Akram Khan はバングラディシュ系イギリス人のコンテンポラリー・ダンス (contemporary dance) のダンサー/演出家だ。 フランスの映画女優 Juliette Binoche との作品 in-i を 今年3月に日本公演したばかり [レビュー] だが、 今度は現代バレエのダンサー Sylvie Guillem との作品を持って来日した。 Guillem のソロに台湾 Cloud Gate Dance Theatre の Lin Hwai Min を起用しているが、 バレエ (ballet) 的な動きはほとんど使わず、 むしろカタック (kathak; 北インド宮廷舞踊) や武術 (martial arts) 的な動きが中心。 コンテンポラリー物にしては解りやすいと思ったが、 大柄な Guillem の動きも映える、しかし、 セリフもあってコミカルな寸劇のような展開もある舞台が楽しめた。
Binoche との in-i がラブストーリー仕立てだったので、 この男女2人も舞台もそうかもしれないと予想していた。 しかし、Sacred Monsters は、 むしろ古典を踊りつつも現代ダンスを取り組んでいる2人のダンス探求の話で、 寸劇もその探求仲間のやりとり。 ヨーロッパにおける南アジア系、イスラームのアイデンティティの問題を Khan は作品によく織り込むのだが、この作品ではそれも控えめだった。 ダンスの探求話は少々ロマンチックなステロタイプとも感じたが、 シリアスというよりユーモラスだったし、二人のダンスを1時間余り繋ぐ補助線として悪くなかった。
最も印象に残ったのは、やはりデュオでのダンス。 最初は向い合って両手を繋いでの、続いて少し距離を置いての打撃技を交わし合うような 武術の組み手のような動き。 大柄なうえターンや手足の動きのキレが良く、Guillem の武術的な動きはとても映えていた。 そして、Guillem の赤毛に染めた髪も、その気の強そうな動きに合っていた。 そして、後半にはアクロバット的に組んでの動き、 最後に2人並んでの現代カタックとでもいうようんだダンスも見せた。 カタック的な動きでは、冒頭の Guillem のソロに続く Khan のソロでの グングル (ghunghru; カタックで使われる足首に付ける鈴の帯) の音も音楽演奏と一体化した踊りにも、惹きつけられた。 これが良かったので、エンディングのデュオでもグングルを付けていれば、 もっと華やかなフィナーレになったのではないか、と思ったりもした。
Khan といえばセリフ使いだが、 Guillem にこれほどセリフを言わせるとは予想していなかった。 舞台前方中央に身体を半ば横たえ、 イタリア語の勉強のためにイタリア語版を手に取ったという Snoopy で知られるアメリカのコミック Peanuts の登場人物 Sally (Charlie Brown の妹) についての話をしながら、 その話を微妙に異化するように手足のポジションを細かく変えていくような所など、 Khan らしい演出だ。 Guillem が Khan に理解できないイタリア語で話かけたり、 フランス語の単語 “émerveille” を Guillem が Khan に説明する際に クリスマス・ツリーの例に「イスラム教徒として育てられたのでわからない」と応じたりするような ユーモラスなやりとり (というかディスコミュニケーション) も、面白かった。
正直、8年前に Guillem の Bolero (Maurice Bejart 振付) を観たときの印象として残っていたのは、その身体能力くらいだった。 しかし、今回は Khan の演出やダンス探求話という筋立てもあって、 その勝気そうな赤毛の女性というキャラクター設定も含めて、とても魅力的で印象に残る舞台だった。
舞台装置は、後方に裂けたドームのような白い抽象的な壁が置かれた程度。 上手に Mezhar (Nitin Sawhney とも共演している北インド古典音楽の歌手)、 下手に Sluiter、Anstee、Linke の3人が座り、 女性歌手 Peteghem は、時に上手もしくは下手のミュージシャンの傍らで歌うだけでなく、 時にダンサーと絡むように、歌った。 音楽は北インド古典音楽風の所もあったけれども、 特に Van Peteghem の歌は抽象的ながらヨーロッパの folk を思わせる所も多かった。