Maria Pia De Vito はイタリア・ナポリ出身で jazz/improv の文脈で活動する女性歌手。 歌も歌うが、むしろ、明るい声での自在なスキャットがその特徴だろう。 その彼女が、2000年代後半より、ウェールズ出身の piano 奏者 Huw Warren と共演を続けている。 Huw Warren はイギリスの jazz/improv の文脈でも Perfect Houseplants のようなグループで活動しているが、 むしろ、1980年代半ばから現在に至るまで folk の女性歌手 June Tabor の伴奏・アレンジをしてきていることで知られる。
そんなこともあって、聴く前は folk 色濃い歌物にでも挑戦しているのだろうかと思っていた。 しかし、そんなことはなく、彼女の地元ナポリの folk ももちろん、 jazz や Brazilian music の影響を強く感じる、 piano と scat が明るくリズミカルに絡む展開も楽しい作品だった。 ここでの Huw Warren の piano は、その強い音も明るくリズミカル。 彼女が組んだ piano 奏者というと 2000年前後の John Taylor というのもあるが、 それ以前の1990年代後半に Rita Marcotulli と一緒にやっていた頃を思い出させるような作品だ。
1作目 Diálektos で最も楽しめたのは、 Hermeto Pascoal の曲 “Ginga Carioca” のカバー。 打楽器無しに piano と scat で Pascoal の複雑なリズムと飛躍感のあるメロディを表現を表現しきっている。 ゲストの Gabriele Mirabassi の clarinet もそんな De Vito の scat に見事にユニゾンを決めたり。 このようなリズミカルな piano / scat は “Miguilim” (Rita Marcotulli) や “Whistling Rufus” (Huw Warren) でも楽しめる。 また、表題曲 “Diálektos” での Tumulti のような electronics 使いも良い。 エンディングでは、20世紀初頭のナポリ歌謡 “Mmiezo 'O Ggrano” を 抽象的な piano の音響と残響がかった De Vito の詠唱、控えめな声のループのテクスチャで 聴かせる。 音のテクスチャの合間から地中海の香りがしみ出してくるようだ。
2作目 'O Pata Pata でも、 Hermeto Pascoal の曲 (“Frevo Em Maceió”) や Chico Buarque の曲 (“Curre Maria (Olha Maria)”) を取り上げるなど、 相変わらずだ。変わった所といえば、ゲストが管楽器ではなく、Ralph Towner の guitar になったという。 Towner の伴奏で歌う “'A Sposa Riluttante” や “Vucella (Assum Branco)” など、良い変化になっている。 しかし、三者がリズミカルに絡む表題曲 “'O Pata Pata” がこのアルバムの一番の聴き所だろう。
2000年代に入っての Maria Pia De Vito は少々物足りなく感じていたのだが、 この Huw Warren との duo は彼女の明る声のスキャットが生きている。 この作品をきっかけに、Huw Warren が June Tabor との活動だけでなく、 Hermeto+ という Hermeto Pascoal トリビュートのプロジェクトや、 Lleuwn Steffan との Welsh folk の意欲的なプロジェクトをやったりしていたことにも 気付かされもした。 ゲストで変化を付けつつも、編成を大きくして大仰になることなく、 このプロジェクトが続くことを期待したい。