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Review: 照屋 勇賢 『ひいおばあさんはUSA』 (Yuken Teruya: My Great-grandmother Is USA) @ 上野の森美術館ギャラリー (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2010/04/04
『ひいおばあさんはUSA』
My Great-grandmother Is USA
上野の森美術館ギャラリー
2010/3/14-30 (会期中無休), 10:00-17:00 (金10:00-19:00)

照屋 勇賢 は沖縄出身で2000年代に活動を始めた美術作家だ。 その新作の個展は、USAの沖縄占領をテーマとした作品だ。 判り易く主張を伝えるようなものではなく、繊細な造形で静かに示すような作風も、彼らしい展覧会だった。

展示の核となるのは、新作の「朱の鳥、紅の空」 (2010) だ。 米軍のアメリカ占領に関わるような象徴的なものを紅型の手法で染め付けた白い反物だ。 アメリカの紋章、ジェット戦闘機、鉄条網、アメリカのパトカーや切手といった アメリカ占領を伺わせるようなものを象った文様が、 まるで、花や鳥を配した紅型の染め物のように染め付けられているのだ。 遠目で見るとまるで普通の紅型のように見える程だ。 その布の下には、日用品や食品のボール紙の箱、チラシなどが並べられている。 よく見ると、それは紅型の文様の切り抜きがなされていることに気付く。 箱を展開して型紙として用いた後、再び箱の形に戻したものなのだ。

布だけ見ると、この展覧会でも展示されていた 米軍基地をテーマとした紅型の衣装の作品 「結い」 (2001) に連なるような作品だ。 しかし、日用品や食品のボール紙の箱に文様の切り抜きを施す所は、 むしろ、使い捨ての紙袋に木の形を繊細に切り抜く「告知—森」 とも共通している。 そして、この2つを結び付けることにより、コンセプトに奥行き感が出来たように思う。 紅型の示すまさに「染み付いた」のアメリカ占領の記憶、というだけでなく、 そしてその記憶と日常生活との深い結びつき、といったものをふと思い浮かべたくなるような。 そこが今回のインスタレーションの魅力だ。

ちなみに、この展覧会では、メインの「朱の鳥、紅の空」、「結い」の他、 紅型の手法による沖縄で有名な人物の肖像画のシリーズ「英雄たち」 (2009) と、 同様の手法で作られた「昭和天皇裕仁」 (2009) も展示されていた。

また、3月20日から森美術館で開催されている 『六本木クロッシング2010展: 芸術は可能か?』 (7/4まで) で、照屋 勇賢 の過去の作品をまとめて見ることができる。 特に、『第2回府中ビエンナーレ』で制作された「来るべき世界に」 (2004) [レビュー] はお勧めだ。

他に、彼の代表作もいえる 使い捨ての紙袋に木の形を繊細に切り抜く「告知—森」 (2005) や トイレットペーパーから木の形を切り抜いた「Rain Forest」 (2006-2007) も展示されていた。 いずれも観たことのある作品だが、今回の展示で 「告知-森」でのライティングによる木漏れ日を見るかのような美しさに気付かされた。

他に、さかさまに日章旗を掲げるという、 頓知のような面白さのある作品「さかさまの日の丸」 (2008) も展示されていた。