アニュアルで開催されている文化庁芸術家在外研修の成果報告展。 最近は地道な画廊めぐりをする気力、体力も時間も無いので、その代わりという気分で観てきた。 以下、気になった作家と作品についてコメント。
平川 祐樹 の Vanished Tree - Teifelberg (2010) は、 床に上向きに置かれたビデオを映し出す箱と天井に下向きに設置されたスクリーンの組みからなるビデオインスタレーション。 照明を落としたギャラリーの床には切り株を、天井には下から見上げたアングルでの林冠の切れ目から覗く空を、固定カメラによるモノクロの映像で投影している。 このビデオの光によるギャラリー空間の光の柱が、まるで木を切り倒しでできた空間に差し込む淡い日差しのよう。 色彩を抑えたモノクロでスタイリッシュなインタレーションで、ビデオではなくスチルのライトボックスでも十分に良いのではないかとも思った。 しかし、じっと観ている、風による樹冠の揺らぎや切り株を照らす光の揺らぎも感じられる。 一緒に展示されていた Fallen Candles (2014) も「液晶絵画」的な作品。 火がついたまま倒れたロウソクを真上から固定カメラで捉えた白黒ビデオを24枚の液晶パネルに映し出して並べた作品。 ほとんど動きの無い白黒でスタイリッシュなビデオが並ぶ様は、タイポロジカルな写真作品の「液晶絵画」版 [レビュー] のよう。それも良かった。
池内 晶子 は以前にも『MOTアニュアル2011 —— Nearest Faraway | 世界の深さのはかり方』 でも観たことがあるが [レビュー]、 今回の『Knotted Thread』 (2011-2013/2016) はそのバリエーション。 前とは色違いで、細い赤い絹糸を結びあわせて10m四方ほどの蜘蛛の巣様の繊細な構造を水平に空中に浮かび上がらせていた。 遠目に見ると空中に浮いているかのようで、近付いて観ると繊細な構造に目がいく、繊細な美しさを久々に楽しんだ。
他にも印象に残った作品としては、透明なアクリル板にシンプルな幾何模様を描きその油彩絵具のムラを浮かび上がらせた 秋吉 風人の Naked Relations 連作 (2016) や、 折笠 良 の『水準原点』 (2015) の白いクレイによる波打つようなアニメーション (石田 尚志 のドローイングアニメーション [レビュー] のクレイ版のよう) があった。
若い頃は、このようなほとんどキュレーションされていないグループ展は好きではなかった (むしろ反発すら感じていた) のですが、 こまめに画廊めぐりする時間も気力・体力が無くなってくると、その代わりとしてのこのようなグループ展のありがたみを実感します。 キュレーターによって変に方向付けられて展示されていない分、個々の作家の作品に素直に向き合える所も良いです。