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Review: Daniele Ciprì e Franco Maresco: Kind Of Cinico (DVD); Daniele Ciprì e Franco Maresco: Totò Che Visse Due Volte (DVD)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2010/07/19
Daniele Ciprì e Franco Maresco
Kind Of Cinico
(Eccentriche Visioni / Raro Video, RDV40068, 2005, 2DVD[PAL/0])
DVD1: 1)Enzo, domani a Palermo! (1999, 69min, B+W) 2)Arruso (2000, 19min, B+W/color) DVD2: 1)A memoria (1996, 39min, B+W) 2)Grazie Lia - Breve inchiesta su Santa Rosalia (1996, 44min, B+W)
Daniele Ciprì e Franco Maresco
Totò Che Visse Due Volte
(Eccentriche Visioni / Raro Video, RDV40085, 2006, 2DVD[PAL/0])
DVD1: 1)Totò che visse due volte (1998, 89min, B+W) DVD2: 1)“Caso Censura” 2)Cortometraggi (Shorts): i)Illuminati (1990) ii)senza titolo iii)Venerdì santo - Sabato santo - Domenica di resurrezione (1992) iv)Tre visioni (1993) v)Lontane (1993) vi)Presepe (1994)

Daniele Ciprì e Franco Maresco は、 シチリアのパレルモ (Palermo, Sicilia, IT) を拠点に活動する2人組の映像作家だ。 彼らの出世作であるTVシリーズ Cinico TV は、 1986年から1989年にかけてイタリア・シチリア (Sicilia, IT) の民間放送局 TVM で放送され、 1990年にはイタリア国営放送 RaiTre で放送された。

そんな彼らの1990年代の映像作品を集めたDVDが2000年代半ばにイタリアで2タイトル リリースされていたのだが、 最近、やっと入手することができた。 DVD は PAL 方式だが region 0 でPCであれば再生には問題無い。 セリフのある作品では英字幕を (作品によってはイタリア語字幕も) 表示できる。 2タイトルそれぞれに56ページのプックレットが付いており、 内容はイタリア語、英語の対訳だ。 単なる収録作品の解説だけではなく、シチリアやジャズについてなど、 彼らの背景を伺える内容となっている。 彼らを知るのにうってつけのDVDだろう。 ちなみに、自分は、発売元の Raro Video から直接取り寄せた。

収録作品の中で一番の印象に残ったのは、やはり中編映画 A memoria (Kind Of Cinico 所収)。 十年ぶりに見直して、やはり、良い作品だな、と再確認。 そのときのレビューに付け加えることは無いが、 野卑なユーモアと静かな詩情が奇妙に同居したサイレント映像が楽しめるし、 その映像に合わせた Steve Lacy の saxophone ソロも聴き所だ。

A memoria と同じDVDに収録された Grazie Lia - Breve inchiesta su Santa Rosalia は、 パレルモの街の聖人 Santa Rosalia への信仰を市民に訊くというドキュメンタリー映画なのだが、 そのコントラストの強い白黒画面はもちろん、 Cinico TV お約束の登場人物 Pietro Giordano も登場し、 そのテンポよく不条理なインタビュー・フォーマットも受け継いでいる。 ドキュメンタリーというより、魔術的リアリズムと感じる程だ。

Kind Of Cinico のDVD1に収録された2作品もいずれもドキュメンタリーだ。 シチリアの映画プロデューサー Enzo Castagna のドキュメンタリー Enzo, domani a Palermo! は普通の作りになってしまったが、 死後25周年に作られた Pier-Paolo Pasolini に関する Arruso は、 まだ Grazie Lia に近いように感じられた。 しかし、Ciprì e Maresco がドキュメンタリーを多く撮っていたというのは、意外だった。

Totò che visse due volte は Ciprì e Maresco 2作目の長編映画。 新約聖書のイエス・キリストの話を基づきながら、セックスなどをネタにしており、それが冒涜だと検閲されることとなった映画だ。 まだちゃんとは観られていないのだが、 ざっと観た限りでは Cinico TV の監督という画面作りやセンス。 登場人物も異なるし、不自然な影も使われておらず、そこから一歩踏み出ているとも感じさせられた。 ちなみに、DVD2には検閲された場面や検閲に関するTV報道の映像が “Caso Censura” として収録されている。

Totò Che Visse Due Volte のDVD2に付録で収録された短編映像も、 Cinico TV に連なる作品だ。 テンポの良いインタビュー的なやり取りを含むものもあれば、 映像のセンスはそのままに、テンポ良いやり取りを押さえ音楽のみの詩情に置き換えた、 A memoria に近い作風の作品も良かった。 長編やドキュメンタリーも興味深く観られたが、このような短編ををもっと観たい。

これらのDVDを注文したときは、もしかしたら Cinico TV シリーズの映像が 付録に付いているかもしれないと期待していたところもあった。 しかし、そんなことは無く、少々残念。 今のところ見付けられずにいるのだが、 Cinico TV シリーズの映像はDVD化されていないのだろうか。

ちなみに、このDVDのリリースをしたのはローマの映画制作・配給会社 Minerva Pictures VHS/DVDレーベル Raro Video。 実験的な映画やビデオ・アートのような映像作品を得意としているようで、 カタログを見ると、 Studio Azzurro [レビュー] や Socìetas Raffaello Sanzio [レビュー] の映像作品もリリースしている。 Video in Italy (Raro Video, RVD40088, 2006, DVD[PAL/0]) というアンソロジーには、 Ciprì e Maresco や Studio Azzurro が収録されている。