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Review: Chris Kondek: Dead Cat Bounce @ にしすがも創造舎 (演劇)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2009/11/26
Chris Kondek
Dead Cat Bounce
にしすがも創造舎
2009/11/23 19:00-20:30
Direction, Video Design: Chris Kondek. Set Design: Herbert Kitzsch. Dramaturgy: Jan Linders, Christiane Kühl.
川畑 陽子 [Yoko Kawabata], Chris Kondek, 近藤 強 [Tsuyoshi Kondo], Christiane Kühl, Victor Morales, Alexander Schröder, Simon Versnel; Hannes Strobl (music).

Chris Kondek は、アメリカ出身で1999年以降ベルリンを拠点に活動する映像作家・演出家。 Laurie Anderson や Robert Wilson の舞台作品へ映像作家として関わったことがあるようだが、 Kondek を意識したのは、この作品が初めて。 ドラマ的な演劇ではなく、ドキュメンタリー的な要素が強いパフォーマンスであることに 興味を引かれて、観に行った。

『出社が楽しい経済学』 (NHK総合) のようなドラマ仕立ての経済教育TV番組もある程で、 リアルタイムで株取引をデモンストレーションしながらの 寸劇仕立てのレクチャーのようなものかもしれないという予感もあった。 確かにそう面を感じる所もあったが、それほど教育的、啓蒙的という感じではなかった。 (経済やその仕組みを理解させるのが目的なら、『出社が楽しい経済学』のような演出の方が良いだろう。) むしろ、株取引をネタに、劇的に場を盛り上げたり、客弄りする、その妙が楽しめたように思う。 そういう意味で、予想以上に演劇的な舞台だった。

公演の入場料を元手に、 取引手数料を除いて1パーセントの利益を出すことを目標にロンドン株式市場で株取引を行い、 最後に利益が出た場合は有料入場客に配分するというのが、この舞台作品の大筋だ (取引手数料は主催者が出している)。 19時から20時半という上演時間は、ロンドン株式市場は10時から11時半という時間帯だ。 舞台進行をしつつ、観客の反応を見ながら、取引する銘柄や売り買いをするタイミングを決めて、 実際に株取引をする。 その合間を縫って、インタビュー映像が流され、 歴史的な経済に関する事件 (17世紀オランダのチューリップ・バブル) の話が物語られていく。 不確定要素や即興的要素の多い舞台なだけに、音楽は生演奏。 時にフレーズを反復し、時に浮遊するように electric bass や電子音を響かせていた。 ちなみに、自分の観た初日の結果は、有料入場者一人あたり7円の利益だった。

最も印象に残ったのは、客の反応を見たり、 株を買う候補の会社の投資家窓口へノーアポイントで電話をかけて反応を見たりした所。 そのやりとりは、大道芸でよく行われる 客弄りや通りがかりの人へちょっかいを出して反応を楽しむのにも似ていた。 株価の推移の様子をチャート画面をスクリーンプロジェクトすれば判りやすいだろうものの、 あえて読み上げたり、手書きのグラフを書いたり、手書きの値札を壁に貼ったり、というのも面白かった。 こういうやり方を見ていると、株式市場の仕組みを判りやすく解説するために舞台が使われているのではなく、 即興的かつ相互作用的に舞台を活性化させ興味深いものにするために 株式市場の不確定性が使われているようにも感じられた。 そして、そのように観ていると、ビデオで出演している日本の経済学者にしても、 その話のもっともらしさよりも、見た目や話し方の面白さで選ばれたのではないかと思う程だ。

去年の Stefan Kaegi (Rimini Protokoll): Mnemopak [レビュー] や 今年春の Helgard Haug, Daniel Wetzel (Rimini Protokoll): Karl Marx: Das Kapital, Erster Band [レビュー]、 そして、先日観た 高山 明 『個室都市 東京』 [レビュー] など、 ドキュメンタリー的要素の大きい作品をいくつか観てきている。 それらに続いてこの Dead Cat Bounce を観て、 演劇にドキュメンタリー的要素が取り入れられてきているというより、 かつて演劇を興味深いものとするために駆使されてきた哲学や宗教のような人文知の代わりに 経済や社会のシステムやそれに関する知見が活用されるようになってきている ということなのかもしれない、とふと思い至った。