ベルギーのダンスカンパニー Rosas のこの春の日本公演では、 最初期の作品 Fase [レビュー] だけでなく、 比較的最近のこの作品の公演も行われた。 フランスの現代の作曲家 Gérard Grisey の曲 Vortex Temporum (1996) をダンス作品化したもので、 演奏するアンサンブル Ictus が生演奏というだけでなく、ダンサーと共に移動しながら演奏するという作品だ。 Ictus 絡みの作品 3Abschied [レビュー] や A. Schönberg や A. Webern の曲を使った Zeitung [レビュー] をそれなりに楽しんだので、 この作品にも期待していたのだが、期待が大き過ぎたか、少々退屈してしまった舞台だった。
まずは、ダンサー抜きで Ictus のミュージシャンニよる曲の演奏のみで始まる。 この時はみな座って移動せずに演奏する。 続いて Ictus のミュージシャンが退き、Rosas のダンサーが無音の中で踊る。 さらに、Ictus のミュージシャンが加わり、piano すら動かしつつミュージシャンも移動しながら演奏し、Rosas のダンサーも踊る。 最後には Ictus のミュージシャンは照明が薄暗くなった舞台後方へ退き、その前でダンサーが踊るという展開になった。 ダンス抜きでの音楽、音楽抜きでのダンス、までは、音楽とダンスの関係を直接的に示さないところに、興味を引かれた。 しかし、ダンスに混じってミュージシャンも動きながら演奏する段となると、動きのパターンも読めるような感もあって、逆に退屈になりはじめた。 ダンスは曲のタイトルにあるように渦を思わせる動きなのだが、 身体能力を駆使したダンスというよりも位置取りや手先で渦を描くよう。 ミュージシャンを交えて分だけ動きに制約があるのだとも思うが、 訓練された人ならではの真似ができないような動きの面白さがあまり感じられず、物足りなく感じた。
Gérard Grisey は École spectrale (スペクトル楽派) で知られる作曲家。 無調で明確なリズムもないいわゆる現代音楽だが、 隙間の多い音空間ではなく、むしろ、音のテクスチャを作るかのようなトレモロやトーンクラスターが耳に残る演奏。 舞台には床に様々な半径の円を組み合わせた図形が白線で描かれているのみ。 照明による演出も高い天井の蛍光灯のみ。その点滅で舞台の一部を明るくしたり暗くすることはしていたが、 基本的にのっぺり明るい照明で、スポットライトのように強いコントラスによる照明演出もなかった。 ダンサーの衣装も黒に近い色の普段着を思わせる地味なもの。 地味な動きもあって、習作的なワークショップを見ているようでもあった。 おそらくそういう所も狙っているのだろうとは思うが、現在の自分の興味からは外れてしまった。