Khmer (ECM, 1997) 以来 nu jazz の先駆者的存在として活動する Nils Petter Morvær が、 1990s半ばの Basic Channel 以来のミニマルにテクスチャをおりなすような dub techno から Moritz von Oswald Trio での生演奏にシフトしつつある Moritz von Oswald と共演した アルバムをリリースしている。 ビート感の無い ambient 的な展開が多く、渋く淡々とした音世界。 ズブズブの電子音の中に強く歪んだ trumpet 音が残妙深くたなびく “Noise 1/2” など、悪くはない。 しかし、そんな中では、Moritz von Oswald Trio 的な脈動グルーヴに 残響深い Morvær の trumpet が出会った “Development” や “Further” のような曲が、やはり際立つ。 おなじみ Max Loderbauer & Ricardo Villalobos によるリミックス “Development (Ricardo Mix Dig)” は残響控えめに音の輪郭とビートをはっきりさせている。 “Development” とそのリミックスを核としつつ、その前後に ambient 的な音世界を配して 全体として映像のサウンドトラックのように仕立てたかのようなアルバムだ。
半年程前になるが、Moritz von Oswald は、 Detroit techno の第一世代、1981年に Cybotron 名義で活動を始めた Juan Atkins と共演した アルバムをリリースしている。 20年前の 3MB feat. Juan Atkins (Tresor, 1993) 以来の共作だ。 1/1 程でも無いが、やはり、全体としてビート感は控えめ。 断片的な trumpet の音は響くものの生音もほとんど聴こえないので、電子音響の空間構成のよう。 冒頭の “Electric Garden” で示されたテーマが、アルバムの所々で顔を出すので、 全体として構成されたコンセプチャルなアルバムだ。このような通しての構成は、 Recomposed by Carl Craig & Moritz von Oswald (Deutsche Grammophon, 2008) [レビュー] から、 Maurice Ravel: Bolero のような派手なディテールを差し引いて、 ジャケットの森の写真のような色彩感の少ない世界を作り出したかのようにも感じられた。
Recomposed の時はあまり意識しなかったのだが、 Nils Petter Morvær と共演したり、 この Borderland でも Moritz von Oswald Trio: Fetch (Honest Jon's, 2012) [レビュー] に続いて Sebastian Studnitzky をフィーチャーするなど、 Moritz von Oswald は trumpet というか brass の音にこだわりがあるのだなあ、と、 そんなことに気付かされた2作だった。
今年は Mortiz von Oswald Trio 名義でのリリースは、このシングルのみ。 1/1 や Borderland に比べると、 脈動するようなものなかがグルーヴを感じるが、非常に deep で淡々とした dub techno。 生演奏感すら薄く、今までの Trio とも違う音作り。 生演奏の試みは Nils Petter Molvær との共演のような形で展開していき Trio ではまた違う展開を探っているのかもしれない、と思わせるようなシングルだ。