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Review: Kayhan Kalhor, Aynur, Salman Gambarov, Cemîl Qoçgirî: Hawniyaz Sound: The Encounter: New Music from Iran and Syria
2016/10/02
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Kayhan Kalhor, Aynur, Salman Gambarov, Cemîl Qoçgirî
Hawniyaz
(Harmonia Mundi / Latitudes, HMC905277, 2016, CD)
1)Delalê 2)Rewend 3)Xidirê Min 4)Malan Barkir-Bêrîvanê 5)Ehmedo - Ez Reben Im
Recorded at Fattoria Musica Sounds, outside Osnabrück, late summer 2013. Mixed by Walter Quintus, 2015.
Kayhan Kalhor (kemancheh), Aynur (voice), Salman Gambarov (piano), Cemîl Qoçgirî (tenbûr).

Yo-Yo Ma の Silkroad Project などで知られるクルド系イラン人 kamancheh 奏者 Kayhan Kalhor [レビュー]、 トルコ・イスタンブールの Kalan レーベルからのデビュー作 Keçe Kurdan (Kalan, CD293, 2004, CD) の鮮烈だったクルド人女性歌手/ソングライター Aynur [関連発言]、 1996年以来 ney をワンホーンとする4tet Bakustic Jazz を率いて活動するアゼルバイジャン出身の piano 奏者 Salaman Gambarov、 ドイツ生まれのアレヴィー派のグルド人 tenbûr 奏者 Cemîl Qoçgirî。 そんな 4tet Hawniyaz のアルバムだ。

中東で広く使われる擦弦楽器 kemancheh とクルドの lute 属の楽器 tanbûr を用い、 Aynur 作の “Rewend” を除きクルド、イランの旋法の伝統的な曲を演奏しているが、伝統的なスタイルで演奏しているわけではない。 4人を結びつけているのはむしろ jazz/improv 的なもので、それが最もよく判るのが Gambarov の piano だ。 Bacustic Jazz ほど jazz のイディオムは強くなく、音数少なめに classical に響かせる演奏だ。 それに合わせて kemancheh や tanbûr も音を丁寧に選ぶような演奏で、リバーブの効いた録音もあって、疎ながら奥行き感のある音空間を作りだしていく。 時に piano / violin / guitar のようにすら感じる端正な演奏に、Aynur の少々物悲しさも感じるコブシの効いた詠唱が乗る、実に美しいアルバムだ。 このミニマリスティックなプロダクションは、まるで ECM レーベルのよう。

ドイツ・ニーダーザクセン州のオスナブリュック (Osnabrück, NI, DE) では、 2005年以来、Morgenland Festival Osnabrück という、主に classic / jazz の文脈で中近東の音楽と西欧の音楽の共演を試みる音楽祭が開催されている。 ライナーノーツによると、その2012年の音楽祭にそれぞれ別のプログラムで参加した4人が、ある一日の午前にほとんどリハーサル無しで共演したことが、このプロジェクトのきっかけという。 そこで意気投合したが、それぞれ多忙なミュージシャンで話は進まず、翌2013年に再びオスナブリュックで顔を合わせた際に、 この繊細な音楽を録音するのに向いた落ち着いて隔絶された場所を探し、街の外れにあるスタジオで奥音したとのこと。 以来、この4人でヨーロッパで公演を重ね、アンサンブル名も Hawniyaz (クルド語で「皆他の皆を必要としている。我々はそれぞれ他の者のためにそこにいる」という意味の単語とのこと) と呼ぶようになったという。