Wael Shawky は、エジプト出身でアメリカで美術を学び、主に現代アートの文脈で映画やパフォーマンスの形で作品を制作している作家。 彼の人形劇映画として制作された Cabaret Crusades 『十字軍芝居』三部作が、 演劇祭 FESTIVAL/TOKYO の1プログラムとして一挙上映されたものを観てきた。 Wael Shawky は dOCUMENTA(13) [レビュー] でも Neue Galerie で、 『ヨコハマトリエンナーレ 2017』 [レビュー] でも横浜美術館で展示されていたが、 大規模な国際美術展の中でビデオインスタレーションとして観るには長尺過ぎて、断片的にしか観ておらず、その印象は薄かった。 映画館でちゃんと観るなかなか無い機会だろうと足を運んだ。
11世紀から13世紀にじかけて「フランク」が行った十字軍をアラブ側の史料に基づいて描いた アミン・マアルーフ (Amin Maalouf) の『アラブが見た十字軍』に着想した3部作で、 第1作 The Horror Show File がエルサレム占領と十字軍国家設立に至った第1回十字軍 (1096-99)、 第2作 The Path to Cairo は第2回十字軍 (1147-1148) 前後の ザンキー (Zengi) 朝やダマスカスの動向を、 第3作 The Secret of Karbala はサラディン (Salah ad-Din) によるエルサレム奪回に始まる第3回十字軍 (1189-1192) と 聖地エルサレムに行かずにビザンツ帝国のコンスタンチノープルを攻略・略奪した第4回十字軍 (1202-1204) を描いていた。 Shawky 自身がデザインした人形による人形劇だが、登場人物を内面を描くのではなく、 主に支配階層の関係を、図式的に示すようなもの。 その造形もリアルではなく、第1作では半ば朽ちた木製の人形を再利用したものだったが、 第2作のクレイ、第3作のヴェネチアン・グラスに至っては、中東風ですらない、むしろプリミティヴな彫刻のような異形の造形。 『アラブが見た十字軍』は読んだことがあるのだが、 この映画を観て理解が深まるような作品ではなく、 むしろ、『アラブが見た十字軍』を踏まえた上で、それをこう描くのかと読むような作品だった。
造形が異形となっていく第2部、第3部になるにつれ、それが面白くなるのだが、それに説得力が感じられなかったのも確か。 同じアミン・マアルーフの脚本で、抽象的で特定の場所時代を感じさせないビジュアルを使いながら、 十字軍時代の地中海世界という設定とは関係無い普遍的な遠距離恋愛の物語に仕立てた Robert Lepage 演出のオペラ L'Amour de Loin 『遥かなる愛』 [レビュー] のことなども思い出してしまった。