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Review: Peeping Tom: 32 rue Vandenbranden @ 世田谷パブリックシアター (ダンス)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2010/10/24
『ヴァンデンブランデン通り32番地』
世田谷パブリックシアター
2010/10/23. 19:30-21:00.
Premier: KVS, Brussel/Bruxelles, BE, 2009/11/28.
Concept & Direction: Gabriela Carrizo, Franck Chartier.
Dance & Creation: Seoljin Kim, Hun-Mok Jung, Marie Gyselbrecht, Jos Barker, Sabine Molemaar, Eurudike De Beul.

昨年 Les Sous Sol で来日した [レビュー] ベルギーのカンパニー Peeping Tom が、 新作を携えて来日した。 前作同様、ダンスというよりも演劇的なフィジカル・シアター作品だ。 映画 『楢山節考』 (今村 昌平, 1983) にインスピレーションを得た作品とのことだが、 むしろ、連想させられたのは David Lynch の映画。 日常が少しずつ狂っていく中での情緒不安定を、 ユーモアも交えつつ身体で演じるかのような舞台を楽しむことができた。

映画 『楢山節考』 にインスピレーションを得たということが、 公式サイトの作品紹介等に書かれているが、 姨捨伝説 に関わる作品主題やプロットとの関係は全く感じられなかった。 共通点を強いて挙げれば、雪振る山中が舞台になっているという程度。 1組の男女カップル (Jos & Sabina)、妊娠している若い女性 (Marie)、太った中年女性 (Eurudike) という少々謎めいた過去がありそうな人たちが、 雪降る山中の3台のトレーラーハウスに住んでいる。 そんな所に2人の東洋人男性が訪れ、少しずつ静かな生活が壊れていく。 そんなプロットや、それを少々エロティックで幻想的にその様子を描く様子から、 むしろ、David Lynch の映画 [関連レビュー] を連想させられた。

最も印象に残ったのは、Jos & Sabina の関係が壊れていく表現。 大きく関係が揺らぐ瞬間にトレーラーハウスが大きく揺さぶられ、 そこから関係の狂いが明らかになっていく。 そして、Sabina と入れ替わった Marie が Jos と睦まじくする様子を Sabine が見る所など、 Lynch の映画にありそうな表現だ。 暗い山中に明るく浮かび上がるトレーラーハウスの窓という舞台、 Marie のトレーラーハウスの床下での赤子殺しを暗示するかのような冒頭シーン、 トレーラーハウスの上で鳥の剥製を手に静かに佇み狂乱する住民をみつめる Eurudike、 Marie のトレーラーハウスの中でラリったように蠢く Sabine たちなど、 そんなシーンからも Lynch の映画を連想させられた。 Lynch の映画で観られるような不安や情緒不安定の映像表現を、 身体・舞台表現化しているかのような舞台だった。

身体表現という意味では、ballet の流れを汲むようなダンスの技法はほとんど見られず、 むしろ、クラウンが使うような転倒等の表現やパンドマイムやアクロバットの方が目に付いた。 雪 (といっても人工のものだが) の上で転がり回るような場面がよく使われていたが、 それを観て、前作 Les Sous Sol でも 土の上を転がり回るシーンがよく使われていたことを思い出した。 こういう所が Peeping Tom らしいのかもしれない。

Lynch を連想させられた舞台といえば、昨年観た Cie Michèle Noiret: Chambre Blanche [レビュー] もそうだった。 どちらもベルギーのカンパニーなので、 Lynch 的というより、異なる共通する背景があるのかもしれない。 もしくは、自分の関心や好みという意味で、そういう表現に強く反応してしまっているのかもしれない。

カーテンコールの際にパフォーマーたちが遺影とろうそくを持って出て来た。 Les Sous Sol にも出演しており、 32 rue Vandenbranden のツアーにも参加予定だった 80歳代のパフォーマー Maria Otal が、 去年11月、32 rue Vandenbranden 初演10日前に急死。 そんな彼女の遺影だったようだ。