『ロミオとジュリエット』 [レビュー] など、 カンパニーデラシネラでの古典的な原作のある物語的な作品が最近では印象に残っている 小野寺 修二。 今回はKAATの制作で、カンパニーデラシネラでお馴染みの日本人ダンサーとベトナムのダンサーとコラボレーションして作った、ベトナムを題材とした作品だ。 このこうな国際的なコラボレーションはえてして「伝統的」な物語や舞踊に着想したエキゾチズムに堕してしまうことが多く、 少々嫌な予感もあったのだが、どうなることかと足を運んでみた。
スクーターや車の行き交う活力ある現代のベトナムの街のイメージを、 物や音、そして動きの連想などで自在に繋いで構成した1時間余。 椅子だけでちょっと荒い運転をする車を表現したり、 離れた二人の動きを関連させて一つの場面を作ったり、 ミニチュアの車の動きと人の動きを連動させたり。 複数の赤い小さな椅子と机が街ゆく車となったり、合わさって屋台となったり。 いつも 小野寺 自身が演じる不条理な状況に放り込まれた道化的や役割の男性を Nguyen Hoang Tung が演じていたのだけど、マイム俳優だけあって、実に好演していた。 観ていて、カンパニーデラシネラというより 水と油 を思い出した。 というか、水と油 時代からのお馴染みの表現ではあるのだけど [レビュー]、 現代ベトナムの街というテーマを得て、新鮮に楽しめた。
もちろん、スクーターのハンドル部分を模したバーのヘッドライト部に ポータブルのプロジェクターを仕込んで、街中の様子をダンサーが持った板に動き回りながら投影することで、 スクーターで街中を走りながら見る流れるような断片的な光景を再現したり。 ポータブルのLED照明をスマートフォンに見立てたり、ミニチュアの道を照らす街の照明としたり。 こういう、電子ガジェットの使い方も、ハイテクな演出ではないものの、見立てのアイデアも良く、楽しめた。
カンパニーデラシネラではない公共劇場制作で、物語的ではないスケッチ集のような作品としては、 『シレンシオ』 [レビュー] なども思い出すのだけど、 それと比べても格段に良かったのは、テーマがはっきりしていたからだろう。 『シレンシオ』を観たときは物語的な枠組みがあったほうがよいのではないかと思ったけれども、 この『WITHOUT SIGNAL! 〔信号がない!〕』は、テーマの選び方次第では非物語的でもまだまだいけると思わせるだけの作品だった。