみによる作品で strings の minimal 脈動に percussion が dubwise に浮遊している。 これらの、2人それぞれの個性が出たトラックも興味深かった。

正直、実際の音を聴くまでは、音源や DJ/producer が豪華なだけの企画物だろうと 期待していなかった。しかし、minimal なグルーヴも十分に楽しめる作品だ。

ちなみに、この ReComposed は、 Universal Music 傘下 classical 専門レーベル Deutsche Grammophon 音源の remix シリーズだ。 同じく Universal Music 傘下の jazz レーベル Verve 音源 remix シリーズである Verve Remixed の classical 版とも言えるだろう。 ただ、様々な DJ/producer を集めて制作している Verve Remixed と違い、 ReComposed は1組の DJ/producer で1タイトルを制作している。 Moritz von Oswald & Carl Craig は、 Matthias Arfmann (2005)、Jimi Tenor (2006) に続く第3弾となる。

第1弾の Matthias Arfmann はチェックしていなかったが、 第2弾の Jimi Tenor はチェックしていたので、簡単に紹介。

ReComposed
(Deutsche Grammophon, 00289 476 5676 0, 2006, CD)
1)Steve Reich: Music For Mallet Instruments, Voices And Organ 2)Esa-Pekka Salonen: Wing On Wing 3)Pierre Boulez: Répons (Section 1) 4)Erik Satie: Vexations (Version 1) 5)Edgar Varèse: Déserts 6)Nikolai Rimsky-Korsakov: Symphony No. 2 Op. 9 "Anter" (1. Largo) 7)Erik Satie: Vexations (Version 2) 8)Steve Reich: Six Pianos 9)Pierre Boulez: Messagesquisse (Très Rapide) 10)Edgar Varèse: Ionisation 11)Erik Satie: Vexations (Version 3) 12)Georgi Sviridov: Choral Concerto Without Words In Memory Of Alexander Yurlov (No. 3 Chorale)
Arrangements and Additional Compositions: Jimi Tenor.
4, 7, 11)Interpreted by Jimi Tenor (piano).
Jimi Tenor (synthesizers, drum machine, bass machine, percussion, korg poly, delay pedal, sequencer, tam-tam, mini koto, sitra, saxophones, flute, bamboo flute, piano, organ, vocoder, vocals), Mongo Aaltonen (bongos, tambourine, big drum, drums).

Warp レーベルなどを拠点に活動するフィンランド (Finland) の DJ/producer Jimi Tenor による classical 音源 remix 集だ。 classical といっても20世紀後半以降のいわゆる現代音楽の音源を使っている。 例外は、1893年作曲の Eric Satie, Vexations。 これは Deutsche Grammophon 音源でもなく、Tenor 自身による演奏だ。 Carl Craig & Moritz von Oswald に比べると企画物ぽさは否めないが、 それなりに楽しめる remix だ。

minimal 寄りの Carl Craig & Moritz von Oswald と違い、 こちらは元の曲の展開をそれなりに生かしている。 Steve Reich の remix はいかにもありがちだが、 Pierre Boulez や Edgar Varèse などはよくネタに選んだとは思う。 加えている演奏は lounge jazz 的な club music を思わせる所もあり、 少々映画音楽風だ。