Moritz von Oswald は 1980年代 new wave のグループ Palais Schaumburg のメンバーとして活動し、 1990年代 以降は Maurizo 等の名義で ベルリン (Berlin, DE) のレーベル Basic Channel 等のレーベルを拠点に 活動してきた techno の DJ/producer だ。 ビートというより脈動するように感じる minimal で dubwize な音作りが、その特徴だ。 その von Oswald が即興的な生演奏に取り組んむために結成したのが、この trio だ。 残る2人のメンバーは、 同じくベルリンを拠点に活動する Max Loderbauer (Sun Electric, NSI, Chica & The Folder) と、 フィンランド出身の Vladislav Delay (Luomo) だ。 ちなみに、Delay は percussion を担当しており、electronics は用いていないようだ。 去年ライブ活動をしており [YouTube, YouTube]、 日本でも代官山UNIT (7/11) でライヴを行っているが、残念ながら見逃していた。 Vertical Ascent はライブ録音ではなくスタジオ録音。 4曲で44分と収録時間は短めだ。
即興的な生演奏といっても、free improv のようなビート感のほとんど無いものではない。 Burnt Friedman & Jaki Liebezeit [レビュー] のような複合拍子を使ったりもしない。 アップテンポな Pattern 1, 3 は、 von Oswald らしい淡々と刻まれるリズムに、Delay の細かく反復するメタリックな音のリズムが被り、 様々 syntheziser の持続音がその上を飛ぶ。 それは、Carl Craig & Moritz von Oswald: ReComposed (Deutsche Grammophon, 2008) [レビュー] にも近いが、華やかな音色が無いこともあり、モノクロームで淡々とした印象を受ける。 ダウンテンポな Pattern 4 はリズムも reggae 的で dubwize に感じるものだが、 Pattern 2 は音も疎となり様々な物音がゆったり反復しながら響くような音になっている。 曲単位ではアップテンポな Pattern 1, 3 が良いと思う。 しかし、そのような曲に挟まる Pattern 2 のような曲が、 全体の印象をよりストイックに感じさせてている。そしてそれも良い。
ベルリンの techno の文脈から生演奏を指向したアルバムがもう1タイトル出ているので、併せて紹介。
Groupshow はベルリンを拠点に活動する3人の DJ/Producer が結成した trio だ。 Jelinek と Pekler が拠点とし Groupshow のアルバムもリリースするレーベル ~scape を主宰するのは Basic Channel の cutting engineer だった Stefan Betke で、 そのレーベルカラーも dubwize な minimal techno と Basic Channel に近い。 そういう意味でも、Moritz von Oswald Trio と似た背景・傾向を持つグループと言えるだろう。 といっても、Jan Jelinek は Triosk [レビュー] との共演盤もあり、以前から生演奏への指向が見られたが。
音はメタリックな Moritz von Oswald Trio ほどストイックなものではない。 少々歪んだアナログ電子楽器の音色が支配的なので、柔らかく暖かく感じられる。 アップテンポな techno 的なビート感のある展開はほとんどなく、 ビート感の無い展開も少なくない。 “I Love, Love, Love, Love It” や “Physical Therapist” のようなビート感のある展開のときは、 その楽器の音色もあって、krautrock っぽくも感じられる (Burnt Friedmann & Jaki Liebezeit 程ではないけれども)。 そして、そこが最も楽しめた所だ。