Michel Aumont は1980年代半ばから folk/roots と jazz/improv の中間的な文脈で活動する フランスはブルターニュ (Bretagne, FR) の clarinet 奏者だ。彼の活動最初期のグループ Quintet Clarinettes は、 Louis Sclavis をゲストに迎えた6tetで録音した2枚のアルバム Musique Têtue (Silex, Y225001, 1990, CD) と Bazh Du (Silex, Y225031, 1993, CD) も印象深かった。
そんな Aumont の最新作は vielle à roue (hardy guady) 2人を含む7人編成のグループ Le Grand Orchestre ArmorigènE によるもの。 clarinet、tuba、vielle を含んだ編成で jazz/improv 色濃い (といっても作曲されている部分が多いと思うが) 演奏をするところは、 このグループの vielle の1人、Valentin Clastrier が1990年代に残したアルバム Hérésie (Silex, Y225402, 1991, CD) と Le Bûcher Des Silences (Silex, Y225040, 1994, CD)、 また、やはり Clastrier が参加した Michael Riessler のアルバム Héloise (Wergo-J, WER8008-2, 1993, CD) と Tentations D'Abelard (Wergo-J, WER8008-2, 1995, CD) [レビュー] を思わせる。 Le Grand Orchestre ArmorigènE はこれら20年前の試みを甦らせようかというアンサンブルだ。 といっても、これらを越えた何かを感じる程ではないし、piano や violin の音色のせいかむしろ少々大人しくすら聴こえる。 vielle が2人になってもっと荒々しい展開を期待していただけに、正直に言えば少々肩透かしに感じた。 しかし、2000年代以降このような音楽のリリースがめっきり減っていただけに、充分に楽しむことができた。
ちなみに、このアルバムをリリースした Innacor は 2007年にリリースを開始した ブルターニュのコンテンポラリーな folk/roots の拠点ともいえるレーベル。 Kristen Noguès: Logodennig - 1952/2007 (Innacor, INNA20807, 2008, 2CD) [レビュー] など良質なリリースが多い。
ところで、この Le Grand Orchestre ArmorigènE は、 1990年代末に始めたソロのプロジェクトから次第に編成を拡大してきたものだ。 関連して以下の3つのリリースがある。
Clarinettes armorigèneS と、続く Le Temps Du Souffle... は、 ソロといっても多重録音でアンサンブル風に、 多重録音という制作からもわかるように作曲ベースの曲を演奏している。 その曲調は Quintet Clarinettes からの延長とでもいうものだ。
続く、Armorigène Trio は Le Grand Orchestre ArmorigènE の核ともいえる clarinet / piano / percussion の trio 編成によるもの。 ちなみに、percussion の Dominique Le Bozac は Quintet Clarinettes のメンバーでもあり、 Aumont が thérémin を弾くときは clarinet を吹いている。 管弦打のミニマルの編成で、スビード感あるテンション高い演奏が楽しめる。 thérémin を使った曲でも clarinet との絡みもテンション高めだ。 Michael Rissler のアンサンブルによる2つのアルバムに対する Valentin Clastrier / Michael Riessler / Carlo Rizzo: Palude (Wergo-J, WER8010-2, 1995, CD) と同じような位置にあるアルバムだ。 “Armorigène” 関連 (Le Temps Du Souffle... はそう名乗ってないが) の一連のアルバムの中では trio のものが最もお薦めだ。
ちなみに、この3タイトルをリリースした An Naer Produksyon は、1996年に設立されたブルターニュのレーベル。 ブルターニュの folk/roots の音楽をリリースするレーベルだが、 jazz/improv の影響を感じるリリースもあり、Innacor に指向は近い。 DVDケースのサイズの紙ジャケットも特徴だ。
余談だが、先日観た Cie 14:20 [レビュー] もそうだったが、 フランスのコンテンポラリー・サーカスのパフォーマーは このような jazz/improv 寄りの folk/roots のミュージシャンを コラボレーションの相手として選ぶことが多い。 おそらく、イメージしやすい民謡的なフレーズが演奏できて、 即興にも対応できるということで、一緒にやりやすいということがあるのだろう。 Michel Aumont も juggler の Jérôme Thomas [写真] や mime / manipulation の Markus Schmid [動画] と コラボレーションしている。 もちろん、コンテンポラリー・ダンスとの共演もある [写真]。