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Review: Театр Ильхом, Подражания Корану (The Ilkhom Theatre, Imitations Of The Koran)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2007/03/10
パークタワーホール
2007/03/10, 14:30-16:00
Text: Alexander Pushkin's The Imitations Of The Koran (1824) and The Phophet (1826); the Koran; Mark Weill's poems; Rustam Nodiry Hukandy's poem.
Directed by Mark Weil. Music by Artyom Kim. Video art by Dmitry Korobkin. Choreography by Olimjon Beknazarov.
The Premiere of the production: 2002/02/22
Cast: Anton Pahomov (poet, film maker), Shavkat Matyakubov (story teller), Rastam Esanov (prohet), Faruh Holjigitov (voice), Ilya Dudochkin (voice), Nikolay Leonov (elderly man), Seydulla Moldakhanov (smoker), Marina Turpisheva (simple woman), Alyona Lustina (night-club girl), Darya Grishnikova (debutante), Boris Gafurov (young man), Vsevolod Suchkov (false prophet); Musicians: Aleksandr Vishnevskiy (piano, percussion), Asror Isahodjaev (bass, percussion), Artem Pozdeev (guitar, percussion).

Театр Ильхом (The Ilkhom Theatre) は ウズベキスタンはタシケント (Tashkent, UZ) の ロシア語 (Russian) のレパートリーを上演する劇団だ。 ソビエト政権下の1976年にソビエト連邦 (USSR) 初の非公式の独立劇団として活動開始した。 劇団員はロシア系が中心のようだが、 ウズベク系 (Uzbek) など中央アジアの民族の劇団員も多そう。 監督の Mark Weil はユダヤ系 (Jewish) で、音楽の Artyom Kim は朝鮮系 (Koryo-saram) だ。

19世紀ロシアの詩人 Pushkin の8編の詩からなる詩集 The Imitation Of The Koran に基づく作品だが、 その詩の世界を演じるというより、 その詩はもちろんコーラン (the Koran) そのものを用い、 様々な形でコーランに倣ってみせる作品だ。 その詩は俳優が喋る場合もあるが、むしろ俳優はダンスをはじめ身体表現で演じ、 詩やコーランは語り部 (story teller) が詠唱し声 (voice) 役の2人が淡々と朗読する。 映像も多用され、予め作ったものだけでなくライヴの映像も使用する。 詩の詠唱や朗読、生演奏の音楽、ダンスなどの身体表現、 映像が織り成す舞台が楽しめた作品だった。

舞台は、映画のオーディション・シーンから始まるのだが、 その時に、全ての登場人物に Pushkin の The Imitation Of The Koran を喋らせる。そして、エンディングでも、 全ての登場人物に同じ一節 (どこから採られたものか判らなかったが) を喋らせる。 預言者 (prophet) 役は1人だが、舞台上の全ての登場人物が預言者とも言える。 少くともその候補になりうることを暗示させる。 そして、端正な若者を思わせる預言者から婆娑羅な偽預言者 (false prophet)、 普通のおばさん (simple woman) から誘惑的なナイトクラブの女 (night-club girl) まで、様々な登場人物が演じることにより、さらに、それに映像が加わることにより、 詩やコーランの解釈が多様に時には合い矛盾して提示されていく。 その多声性が、この作品の一番の魅力だ。 それでいて、何でもありの相対主義な感じにならなかったのは、 コーランの詩的な瞬間というのを生かしていたからかもしれない。

上演後のシンポジウムで Weil は、この作品について、 一つの読みしか許さない原理主義的なものへの反対を意図している、 ようなことを言っていた。 ちなみに、プレミア上演は2001年の9.11テロ後の2002年2月だが、 制作自体はそれ以前から始めており、特にそれを意識した作品ではない。

映像使いが印象的で、女性は顔と肌を隠すべしという コーランの一節が使われている所で 女性のヌードに薄絹がかかっていくような映像が投影されたり、 心臓を取り出し石を入れるという詩的な比喩表現の際に 手術で開かれた胸で心臓が脈打つ映像が投影されたり。

しかし、最も強烈な印象の残したのは、 Shavkat Matyakubov のコーランや詩の詠唱に合わせてのダンスのシーンだ。 ダンスは現代的なものとはいえ鍛え上げられた欧米のダンス・カンパニーと比較にならないキレだったが、 Matyakubov のはりのある詠唱がそれを補って余りあった。 舞台音楽のCDでは詠唱は控えめにも感じるのだが、 実際の舞台では圧倒的だったし、それがとても良かった。 piano, bass, guitar のミュージシャン3人は透明なブースの中で演奏していたが、 Matyakubov は俳優と混じって舞台を動きまわり、 時には frame drum を叩きながら一緒に踊ったりもした。 音楽パートと演じる俳優たちを繋ぐような役回りで、それも興味深く思った。

あと、音楽演奏を見ていて気付いたのは、 CDを聴いていて打ち込みかサンプリングかと思っていた音が、 実は金属ジャンクのパーカションを実際に叩いていたものだったということ。 piano や bass、electric guitar も旋律を弾くというより、断片的なものだ。 詠唱や楽器演奏でのエスニック (中央アジア的) なものの交え方も含め、 やはり、1980s new wave っぽいと感じた。 ちなみに、この舞台作品の音楽は Музыка К Спектаклю "Подражания Корану" (Music To "Imitation Of The Koran" Production) (Poytaxt, 2003, no cat.no., CD) としてCDリリースされている。

ほとんど字幕を見ずに見ていたため、よく判らなかった点もあったのだが、 上演後のシンポジウムの話を聴いて、なるほどそういうことかと腑に落ちた点もあった。 しかし、シンポジウムで最も興味深かったのは、劇団のバックグラウンドの話。 特に、ウズベキスタンでは「バチカン市国」のような扱いで、 規制も無いが援助も無く、放っておかれている、とのこと。 裾野のあるシーンというより、 中央アジアにおいてかなり特異点的な劇団なのかな、とも思った。

ちなみに、創立30周年を記念して出版された劇団の歴史をまとめた本 Неизвестный Известный "Ильхом" (The Unknown Infamous Ilkhom) (Театр Ильхом, ISBN5-86280-014-X, 2003) も出版されている。 テキストは英語の7ページを除いて全てロシア語だが、写真が多く使われており、 特にソビエト政権下の非公式時代など、それを見ているだけでも興味深い。 赤と黒を基調とした Russian Avant-Garde っぽい装幀デザインも気に入った。 自分がロシア語がほとんど判らないため、テキストが読めないのが残念だ。

sources:
Театр Ильхом (The Ilkhom Theatre)
Музыка К Спектаклю "Подражания Корану" (Music To "Imitation Of The Koran" Production)
『コーランに倣いて』コンサート
パークタワーホール
2007/03/11, 14:30-16:00
Artyom Kim (composer, electric guitar, percussion), Aleksandr Vishnevskiy (piano, electric guitar, percussion), Asror Isahodjaev (electric bass, percussion), Artem Pozdeev (electric guitar, percussion), Shavkat Matyakubov (vocals, dotar, setor, surnai, kushnai), Mirazim Mirjalilov (vocals, doira); Vsevolod Suchkov (vocals) on "Aria Of The False Prophet".

Подражания Корану の公演に合わせて開催されたコンサートだ。 舞台公演の際に交代で story teller 役を務めた Matyakubov と Mirjalilov と 3人のミュージシャン、そして作曲者である Kim も MC と演奏で参加した。 演目は舞台音楽にウズベキスタンの伝統的な音楽を交えたものだった。 アンコールも1曲演った。 MCによると、このようなコンサートは、彼らにとっても特別なことだったようだ。 舞台音楽ということで音楽だけでは物足りないかもしれないと予想したが、 普通に楽しめた。

コーラン (the Koran) の一節を使ったオープニングの曲 ("A'zan") から、 その正統な節回しでの Matyakubov の詠唱で、ぐっと引き込まれた。 舞台音楽は、メタルパーカッションの音も生かしたパーカッシヴなバックに Matyakubov や Mirjalilov の詠唱が乗る "The Road To Mecca" や "The Epilogue" での その取り合わせの緊張感がかっこよいと再確認。 CDよりもライヴの方が、詠唱もメタルパーカッションの音も強烈で、 はるかにかっこよいように思う。 ちなみに、Mirjalilov の詠唱よりも Matyakubov の方が若干高く通るような声だ。 後者の方が迫力を感じられたように思う。

Matyakubov は、舞台音楽では dotar (二弦の撥弦楽器) や setor (三弦の撥弦楽器) を弾き歌い、 たまに kushnai (二管の小笛) を吹くという感じだ。 ウズベクの伝統音楽の演奏では surnai (zurna やチャルメラに似た double reed の木管楽器) も吹いた。 アンコールでも演奏した結婚式の際のダンス曲など、 循環呼吸法も駆使して、カン高いフレーズを吹き続けて、大いに盛りあげてくれた。 弦楽器だけでなくいろんな民族楽器を弾きこなせる人なのだと、感心した。

"Aria Of The False Prophet" では、 false prophet を演じた Suchkov が舞台に登場し、一曲歌っていった。 舞台の中でもキャラが立っていただけに登場は嬉しかった。 しかし、服装は普通で登場と退場は淡々とした感じ。 あの婆娑羅なというか道化的な衣裳で、登場と退場から役作りすると もっと盛り上がったかもしれない。

(2007/03/11追記)

公演会場で入手したカンパニー主宰・演出の Mark Weil が監督した映画作品のDVD Коне Века. Ташкент (The End Of An Era. Tashkent) (Театр Ильхом, no cat.no, 1996) について。この映画は、 ロシア (Russia) がタシケント (Tashkent) を占領した1865年頃から現在に至る歴史を、 記録映画、劇映画やニュースの映像と、現在のタシケント住民へのインタビューを使って辿る2部構成110分。 ケースのジャケットの時計は 映画 October (Sergei Eisenstein (dir.), 1927) から採られており、「一つの時代」というのは、ソビエト連邦時代を指していると言ってよいだろう。 その先駆としてのロシア時代も含めてもいいのかもしれない。 タシケントをロシア〜ソビエト時代に栄えた トルキスタン (Turkistan) で最もコスモポリタンな街として捉え、 ロシア〜ソビエトをそれなりに肯定的に描いている。 映像で観る限り、新市街の街並みは近代的で東欧の大都会のようにすら見えた。 一方、ウズベキスタン (Uzbekistan) 独立後にチムール (Timur) を 英雄としてまつりあげるような民族主義的な動きに対する警戒のメッセージを エンディングに持ってきている。 といっても、スターリン (Stalin) 時代の民族浄化や 1966年の地震を機にした旧市街の強制的な再開発のような暗部にも触れている。 ソビエト時代の全面肯定と独立後の批判をしているのではなく、 特定の民族に拘らないコスモポリタンな街の雰囲気を称揚していると言った方が良いのかもしれない。 このような視点の是非は別にして、 ソビエト時代の中央アジアの映像などめったに観る機会が無いだけに、 それを観られたというだけでもDVDを入手して良かったと思った。

(2007/03/27追記)

以下は、公演前の Театр Ильхом (The Ilkhom Theatre) 関連の談話室への発言の抜粋です。

[1835] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Fri Feb 2 1:28:53 2007

ところで、生演奏付きダンスといえば、ダンスではなく演劇ですが 、 『wabisabiland pop diary』でも紹介されていますが (「『ザ・ビートルズ・サウンド』『コーランに倣いて』」, January 28, 2007)、今日から始まった 東京国際芸術祭2007の公演の一つ、 ウスベキスタン (Uzbekistan) のカンパニー The Ilkhom Theatre (Театр Ильхом, イルホム劇場) の Imitations Of The Koran (Подражания Корану, 『コーランに倣いて』) の 日本公演 (3/8(Tue)-10(Sat) @ パークタワーホール) も、生演奏付きです。さらに、3/11(Sun) にはミュージシャンのみのコンサートもあります。 こちらも気になります。 まだチケットは買ってませんが、 公演だけで4,000円、公演とコンサートのセットで5,000円なので、 とりあえずセットを買ってしまっていいかなぁ、と思ったり。

音楽演奏は Ravshan Namazov (Равшан Намазов) 他、ということのようですが、さすがに知りません。 検索してみたところ、ウズベキスタンの英語雑誌 San'at の記事 "Art Heritage in Uzbek Pop - Music" (2002年第4号) にこんな記述を見付けました (引用者訳)。

独立後、国内のポップ様式における "Yalla" のグループの主導によって、 国内のポップ様式においては、グループ Yalla の主導で、 若手のミュージシャン、特に Ravshan Namazov、Saiera Kazieva と Mahmud Namazov の作品に発展が見られた。
"Yalla" は主にフェルガナ=タシケント (Fergano-Tashkent) 地域のウズベク民族音楽 (Uzbek folk music) に対する彼らの創造的な研究に基づいているということは特筆すべきである。 R. Namazov、S. Kazieva と M. Namazov の作品はスルハンダリヤ (Surkhandarya) 州 (訳注:ウズベキスタン最南の州) に典型的な音楽ジャンルの独創的な解釈とみなすことができる。

あと、"Daler Nazarov & Ravshan Namazov" というキャプションの付いた ライヴの写真 (2004/4/9 @ Studion "Aviator") を発見。これを見ると、けっこう rock 的な音楽もやってる人のようです。 といっても、『コーランに倣いて』の写真では、 oud や saz っぽい弦楽器を弾き語っているように見えますが。

[1837] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Sun Feb 4 0:02:13 2007

さて、木曜晩にしたウスベキスタン (Uzbekistan) のカンパニー The Ilkhom Theatre (Театр Ильхом, イルホム劇場) の Imitations Of The Koran (Подражания Корану, 『コーランに倣いて』) (日本公演, 3/8(Tue)-10(Sat) @ パークタワーホール) のですが、誤りがあったので、訂正しておきました。

記事 Davlat Mulladjanov, "Art Heritage in Uzbek Pop - Music" (San'at, 2002年第4号) の Yalla というのはジャンルではなくて、グループの名前ですね。 Yalla は1970年代からシーンを主導するように活動してきた フェルガナ=タシケント (Fergano-Tashkent) 地方のグループ、 Ravshan Namazov は Yalla の影響下で出てきた若手のスルハンダリヤ (Surkhandarya) 地方のミュージシャン、 ということのようです。これに気付いたのは、その後、同じ雑誌に載っていた記事 Yulduz Usmanova, "The Uzbek pop music at the change of centuries" (San'at, 2004年第1号) を読んで。 この中に、民謡を解釈し直したようなポピュラー音楽の最近の傾向が次のようにまとめられています (引用者訳)。

「軽」音楽の現代のジャンルは、一般に、「安全」で習慣的でありふれたものしか志向しない、商業的でポップな芸術 (テレビ、ラジオ、映画、そして出版を含む) に深く依存している。 過去においては伝統的な音楽言語は、ほとんど例外なく、音楽的な表現システムに基づいていた。 それは、昔々に安定したものになり、広く利用できるようなったものだった。 これは、例えば、Tamara Khanum のコンサート、Mamurdjan Uzakov によるジャンル "yalla" の流行歌の公演、Batyr Zakirov の歌う Ikram Akbarov の現代的な叙情的な歌、1970〜80年代に主に活躍したグループ Yalla の民謡の解釈に基づくレパートリー、などである。 現在、若いポップの歌手のレパートリーにおいて、よく知られた民謡的な旋律だが異った解釈をされたものが、ある一定の場所を占めている。 それらの中には創造的な性質を持つものもある (Nasiba Abdullaeva や Sevara Nazarkhan、アンサンブルの Nola と Bolalar。 ほとんどの場合は流行に過ぎないが)。 それらは、単純なジャンルと様式の枠組の中で、芸術的現代性を持ち、自身の世界についての見方に対して適切な、ポピュラーな表現を伴っている。 (以下略)

ところで、この記事を書いているのは、ウズベキスタンの有名な女性歌手で、 Jah Wobble 制作の Bilmadim (30 Hertz, HZCD23, 2004, CD) なんて作品もある Yulduz Usmanova じゃないですか。へ〜。ちなみに、雑誌 San'at を出版している OrexCA (Oriental Express Central Asia) は、タシケント (Tashkent, UZ) に本社のある中央アジアの旅行会社のようです。

Jah Wobble 制作といっても Yulduz Usmanova, Bilmadim はそんなに凄い出来ではなかったですが。 やっぱり、Hector Zazou 制作の Sevara Nazarkhan, Yol Bolsin (Real World, CDRW109, 2003, CD) がお薦め、というか。 早く新作をリリースして欲しいものです。

ちなみに、Yalla は、 シアトル (Seattle, WA, USA) のレーベル Imagina Productions から、 2タイトルのCDリリースがあります。 このレーベルはロシア (Russia) と中央アジアの音楽を扱うレーベルで、 Yulduz Usmanova のリリースもあります。 しかし、少し試聴してみましたが、買ってまで聴きたいかは微妙……。うーむ。

[1853] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Wed Feb 28 23:09:15 2007

2月の頭にしたウスベキスタン (Uzbekistan) のカンパニー The Ilkhom Theatre (Театр Ильхом, イルホム劇場) の Imitations Of The Koran (Подражания Корану, 『コーランに倣いて』) (日本公演, 3/8(Tue)-10(Sat) @ パークタワーホール) の話 (関連発言: [1835], [1837]) の フォローアップ。日本公演まであと10日を切りましたし。

公演で来日するミュージシャンとして Ravshan Namazov の話をしたわけですが、 公式サイトのインフォメーションにもあるように、その後、変更がありました。 Namazov の代わりに来日するのは Shavkat Matyakubov と Mirazim Mirjalilov で、 2人が日替わり出演するようです。

Mirjalilov の方は心当たりありませんが、 Shavkat Matyakubov (Шавкат Матякубов) は、2005年頃、ニューヨーク (New York, NY, USA) の現代音楽アンサンブル Bang On A Can とよく共演していたミュージシャンですね。 ニューヨークの先鋭的/実験的な音楽の拠点として知られるライブハウス Tonic でのライヴの写真入りレビューを、 "Bang on a Can and Musicians from Uzbekistan Performance" (CEC ArtsLink, 2007/8/2) で読むことができます。 個人的には、ロシア・サンクトペテルブルグ (Санкт Петербург (St. Petersburg), RU) の АПозиция (APosition) の開催しているアニュアルの音楽フェスティバル APosition Music Forum 2005 への出演の方が気になっていますが。2005/10/13 の Mark Stewart (Bang On A Can All-Stars) と Shavkat Matyakubov に あの元ホームレス free jazz 動態保存男 Charles Gayle (レビュー; Interview, Perfect Sound Forever, March 2000) の組み合わせって!?

ちなみに、サンクトペテルブルグに2001年にオープンした АПозиция (APosition) は、 モスクワ (Москва (Moscow), RU) の ДОМ (DOM) とも連係した実験的で非商業的な音楽と音楽関連のアートの拠点です。 旧ソ連の alternative/independent/underground な音楽に興味ある人であれば、 ДОМ と共に要チェックでしょう。 ちなみに、ДОМ については 2003年頃に書いた紹介記事をどうぞ。

さて、話を The Ilkhom Theatre, Imitations Of The Koran に戻して。 この劇中音楽をCD化したものを、公演主催の 国際交流基金の方に頂くことができました。 正直、インフォメーションに「伝統音楽をベースにしたロック調のライブ演奏」とあって、 ロック・オペラ調だったり旧共産政権時代のロックの動態保存だったりするかもと、 嫌な予感もしたりしていました。 だがしかし、実際に聴いた印象は、 「Crammed Discs の Made To Measure シリーズみたい」。 特に電子楽器の音使いが electronica 以前で1980年代ぽく感じることもあるのですが、 rock 的なイデオムは控えめで jazz/improv/new music っぽい所もあって、 エスニックな雰囲気の入れ込み方、音のすき間を生かした音作りという点も、 Made To Measure っぽいなぁ、と。 CDで聴いてとても良いという程ではないですが、 舞台音楽ですし、これはこれでよろしいのではないでしょうか。 ちなみに、作曲は Artyom Kim (Артём Ким; ⇒ The Living Composers Project)。 ウズベキスタン出身の Корё-сарам (Koryo-saram, コリョサラム, 高麗人; 旧ソ連に住む朝鮮族) で、 現代音楽や舞台音楽の作曲家として活動している人のようです。

ところで、東京での展覧会、コンサートやイベントの情報は、 会場で貰ったり拾ったりするフライヤの他に、フリーペーパー Metropolis でたいていチェックしているわけですが、今週号 (Issue 676, 23 Feb 2007) は "Stage" (舞台) 欄で 東京国際芸術祭 (TIF, Tokyo International Art Festival) を取り上げています。 その中で最も大きく取り上げられているのが、The Ilkhom Theatre でした。ほほう。 やはりこれが今年の TIF の中で一番の注目でしょうか。

以下は、 Театр Ильхом (The Ilkhom Theatre) 芸術監督 Mark Weil 殺害事件に関する 談話室への発言の抜粋です。

[1994] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Mon Sep 10 19:42:12 2007

速報。

今年の3月に 『コーランに倣いて』 (Подражания Корану / Imitations Of The Koran) を来日公演した (レビュー) ウズベキスタンはタシケント (Tashkent, Uzbekistan) の劇団 Театр Ильхом (The Ilkhom Theatre) の芸術監督 Mark Weil が、9/6深夜に自宅で2人の男に襲撃され殺害されました ("Mark Weil, Tashkent Theater Director, Dies at 55", The New York Times, 2007/9/8)。

殺害の手口は今年の頭にあったロシアのジャーナリストに対する一連の暗殺襲撃と全く同じという指摘があります ("Murder in Tashkent", Craig Murray, 2007/9/7)。 ロシアのジャーナリストの暗殺といえば去年10月の Anna Politkovskaya の事件が知られていますが ("Chechen war reporter found dead", BBC News, 2006/10/7)、 「西側では Anna Politkovskaya や Alexander Litivinenko の事件がニュースのヘッドラインとなった。 しかし、ロシアではこの手の殺害は、なんら特別なことではない」と、 Mark Weil 暗殺手口を伝えているイギリス人ジャーナリスト 元在ウズベキスタン英国大使の Murray 氏は言っています ("Russian Journalist Murders, and Gazprom", 2007/6/1)。 そして、Murray 氏は Weil 氏暗殺をこの一連のジャーナリスト暗殺に連なるものと見ているようです。

一方、現地フェルガナ地方 (Фергана / Fergaha / Ferghana); ⇒en.wikipedia.org) のロシア語ニュースは 「劇場の芸術監督はイスラム教徒の多い東方においてタブーとされていたことをおおっぴらに破っており、 止めさせるべきだと感じている人もいた」とも指摘しているようです ("Марк Вайль. Версия убийства", Фергана.ру, 2007/9/7)。 (Google 翻訳 (Russian-English) と 手持ちの Oxford のペーパーバック辞書 (Russian-English) を頼りに読んだので 誤解があるかもしれません。間違えていたら訂正をお願いします。)

このように殺害の背景についてはいくつかの憶測が飛び交っている状態ですが、 いずれにせよ、旧ソ連時代をアンダーグラウンドで生き抜いてきた劇団の芸術監督が、 ソ連解体後に暗殺される、というのは、 ソ連解体によって社会状況が改善されたわけではない、 と実感させられるものがあります。

それにしても、今年の十指に入るであろう非常に面白い舞台を観せてくれただけに、 とても残念なニュースです。 というか、半年前に生で観た人の暗殺というのは、なんともイヤな話です……。

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[1996] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Tue Sep 11 19:44:30 2007

Ilkhom Theatre 芸術監督 Mark Weil 殺害ニュースの続報。

フェルガナ地方 (Фергана / Fergaha / Ferghana) のロシア語ニュース Фергана.ру の 英語版 Ferghana.ru は、 信頼できる情報筋によると今まで報道された憶測は事件と関係なく Mark Weil を殺害した犯人は彼の住む集合住宅の入口の前にたむろしていた麻薬常習者の可能性が高い、と伝えています ("Tashkent: did Mark Weil disturb junkies?", Ferghana.ru, 2007/9/10)。 しかし、Фергана.ру に英語版 Ferghana.ru があったことにいまさら気付きました。 ちなみに、英語版での第一報は、 "Renowned artistic director Mark Weil murdered in Tashkent" (Ferghana.ru, 2007/10/9)。 こちらは、事件の推測には触れず、Ilkhom Theatre と Mark Weil の活動を紹介に多くを割いています。 英語版は必ずしもロシア語記事の英訳を配信しているわけではないようです。

麻薬常習者犯人説のソース記事はウズベキスタン (Uzbekistan) のロシア語ニュース UzMetronom"Марк Вайль оказался не в то время и не в том месте…" (2007/9/9) です。 さらに、UzMetronom は Mark Weil 殺害の最初の容疑者が逮捕されたとも伝えています ("Задержан первый подозреваемый в убийстве", 2007/9/11)。 ただし、名前、性別、年齢、職業やどのような社会的グループに属する人物であるかは、公表されていません。 また、逮捕を報じる記事は、警察当局はこの事件について一切ブレス発表をしておらず、 ジャーナリストは個人的な情報収集を強いられているとも、伝えています。 暫く、事件に関する情報は錯綜しそうです……。

ちなみに、Театр Ильхом (The Ilkhom Theatre) とその芸術監督 Mark Weil がどのような活動をしてきたのか、日本語で読める記事としては、 「イルホム劇場 演出家マルク・ヴァイル レクチャー」 (TIFポケットブック, 東京国際芸術祭2007) がお薦めです。参考までに。

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[1999] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Thu Sep 13 0:05:44 2007

Ilkhom Theatre 芸術監督 Mark Weil 殺害ニュース 第三報。

昨晩紹介した、麻薬中毒者犯人説の英語記事 ("Tashkent: did Mark Weil disturb junkies?", Ferghana.ru, 2007/9/10) のコメント欄に、 「ウズベクの保安局との特恵的関係に基づき UzMetronom (Ezhkov 氏) が流布させようとしているストーリーに対し Ferghana.ru がより慎重な姿勢を示さなかったことは非常に嘆かわしい」 なんてコメントが。 もともと UzMetronom は保安局の息がかかってるということなのか、 Weil 氏殺害ニュースの件で利用されているのか……。

その後、Ferghana.ru は、ウズベキスタン国営の各メディアが、 Mark Weil 氏殺害事件のニュースを締め出して、 その悲劇的な死に気付かれないようにしている、と伝えています ("Uzbek State media outlets boycott Mark Weil's murder", 2007/9/12)。 匿名希望のタシケントの新聞関係者は、 記事は用意されたが権力機構から記事を落すよう電話がかかってきた、 と Ferghana.ru に語ったそうです。 ちなみに、この記事については、同様の内容のロシア語記事もあります。 ("Государственные СМИ Узбекистана обошли молчанием трагическую смерть Марка Вайля", Фергана.ру, 2007/9/11)。

ちなみに、Фергана.ру は、 ウズベキスタンの芸術関係者たちによる Mark Weil 追悼の言葉を集めた追悼記事も載せています ("Конец эпохи. Памяти Марка Вайля", 2007/9/12)。 音楽関係では、グループ Ялла (Yalla) の drums 奏者 Алишер Туляганов (Alisher Tulyaganov) が、 1970年代から縁があったようで、「パフォーマンスのための音楽を作ったこともあった幸運を誇らしく思う」と言ってます (ちなみに、Yalla についての談話室での関連発言)。

また、葬儀は2007/9/12の12:00-14:00にIlkhom Theatre の展示ホールで行われ、 その後、遺体はモスクワに送られ 9/13 の13:00に非宗教的な葬儀を行い荼毘に付され、 遺灰は遺族のいるアメリカのシアトルに埋葬されるそうです ("Ташкент: Прощание с Марком Вайлем состоится в среду, 12 сентября", 2007/9/9)。 この葬儀の予定を伝える記事は、関連ニュース記事へのリンク集にもなっていて、参考になります。

関連するお薦めのニュース記事としては、 EurasiaNet (Transition Online とも記事を交換してる旧ソ連ニュースサイト) の "Uzbekistan: Theater Director's Death Fuels Despair Among Uzbek Intellectual" (2007/9/11)。 「その動機は現場の状況は依然闇の中だが、ウズベキスタンの言論の自由に直接的な影響を与えていると。 「Mark Weil 氏殺害で我慢の限界を越えた。もはや、ロシア、特にモスクワへの移住しようかと」というアーティストの言葉を紹介してます。

あと、イギリスの新聞 The Observer (高級紙 The Guardian の日曜版) にも、 追悼記事が出てましたね ("Death of a radical as director is stabbed", 2007/9/9)。 「ウズベキスタンの抑圧に挑んできた物議を醸す劇団の創設者」ですか。 なんか、The Guardian / The Observer らしい論調かな。

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[2001] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Thu Sep 13 23:28:44 2007

Ilkhom Theatre 芸術監督 Mark Weil 殺害ニュース 第四報。

昨晩、第三報で紹介したように、 12日にタシケントの Ilkhom Theatre で Mark Weil の葬儀が行われたわけですが、 その時の様子を、早速 Фергана.ру が10枚の写真入りで伝えています ("Узбекистан: В Ташкенте состоялась официальная церемония прощания с Марком Вайлем", 2007/9/12)。 英語版 Ferghana.ru に英語抄訳版の記事もあります ("Uzbekistan: Official ceremony of farewell to Mark Weil took place in Tashkent", 2007/9/12)。

この記事によると、集まった人々は劇場に入り切れず、中庭をも埋めたようです。 写真からも、多くの人々が詰めかけた様子だけでなく、 世俗主義的なスタイルで葬儀を執り行った様子が伺われます。 また、記事によると、葬儀には、 在ウズベキスタンの大使館や国際機関の代表などの姿もあったよう。

英語版では、ウズベキスタン当局の代理人の弔辞は聞かれたが、 政府高官自身が弔辞を述べることは無かった、とあります。 一方、ロシア語版では、公的な劇場 Узбектеатр (Uzbekteatr; ウズベク劇場) の代表と ウズベキスタン共和国文化スポーツ大臣が弔辞を述べた、と書かれています。 また、UzMetronom は、 弔辞を述べた政府関係者は Uzbekteatre 代表のみだった、と伝えています ("Прощание с Марком Вайлем", 2007/9/12)。 ここらは、若干報道にブレがありますが、 葬儀に出席した政府関係者はそれなりにいたけれど、 弔辞を述べたのは Uzbekteatr 代表とせいぜいもう一人くらいだった、 ということでしょうか。

東京ではタシケントの葬儀に駆けつけるなどそうそうできないわけですが、 この記事でその雰囲気を少しでも感じて頂ければ。 というか、これらの記事を読んでいて、 ちょっぴり葬儀の覗けたような気分になれました。 それと共に、やっぱり本当に死んでしまったんだなぁ、と……。

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[2006] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Wed Sep 19 0:21:30 2007

ウズベキスタン (Uzbekistan) の Ilkhom Theatre 芸術監督 Mark Weil 殺害のニュースのフォローアップ。 といっても、タシケントでの葬儀の様子を伝えるニュースで、 報道も一段落した感じもあるのですが。 もちろん自分の見落しも多いと思うので、 何か御存知の方がいらしたら、是非教えてください。

さて、1週間前のニュース記事になっていますが、 "Mark Weil and Uzbek media's silence" (uznews.com, 2007/9/11) という記事を見付けました。 ウズベキスタン国内メディアが Mark Weil 殺害を報道していない件については 第三報で紹介しましたが、 この記事は各メディアの特徴についても触れ、その理由を分析しています。 ウズベキスタンのメディア事情に疎いので、とても参考になります。 この記事によると、11日時点では以下のようになっています。

ウズベキスタンの主要な日刊紙2紙 Narodnoye SlovoPravda Vostoka、 政府寄りの通信社 UzA.uz と Press-uz.info は沈黙を保っています。

報道したメディアとしては、まずインデペンデントな (この文脈では政府の意向や検閲から独立した、という意味) ニュースサイト Uzreport.com と Gazeta.uz。 Uzreport.com は経済週刊誌 Biznes Vestnik Vostoka の創刊者が立ち上げたサイトだそうです。 Gazeta.uz は SNB (National Security Service, 国家保安局) と結び付きがあると信じられてきたそうで、 「インデペンデントなニュースサイトからの再配信とはいえ、この変化は良いことだ」と書かれています。

あと、殺害事件に強い反応を示していると紹介されているのが、 ニュースサイト Uzmetronom.com。 ここは、麻薬中毒者犯人説を報じたサイト (第二報) で、 Ferghana.ru のコメント欄で国家保安局と関係アリとされていました (第三報)。 しかし、uznews.com の記事では、 ここで言及した中で最もインデペンデントなサイトかもしれない、と書かれています。

Uzreport.com、Gazeta.uz、Uzmetronom.com 以外 他の国内メディアは一言も触れていません。 「今や、インデペンデントと称しているが他の地元メディア同様検閲下にある いくつかのメディアが、他には許されていないことを書いている、という状況にある。 公式には独立とされているのでそうしうるのは明らかだ」と記事は書いています。 これは、Gazeta.uz や Uzmetronom.com のことを意識して書かれてるのでしょうか。

この記事は、 Mark Weil 殺害が報じられない理由として、この事件が特別なわけではなく、 「ウズベキスタンのジャーナリストは、捜査が終るまで犯罪を記事にできない」 ということを挙げています。これは捜査のためにしているということだそうです。

また、もう一つの理由として、 「ジャーナリストは上からあることについて書けという命令を受けるべきで、 それまでは何も書こうとはしない」という不文律が働いている、 ともこの記事は指摘しています。

こんな感じで、Mark Weil 殺害事件の報道から ウズベキスタンの報道事情が透けて見えるようで、なかなか興味深いです。

ちなみに、この事件を最も積極的に報じているのは Ferghana.ru ですが、 これはロシアのモスクワ (Moscow, RU) に本部を置く、 フェルガナ地方、ウズベキスタンをはじめとする 中央アジアのニュースを扱う通信社です。 ウズベキスタン国内メディアではありません。

しかし、こんな感じなので、 暫くは Mark Weil 殺害事件関連のニュースは無いように思われます。 今後もフォローするつもりではありますが、 新たなニュースに気付かれた方は是非教えて下さい。

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[2015] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Tue Oct 2 23:46:38 2007

2週間近く空きましたが、Ilkhom Theatre 芸術監督 Mark Weil 殺害事件の続報です。

一週間余り前の記事となりますが、 "Two weeks without Weil..." (uznews.com, 2007/09/21) の内容が興味深いです。 この記事の後半は、Mark Weil 殺害事件の1年余り前に起きた類似の事件に触れています。 Skan Multi という若手映画監督がタシケントのアパートで切り刻まれて発見されたというものです。 事件時フィルムは紛失したものの、数ヵ月後に発見され、監督不在でプレミア上映されました。 そして、この時も犯人は捕まらず、公式な報道機関が Skan について報じることを禁じたそうです。 死の直前、Skan Multi は映画 Hoja Nasreddin の完成を援助してくれる スポンサーが見付かったと、自身のウェブサイトで言っていたのですが、 そのスポンサーというのはウズベキスタン大統領の娘 Gulnara Karimov の会社 Terra だったそうです。 そして、Gulnara Karimov は Ilkhom Theatre にも注目していて、 Weil の意に反してスポンサーになってもいたそうです。 この uznews.com の記事は、2つの事件の背後に Gulnara Karimov がいるというより、 事件が報道されない理由として Gulnara Karimov が関係しているのではないかと 臭わせるような内容です。 ちなみに、この記事を載せた uznews.com は、Mark Weil 殺害事件を報道しない ウズベキスタンのメディアを分析した記事 "Mark Weil and Uzbek media's silence" (uznews.com, 2007/9/11) を載せたニュース・サイトです。

Mark Weil 殺害事件を積極的に報じて来ている Ferghana.ru には、 一週間ほど前に、容疑者の似顔絵が載った記事 "Uzbekistan: murderers of Ilkhom Art Director Mark Weil still at large" (Ferghana.ru, 2007/9/26) が掲載されてました。 逮捕者が出たという UzMetronom の報道もありましたが (関連発言)、 結局まだ逃亡中ということのようです。 (やはり、UzMetronom の記事はアテにならないのか……。)

現在は、身内による犯罪が高いとして、ここに焦点を合わせて捜査が進められているようです。 Ilkhom Theatre の俳優や従業員を対象に取り調べが行われており、 俳優はかなりの心理的プレッシャーに晒されているだけでなく、 長時間にわたる取り調べのために上演のスケジュールの変更を強いられたりもしているようです。

また、この記事で知りましたが、 Remembering Mark Weil という追悼サイトができています。 実質、Weil のシアトルの Washington Univ. での2人の教え子が立ち上げた The Ilkhom Fund (Ilkhom 基金) のサイトのようです。 少し覗いてみましたが、コンテンツはまだまだこれからでしょうか。

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[2034] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Wed Oct 24 23:33:33 2007

約3週間ぶりの Ilkhom Theatre 芸術監督 Mark Weil 殺害事件の続報。

The Independent 紙のアート・コラム欄 (David Lister, "The Week in Arts") に "Why is this drama not in the global spotlight?" (2007/10/13) という記事が出ています。 Simon McBurney 率いるイギリス (UK) のカンパニー Complicité は、 9/5から10/6まで BarbicanA Disappearing Number を上演していました。 このコラム記事によると、 McBurney はその上演後のカーテンコールで「この作品を Mark Weil に捧ぐ」と言い、 Mark Weil が殺害され、その殺害には政治的なものと見られる特徴があると、観客に語っていたそうです。 そして、「イギリスにおいて映画と同じくらい演劇に影響力があったらと思わざると得ない。(中略) もし George Clooney がこの殺害事件に注目していたら、 事件記者の一団がタシケントへと向かってたのではないかと思う」と Lister は言っています。 つまり、この記事のタイトル「どうしてこのドラマは世界的な注目を集めないのか?」の 「このドラマ」とは、Complicité の作品ではなく、Mark Weil 殺害事件のことを意味しています。

ちなみに、欧州議会 (Euroepan Parliament) の第二会派である 社会主義グループ (PSE, The Socialist Group in the European Parliament; 英労働党、仏社会党、独社民党などからなる会派) は、 Mark Weil 殺害事件について調査を開始したと、10月4日付けで発表しています ("Socialists probe murder of celebrated theatre director", The Socialist Group in the European Parliament, 2007/10/04)。 またこの声明によると、同日付けで、PSE は殺害事件を取り巻く状況についてウズベキスタン当局に説明を求めたとのことです。 その回答に関するニュースはまだ見当たりませんが。

このように、ヨーロッパではいろいろなレベルで Mark Weil 殺害事件の真相究明を求める動きがあるようです。

さて、紹介しそこねていたのですが、 今年3月に Ilkhom Theatre を日本に招聘した国際交流基金が、 Mark Weil 殺害事件の約1週間後に 「イルホム劇場[ウズベキスタン]芸術監督マルク・ヴァイル氏の逝去について」 (2007/9/12) という追悼ニュースを発表していました。 日本語で読むことができるまとまった追悼記事として、お薦めです。

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[2044] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Tue Nov 13 22:56:10 2007

約3週間ぶりの Ilkhom Theatre 芸術監督 Mark Weil 殺害事件の続報。

uznews.net のニュース記事によると、 Mark Weil 殺害に関わった容疑者の逮捕令状がタシケントの警察に出ているそうです ("Former human rights activist named suspect in Mark Weil murder", uznews.net, 2007/10/23)。 容疑者は人権団体のメンバーや独立系ジャーナリストとして活動歴のある 1983 年生れの Oleg Sarapulov。 この記事で、ウズベキスタンの人権団体 Human Rights Alliance in Uzbekistan (ウズベキスタン人権同盟) の Yelena Urlayeva は彼は「犠牲者」として選ばれていると指摘しています。 Sarapulov は人権団体及び独立系ジャーナリスト・ユニオンのメンバーだった時に 警察とのトラブルを抱えていたそうです。 また、Weil 殺害事件以来 タシケントのゲイが容疑者リストのトップに挙げられて多くが取り調べを受けており、 Sarapulov がゲイであることも犠牲者に選ばれた理由として指摘されています。

Ferghana.ru は Sarapulov への逮捕令状のニュースは伝えていませんが、 Mark Weil 殺害事件についての事実を内務省が歪めているという 人権団体コミュニティの主張を伝えています ("Uzbekistan: human rights community condemns the Interior Ministry for distortion of facts in the matter of Mark Weil's murder", Ferghana.ru, 2007/10/29)。 この記事では Yelena Urlayeva は Human Rights Alliance in Uzubekistan のメンバーではなく Center of Public Control over Uzbek Law Enforcement Agencies (「ウズベキスタン警察当局監視市民センター」) のメンバーとして登場しています。 彼女曰く「ウズベキスタンの政治体制批判をしたためウズベキスタンのシークレット・サービスに暗殺されたと、私と話した人達は確信している。 捜査を逸すためにウズベキスタン内務省は歪めた事実を広めていると確信している。 現在嫌がらせを受けたり追求を受けている人たちは無実だ。」

ところで、「ウズベキスタンのおっかない情勢」について nofrills さんが日本語でまとめています (Mark Weil 殺害事件への言及も少しあり): 「ウズベキスタンでのジャーナリスト殺害」 (『today's news from uk+』, 2007/10/30)。 ウズベキスタン情勢については日本語で読めるニュースやそのまとめが少ないですし、 Mark Weil 殺害事件の背景の一つを伺い知るブログ記事としてお薦めです。 この記事で気付いたのですが、 第1報Craig Murray をジャーナリストと紹介してしまいましたが、 元在ウズベキスタン英国大使 (2002-2004) だったのですね。失礼しました。 お詫びして訂正します。 ちなみに、Murray が大使を解任された経緯は en.wikipedia.org のエントリ によくまとめられています

あと、sdt さんの ?Dのエントリ (『ひらづみ』, 2007/11/05) で、 Ilkhom Theatre の公式サイトに 葬儀の様子を捉えた写真が多く掲載されていることに気付きました。 Mark Weil 追悼ページ の下の方からリンクされている5つのページにまとめられています。

殺害事件と直接関係するわけではありませんが、Ilkhom Theatre 関連のニュース。 フランス・パリ (Paris, Ile-de-France, FR) の文化施設 Maison d'Europe et d'Orient (ヨーロッパ=オリエント会館) で10月28日に "Soirée d'hommage à Mark Weil / Remise du Prix Paris-Europa 2007" (「Mark Weil に捧げる夕べ / 2007年パリ=ヨーロッパ賞授賞式」) というイベントが開催されました (Manifestations avril - octobre 2007 @ Maison d'Europe et d'Orient)。 Prix Paris-Europa というのは、 イル=ド=フランス地域圏 (Ile-de-France, FR) と東欧やより広義のヨーロッパの間の 交流や共同プロジェクトの促進を目的とする、 パフォーミング・アーツもしくは文化一般の分野に与えられる賞とのことです。 賞の創設はおそらく2005年。 そして、2007年は Ilkhom Theatre へ授賞されることになったようです。 このイベントで上演された Patrick Hadjadj 作・演出の En souvenir du prochain Mark Weil のダイアローグが Primo-Europe というフランス語ブログで紹介されています (Victor Lavie, "Connaissez-vous Mark Weil?", Primo-Europe, 2007/11/01)。

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[2581] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Tue Feb 23 23:12:36 2010

2年以上前の2007年の話ですが、ウズベキスタンのカンパニー Театр Ильхом (The Ilkhom Theater) の芸術監督 Марк Вайль (Mark Weil) が殺害されるという事件がありました [関連発言]。 日本公演を観た半年後ということもあって、 これに関する一連のニュースを、この談話室でも紹介していました。

その後、ほとんどニュースが途絶えてしまっていたのですが、 Mark Weil 殺害容疑者への判決が出たと BBC News が伝えています: “Three guilty of murdering Uzbek director Mark Weil” (BBC News, 2010/02/18)。 犯行を計画した者の供述によると、犯行の動機は、Weil の演劇作品 『コーランに倣いて』 (Подражания Корану / Imitations Of The Koran) における預言者ムハンマドの描写への反発を犯行の動機とのこと。 主犯 (懲役20年) の他、犯行を助けた元警察官2人が共犯として有罪 (懲役17年) となっています。 BBC News は政治的な目的の犯行という見方もあると伝えていますが、 通常の殺人事件として処理されたようです。 [2010/03/28動機に関する一文追加]

3年前にこのニュースを積極的に伝えていた中央アジアの独立系メディア Ferghana.ru も、 このニュースを伝えています: “Uzbekistan: The murderers of Mark Weil to serve terms in jail” (Ferghana.ru, 2010/02/18)。 これによると、宗教的な偏見を動機とする、組織的犯罪グループのメンバーもしくは集団による犯行、 という扱いのようです。

ちなみに、The Ilkhom Theater は Mark Weil 死後も解散することなく活動を続けています。 カンパニーの名称は、Weil の名を冠して Театра Марка Вайля Ильхом (The Mark Weil Ilkhom Theater) となっています。 是非、また来日して欲しいものです。

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