Sabreen は、パレスチナの伝統的な要素に jazz や rock の要素を加えた音楽を演奏する 1980年に結成されたパレスチナ人のグループ。 Kamilya Jubran は1992年から2002年にかけて、Sabreen で活動した女性歌手/ミュージシャンだ。 2002年以降、ソロをはじめ、様々なプロジェクトで活動している。

contrabass 奏者 Sarah Murcia との Accords Croisés でのプロジェクトは、 classical な string 4tet との共演だ。 といっても、Jubran は相変わらず。 Makan (2009) で聴かせたように、 音数控えめに oud を弾きつつ、強く通る憂いのある歌声で、微分音を含むアラブの旋法の歌を歌う。 Makan より間合いの自由度が上がっている。 対する string 4tet も流麗なものではない。 中心となる Murcia の contrabass はピチカートを多用し、 時に oud の音と一体化するかのように、時に jazz 的に、モーダルなフレーズで Jubran の歌声に絡む。 残りの string は、時折控えめに弓弾きで抽象的なフレーズを添える。 音数少なく低く落ち着いた中に、強い緊張を感じる作品だ。

もちろん、個々の音の響きを捉えた録音も良く、 contemporary classical や jazz / improv に近い感触のプロダクションは、 さすが Accords Croisés と思わせるものだ。

Accords Croisés からのリリースではないが、合わせて、 2000年代後半以降の Kamilya Jubran の録音を紹介。

2008年録音のソロは Nhaoul' に近い感触の作品。 string 4tet が無い分だけ音が引き立っている。 濃過ぎることなく澄んだ歌声だが落ち着いた詠唱、音数少なく低く響く oud、そしてその音の合間。 そんなミニマリズムも凛々しいアルバムだ。

一方、jazz/improv 文脈で活動するスイス・ベルン (Bern, CH) の trumpet/electronics 奏者 Werner Hasler との共演2作は、 隙間の多い音空間を生かしながらも、electronica の色合いも強い仕上がりだ。 Jubran の歌声や oud の響きを生かしながらも、残響や歪みなどの electronica 的な音処理がふっと加わり、 時には電子的なビートが刻まれる。 electronica 的な要素が斬新というわけではないが、Jubran の声/ oud の緊張感あるミニマルな音作りにぴったりハマっている。 “Al Shaatte Al-Akhar” のような走るようなノリの曲も良い。 一方、Wameedd ではほとんど聴かれないのだが、 Wanabni では Hasler の trumpet も聴かれる。 electronics をほとんど使わず、Jubran の歌声に絡むように trumpet がソフトに鳴る “Lam” のような曲も良い。 このデュオは Makan や Nhaoul' とは 少々雰囲気の異なるプロジェクトだが、いずれも魅力のある作品だ。