チター (zither) 族の伝統楽器 kannel や中世から近世にかけて用いられた弾弦楽器 lute を演奏するエストニアのミュージシャン Toivo Sõmer のソロでのライブを観てきました。 2017年に沿ボルガ地方のウドムルト (Удмурт) のミュージシャンとのプロジェクト AR-GOD で来日した時は見逃したので、初めて観ます。 彼自身の出身地であるエストニアを中心に、西はスウェーデン、東はウドムルドまで伝統的な民俗音楽を取り上げて、kannel や lute を弾き歌いました。 アンコール無しの約1時間のこぢんまりとしたライブでした。
kannel はフィンランドの kantele やロシア gusli にも似た楽器ですが、 昔ながらなアコスティックなものと、現代的なチューニング機構とピックアップを付けたエレクトリックアコースティックなものを使い分けていました。 また、lute もピックアップを付けたエレクトリックアコスティックなタイプ。 ギターアンプ Roland Jazz Chorus JC-120 を使い、アンプ付属の looper 機能で音を重ねていく時もありました。 しかし、そんな技法から想像されるようには electric な jazz や rock のイデオムは無く、 楽器のアコスティックで繊細な音を生かした、少し口に篭るような歌い方もフォーク的な演奏を楽しむことができました。
AR-GOD というプロジェクトもあるようにウドムルドの音楽も演奏しましたが、 これは、エストニアもウドムルドもフィン・ウゴル系の民族という関係があるから。 しかし、エストニアというかバルト地域やフィン・ウゴル系の民族の音楽に疎くて分解能が低いこともあると思いますが、 zither 族の楽器をかき鳴らしながらの歌い口など、ロシアの Сергей Старостин [Sergei Starostin] [鑑賞メモ] との共通点を感じました。 一方で、スウェーデンの音楽は lute を弾きながら歌ったのですが、 Ale Möller などの fiddle や mandola を使ったものとは少々違うように感じました。 むしろ、こういう音楽もあったのかという新鮮さがありました。 17世紀、エストニアがスウェーデン・バルト帝国領だったわけですが、その影響がエストニアに残っているということで、スウェーデンの音楽を取り上げていたようです。 エストニア最古のタルトゥ (Tartu) 大学はスウェーデン領時代に設立されたとのことで、 Sõmer はスウェーデン時代を好意的に見ているようでした。
このハコでは、今年3月にもノルウェーの Margit Myhr & Erlend Apneseth のライブを観ていますが [鑑賞メモ]、 こういう民俗音楽の色の濃いこぢんまりしたライブをするのにちょうどいい距離感で、良い雰囲気だな、と。