Szalóki Ági は folk をバックグラウンドに持つハンガリーの女性歌手。 1990年代から gypsy brass をベースにしたミクスチャのグループ Besh o droM に歌手として参加するなどして活動していたが、2000年代半ばから主にソロで活動している。 やはり、folk をバックグラウンドに持つ女性歌手 Bognár Szilvia, Herczku Ágnes と3人での Szájról Szájra (FolkEurópa, FECD035, 2007, CD) のような佳作をリリースしている [レビュー]。
今回の初来日は A Vágy Muzsikál - Karády Dalok (FolkEurópa, FECD041, 2008, CD) というアルバムにもなったプロジェクトで。 戦間期ハンガリーの映画スター女優/歌手 Katalin Karády の歌を取り上げるというもの。 といっても、オリジナル [YouTube] に近い戦間期風のアレンジではなく、 かといって、post-free な jazz/improv のようなものでもなく、 1950s-60s の jazz vocal 風といったところ。 guitar が大活躍で trombone が入ったり、Latin テイストがあるあたり、West Coast 〜 Verve っぽいと感じた。
A Vágy Muzsikál の曲だけでなく、fado の曲を1曲、 あと、無伴奏でハンガリー民謡と日本の歌を1曲ずつ。 日本の歌は「さくら」を歌ったのだが、 歌に入ったとたん日本語が喋れないとは思えない日本語で綺麗に歌ったのが驚きだった。 彼女は、folk や jazz だけでなく、 Szalóki Ági - Borlai Gergő: Kishúg (FolkEurópa, FECD053, 2010, CD) のような alternative rock なアルバムもリリースしている。 色んなスタイルをこなせる器用な歌手なんだろうなあ、と、つくづく感心した。
今回のライブのもう一つの目当ては Juhász Gábor [関連レビュー]。 Zoltan Lantos や Mihaly Dresch など共に contemporary な jazz/improv の文脈で活躍する guitar 奏者で、 このプロジェクトでは guitar だけでなくアレンジを担当している。 彼であれば ♥60/40 (Budapest Music Center, BMC098, 2004, CD) で聴かれるような nu jazz 的なアレンジすら選択肢にあったろうに、 そうでなくまた戦間期 jazz 風でもなく、このスタイルを取ったその狙いを訊いてみたく思った。
中盤とアンコールで Juhász Gábor の guitar 伴奏のみで歌ったのだが (fado を歌ったのもこの duo で)、Szalóki Ági の歌声も生きてとても良かった。 このシンプルな duo をじっくり聴いてみたいようにも思った。