ギリシャ・クレタ島の lyra 奏者 Στέλιος Πετράκης [Stelios Petrakis] の最新作 (といっても去年リリースだが) は、 前作 Orion [Ωρίων] (Buda, 2008) [レビュー] にも参加していた スペイン・ヴァレンシアの Efrén López (ex-L'Ham De Foc)、 イラン系でフランスを拠点とする Bijan Chemirani とのトリオによるもの。
全て自作曲だが、クレタの音楽 (例えば syrtos) をベースにしたものだけではなく、 東はアフガニスタンの弦楽器 rabab のための曲 (“A.A.A.A.A.A.A.”) から、 西はプロヴァンスのトロバドールの歌に基づく曲 (“El Núvol d'Oort”) まで広くとられているのも、 過去の一連のアルバムから相変わらず。 しかし、歌手をフィーチャーせずに、編成をコアの3人に絞り、個々の演奏をより際立たせている。 それも、laouto (撥弦楽器) の高く澄んだ弦の響きと lyra や vielle (いずれも擦弦楽器) の鈍い響きが、コントラストを作り出している。 percussion の刻む軽いリズムを背景に vielle を弾きまくる “Hortus Deliciarum” や laouto のリズミカルなカッティングに vielle が切り込んでくる “Σύβριτος” のような テンション高い演奏は、少人数のインストゥルメンタルの編成ならでは。 切れ味良い演奏を楽しむことができた。
Μαύρα Φρούδια [Black Eyebrows] のトリオの一人 Bijan Chemirani のグループ Oneira [関連レビュー] も、新作 (2作目) をリリースしている。 このアルバムでは Stelios Petrakis は参加していない。 こちらもインストゥルメンタルの曲もあるが、 前作に引き続き2人の女性歌手をフィーチャーしている他、 1曲 “La Bourdique” でオクシタニアの 男性歌手 André Minvielle、 “Φιλοι Μου Σα Θα Βρίσκεστε” でサルディーニャの launeddas / sax 奏者 / 倍音歌手の Gavino Murgia をフィーチャーしており、歌物色濃い。 約半分は伝承に基づくメロディで、 ギリシャを中心にトラキアや黒海地方のものなどが取られており、 過去のアルバムで聞き覚えのあるものもある。 特に新展開は感じられないが、相変わらずの音楽が楽しめた。
音楽はそういうものなのだが、歌詞を見ると、中世ペルシャの Omar Khayyam のテキスト に基づく/倣った歌詞が2曲 (“Ferdows Dami” と “Μου 'Πε Μια Μάγισσα”) ある。 また Djalaladine Rumi の詩も使われている (“Sanamâ”)。 ジャケットに使われているイラストも合わせて、 Rubaiyat 的、もしくは、中世ペルシャ的なものも アルバムのコンセプトにあるのかもしれない。