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Review: The Music Of Peter Eötvös (concert) @ Tokyo Opera City Concert Hall: Takemitsu Memorial, Tokyo
2014/05/25
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
The Music Of Peter Eötvös
『ペーテル・エトヴェシュの音楽』
東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル, 初台
2014/05/22, 19:00-21:00
1)György Ligeti: Melodien (1971) 2)Peter Eötvös: Speaking Drums - Four poems for percussion solo and orchestra (2012/13) 3)György Ligeti: San Francisco Polyphony (1973-74) 4)Peter Eötvös: The Glinding of the Eagle in the Skies (2011, revised version 2012) 5)Peter Eötvös: zeroPoints (1999)
Peter Eötvös (conductor), NHK交響楽団 [NHK Symphony Orchestra, Tokyo]; Martin Grubinger (percussion) on 2.

現代音楽 (contemporary classical) の作曲コンペに合わせて開催されるコンサート『コンポージアム』。 今年の審査員はハンガリー出身の Peter Eötvōs。 作曲者としての活動については予備知識はなかったが、現代音楽のCDを通して指揮者としては馴染みがあったので、 同郷の作曲家 Gyōrgy Ligeti の曲と自身の曲を自身が振るコンサートに足を運んでみた。 休憩を挟んで前半2曲に後半3曲、前半後半ぞれぞれにアンコールとして最後に演奏した曲 (Speaking DrumszeroPoints) の抜粋を演奏した。

一番の聴き所はパーカッション奏者 Martin Grubinger 大活躍の自作曲 Speaking Drums。 オーケストラの前に様々なパーカッションを並べ、 20世紀ハンガリーの詩人 Sándor Weöres の音声詩を歌い、というより、叫びながら、表情や動作も豊かに演奏していく。 パーカッションの配置もパフォーマンスを見せることも意識したもので、 舞台上手の楽屋口からマリンバの置かれた所までのルート上にハイハットが7つ置かれ、移動しながら叩いたり。 舞台中央、指揮台の前にはトムトム4台と木魚のようなパーカッションがラックにセットされ、 観客に背を向け上体を起こして腕を上げてオーケストラに立ち向かうように叩くこともあった。 Grubinger の演奏も色物以上に巧みな演奏で、それでいながら、演技力やキャラ立ちもあって、楽しいパフォーマンスだった。

曲も判りやすいリズムや調性を使うことも厭わないもので、 オーケストラと打楽器奏者がコール・アンド・レスポンスするかのような展開もあれば、 トランペットと打楽器のアブストラクトなデュオのような展開も。 現代音楽というより、オーケストラを使った作曲の要素の強いコンテンポラリー・ジャズのコンサートを観るようだった。

Martin Grubinger が出演した曲は Speaking Drums だけだったが、 予備知識は無かったこともあり、残した印象は強烈。 Grubinger はオーストリア出身で、2000年代後半から注目されるようになった percussion 奏者。 クラシックの文脈での活動がメインのようであるが、 自身の打楽器アンサンブル The Percussive Planete Ensemble を率い、クラシックに留まらない活動をしている。 また、ドイツ・バイエルン州の公共放送局 BR (Bayerischer Rundfunk) のクラシック音楽番組 KlickKlack のナビゲーターをするなど、演奏技術だけでなくそのキャラクターを活かした活動もしている。 この番組の過去放送分が YouTube の公式チャンネルで観られる。 今回の来日で演奏した Speaking Drums を紹介する回 [Martin Grubinger spielt "Speaking Drums" von Péter Eötvös] や、 フリーランニング (freerunning, 日本ではフランスのパルクール (Parkour) で知られる) の パフォーマーと The Percussive Planet Ensemble の共演を紹介する回 [Martin Grubinger - Percussive Planet Meets Freerunner] など、 Grubinger 自身の多才な活動も伺える内容だ。

Speaking Drums の他も、Eötvös の曲はどれもパーカッション使いが印象に残った。 また、The Glinding of the Eagle in the Skies では1/4音ずらした二台のハープの響きが、時折、カヌーン (kanun) のような響きに聴こえ、オリエンタルな印象を残した。 (パンプレットによるとバスク (Euskal / Basque) の音楽に着想したとのことが。) Ligeti の2曲の中では、San Francisco Polyphony。 反復を使い楽器音のテクスチャを際立たせてそれをレイヤに重ねていくような所があり、 minimal music に近い印象を受けた。

現代音楽の熱心なリスナーではないけれども、 『コンポージアム』は、オーケストラを使うような大掛かりな曲も取り上げられ、 その質も比較的高く安定している。 平日晩という日程もあり毎年行かれているわけではないが、毎年楽しみにしているコンサートだ。