ゴールデンウィークの神保町シアターといえば生伴奏付きのサイレント映画。 それだけの特集は無くなってしまいましたが、特集 『ゴールデン名画劇場』 の中の二本がサイレント映画。というわけで、その2本観てきました。
あらすじ: 夫に家出されたおみつは、港の酒場で酌婦をしながら、女手ひとつで、息子 文坊を育てていた。 そこに夫 水原 が帰ってくる。 おみつは最初は水原を拒絶したが、息子のことも考え、彼を許して三人で暮らし始める。 幸せな生活を取り戻し始めたかに見えたが、水原に職が見つからず、おみつが酌婦で稼いだ金で暮らしている。 おみつの足を洗わせるべく水原は職工になろうとするが叶わず、そのうち、文坊が交通事故にあってしまう。 息子を病院に入れるため体を売ろうとするおみつを引き止め、水原は金を工面に出る。 水原は窃盗した金を持って戻るが、息子を前科者の子にする気かと責められ、金を持って自首するように言われる。 水原はおみつに息子を託して、家を出てしまう。 そして、水原は二人を残して身投げしてしまったのだった。
女手ひとつで息子を育てる気丈な水商売の女性の救いのないやるせない話で、 続いて撮った『君と別れて』 (松竹蒲田, 1933) [鑑賞メモ] や、 清水 宏 『恋も忘れて』 (松竹大船, 1937) [鑑賞メモ]とも共通する雰囲気のある映画でした。 『君と別れて』でも印象に残った激しい感情の場面での速くズームインするカットは、この映画でも使われていました。 おみつを演じるみだれ髪の 栗島 すみ子 ももちろん良かったのですが、 おみつを救うどころか足を引っ張り、気弱で頑張り所の方向性も狂った (窃盗を犯してしまう) 夫 水原にも感情移入して切なく観られたのは、 演じた 斎藤 達彦 の存在感のおかげでしょうか。
この映画の前にもう一本、 小津 安二郎 (dir.) 『大人の見る繪本 生まれてはみたけれど』 (松竹蒲田, 1932) も観ました。 去年1月に観た時 (ピアノ伴奏 柳下 恵美) [鑑賞メモ] はしんみり感傷的な印象だったのですが、 今回は (ピアノ伴奏 小林 弘人) は感傷的というよりコミカルでクールな印象。むしろ、諷刺的な面が楽しめました。 伴奏違いで観るのも面白いものです。 『夜ごとの夢』の伴奏も同じく 小林 弘人 だったのですが、こちらはでは打って変わって感傷的に、 成瀬 映画のやるせなさを盛り上げてくれました。
サイレント映画特集上映の時は満席連発で早めにチケットを取らないと観れなかったものですが、 今回はいずれも満席に至らず。 『夜ごとの夢』こそ満席近くなりましたが、『大人の見る繪本 生まれてはみたけれど』は空いていました。 チケット押さえるべく先に一旦神保町に出ただけに、少々肩透かし。 この位の方が観易くはあるけど、ちょっと寂しいようにも思いました。