1999-2004年 に Schaubühne am Lehniner Platz, Berlin (関連レビュー) ダンス部門芸術監督だった Sasha Waltz のカンパニーの来日公演は、 Schaubühne 時代の作品 Körper。 物語的な展開の薄さと即物的な身体の扱いもあってか、 立体作品の中に身体を置くアート的パフォーマンス (関連レビュー) を少々思わせるところもある、面白い舞台だった。
会場に入ると既に舞台の上ではパフォーマンスが始まっていた。 舞台中央に立てられた黒い壁状の物以外、舞台装置はほとんど無い。 その壁の中央に窓が空けられて奥行きの無い凹みが作られ、 壁の表面は黒板になっていた。
開場時、壁に空けられた穴からは、手や足が突き出されうごめいているのだが、 それは、人間の身体というより奇妙な物体という感じで、 現代美術作家 Robert Gober (関連レビュー) の 壁から足が突き出るリアルなオブジェを連想させられた。 前半にあった、壁に空けられた窓の狭い空間にダンサーを充填して その中でうごめくパフォーマンスにしても、 パズル「15ゲーム」の様に空間を譲りあいながらうごめく様子 (最も気に入ったシーンの一つだ) は、 それによって何か物語るというより、 ダンサーたちの身体をオブジェ —— ライティングが窓枠に合わせられていたこともありシュールな絵にも近い —— として提示する感があって面白かった。 もしくは、前半の臓器売買をネタにした寸劇や、 後半、壁が倒され斜めの台になった上での、 身体を積み上げるようなパフォーマンス (アフタートークで Judisches Museum Berlin からの影響を語っていたことで、 第二次世界大戦中の強制収容所に積み上げられた死体のイメージだと気付かされた) など、 現実社会で即物的に扱われる身体への言及もあった。 そういった言及と舞台上の動きも見合っていた。
開場時には既に舞台上でパフォーマンスが始まっており、 終り方も少々唐突で、起承転結のような時間展開は抑えられていたように思う。 しかし、テンションというか、時間の濃淡のようなメリハリはあり、 単調と感じることは無かった。 特に、中盤のダンサー全員が舞台上に現れて各々踊る所から、 次第に全員がシンクロする動きになり、さらにそれが乱れて、 その後に壁が倒れるという展開は、テンション高く、最も印象に残ったシーンだ。 ある意味、ここがクライマックスとも言えるのだが、その後のパフォーマンスの長さが、 全体の中でその意味合いを緩めていた。
Pina Bausch と比較して語られることも多い Waltz だが、 この作品を観る限り、あまり物語る要素が無く、Bausch との違いの方が大きく感じられた。 似ていると感じたシーンとしては、 ダンサーに身体について私的なことを語らせるシーンがあったが、 それにしても、語っている内容とジェスチャを明らかに矛盾させ、 その私的語りをジェスチャで異化し批判するかのような演出になっていた。 そして、そういう所も面白かった。
1年余り前、 Le Ballet De L'Opéra De Lyon が Sasha Waltz の Fantasie を踊ったのを 観たことがある (神奈川県民ホール, 2006/03/05; レビュー)。 そのときは、照明が暗かったという印象が強く残った。 今回も薄暗がりの中を踊るようなシーンが多く、Sasha はこのような照明が好きなのだと思った。 神奈川県民ホールのときは席が舞台から遠かったため単に薄暗くて観辛いという感じだったが、 今回は席が良くその薄暗さも微妙なニュアンスと感じられた。 しかし、席によっては厳しかったのではないかとも思ってしまった。
音楽は Robert Wilson との仕事もある sound artist の Hans Peter Kuhn。 音楽は控えめで音楽に合わせて踊るという感じではなく、 空間を感じさせるサラウンドな音作り。 electronica な感じは2000年前後のベルリン (Berlin) らしいかなと思った。 ちなみに、Kuhn は、今年の1〜3月に徳島県立近代美術館で 『凍熱』 という個展を開催している。
Körper は、 S (2000)、 noBody (2002) と、身体をテーマとした三部作を成しているとのこと。 残りの2作も観たいので、日本公演が実現すればと思う。