カナダ・ケベック州はモントリオールを拠点とする Marie Chouinard の久々の来日公演。 Le Sacre du Printemps は前にも観ているが [レビュー]、 流石に印象も薄くなっているので、再見するのもよかろうと、足を運んだ。
前半の Le Sacre du Printemps は50分の作品だが、今回は35分での上演。 冒頭の抽象的な音での展開が省略され、Stravinsky の音楽のみで踊る構成だった。 Le Sacre du Printemps というより、 同く Bullets Russes の L'Apres Midi d'un Faune に着想していると感じさせる動きだ。 前に観た時は時間的空間的なリズムを感じるスポットライト使いが印象的で、それも良かったのだが、 今回はその光で浮かび上がる身体がよりいっそう印象に残った。 頭上から真下に照らす強い照明が、ビッタリしたショートのパンツのみで踊る身体に細かい陰影を作りだしており、 それによって浮かび上がる筋肉の動きが美しかった。
20分の休憩を挟んで後半は、Henri Michaux: Mouvements の35分。 アンフォルメル (Art Informel) の先駆ともされる画家/詩人 Henri Michaux の Mouvements (1952) に着想したダンスだ。 かろうじで人の形にも見えなくもない、白地に黒の線の塊のような図形が一ページあたり5〜10個並んだ本だ。 背景にそのページと図形を大写しし、その前で黒くぴったりした衣装を着たダンサーが、その図形を糢したダンスを繰り広げた。 最初のうちはダンサー一人が一ページを区切りとして一図形ずつ糢していくというもので、ベタな形態模写だと感じた。 しかし、industrial な音楽に乗って淡々と続くうちに、凄みというか面白さが滲んできたように感じた。 後半になると二人で組んで一つの図形を模写したり、十人のダンサーで一度に一ページ分模写したりと、 ペアダンスや群舞の要素も加わってきたのも、面白かった。 最後は舞台を暗くして、白黒反転した Michaux の図形を次々と投影していく中、 フラッシュライトの下で、ベージュのショートのパンツのみのダンサーが踊るというもの。 ここでは形態模写ではないのだが、それまでの流れがあるせいか、 白く浮かび上がる身体と Michaux の図形がシンクロしているように感じられた。
ちなみに、Michaux に着想したダンスといえば、Josef Nadj: Asobu [レビュー] も思い出すが、 Nadj のシュールレアルなセンスとは大きく異なり、 Chouinard の白黒のミニマルな舞台にインダストリアルな音楽を使った演出は、モダンな無機質感があった。 同じく Michaux に着想しながら対称的な仕上がりになっているのも面白く感じられた。
前回は変な先入観もあってか若干退屈した印象も残っていたのだけれども、 今回の公演では、その身体の動きとその見せ方の面白さを十分に楽むことができた。