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Review: Moritz von Oswald Trio: Fetch
2012/08/20
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Moritz von Oswald Trio
Fetch
(Honest Jon's, HJRCD67, CD, 2012)
1)Jam 2)Dark 3)Club 4)Yangissa
Arranged, directed and produced by M. v. Oswald. Recorded and mixed by Tobias Freund, with additional recordings by Teo Schulte.
Vladislav Delay (otherworld objects), Max Loderbauer (synthesizer), Moritz von Oswald (string boards, electric piano); Marc Muellbauer (bass), Jonas Schoen (saxophone, bass clarinet, flute), Sebastian Studnitzky (trumpet).

ベルリンの techno/electronica 即興生演奏トリオ Moritz von Oswald Trio の新作は、 金属やプラスチックのオブジェの類が鳴るような音のサンプリングから 淡くうねるような電子音のテクスチャを組み上げていくところは相変わらず。 しかし、今までの作品以上にそのテクスチャの上に疎に撒かれるような音 — 例えば金属オブジェをガシャーンと鳴らすような音 — が大きく唐突になっており、 その音が音空間の立体感を強めている。 その一方で、その音が反復感を異化してしまうので、 特に前半 “Jam” や “Dark” ではノリは後退している。

また、前作同様ゲストを迎えている。 bass の Marc Muellbauer は前作 Horizontal Structures (Honest Jon's, 2011) [レビュー] に続いて引き続き。 さらに、今回は Rhythm & Sound (Moritz von Oswald と Mark Ernestus の reggae プロジェクト) で sax を吹いていた Jonas Schoen と、 jazz の文脈での活動も少なくない trumpet 奏者 Sebastian Studnitzky という2管が参加している。

1曲目 “Jam” では 曖昧なフレーズに強くエフェクトかけらけれ漂うようになった Studnitzky の trumpet が フィーチャーされている。 その音もあってか、“Jam” は、盛り上がる前の淡々とした演奏をしている1970前後の electric な Miles Davis のよう、と思うところもあった。 また、“Yangissa” では音が遠くで低くなるような sax らしき音や 非常に断片的な trumpet らしき音が散りばめられている。 聴く前にクレジットを見たときは sax と trumpet の2管が jazz 的なソロっぽいフレーズを吹くのではないかと危惧したのだが、“Jam” で若干その傾向はあるものの、 実際はそんなことはなくほとんど他の物音と同じような管楽器の扱いだ。 そして、そういう所も Moritz von Oswald Trio らしくて気に入っている。

ちなみに、Sebastian Studnitzky は1990年代から活動しており、 2000年には自身の nu jazz ユニット Orbit Experience はロシアのレーベル Boheme から Orbit.Experience (Boheme, 2000) をリリースしている。 このアルバムで remix を提供したロシアの Илья Хмыз (Ilya Xmz) と交流があり、 Xmz のプロデュースする MalerиЯ や Инна Желанная (Inna Zhelannaya) の作品にもゲスト参加している。 また、Studnitzky は Jazzanova: Of All The Things (Verve, 2008) で horns arrangement を手掛けていた。 jazz 本流に近い活動としては Wolfgang Haffner (drums) の electronic jazz のグループがある (アルバムは Shapes (ACT, 2006) と Round Silence (ACT, 2009) の2作がある)。 そういう活動を通して2000年以降 Studnitzky はそれなりに聴いてきたが、 Moritz von Oswald Trio へのゲスト参加することになるとは、 それはそれで感慨深いものがあった。