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Review: Thomas Ostermeier / Schaubühne Berlin: Ein Volksfeind @ 静岡芸術劇場 (演劇)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2018/05/06

ふじのくに⇄せかい演劇祭 2018 の話の続き。二日目晩、最後にこの舞台を観ました。

Thomas Ostermeier / Schaubühne Berlin
静岡芸術劇場
2018/04/29, 19:00-21:40.
Autor: Henrik Ibsen, In einer Bearbeitung von Florian Borchmeyer; Regie: Thomas Ostermeier.
Bühne: Jan Pappelbaum Kostüme: Nina Wetzel Musik: Malte Beckenbach, Daniel Freitag Dramaturgie: Florian Borchmeyer Licht: Erich Schneider Wandzeichnungen: Katharina Ziemke
Christoph Gawenda (Dr. Stockmann), Konrad Singer (Stadtrat), Eva Meckbach (Frau Stockmann), Renato Schuch (Hovstad), David Ruland (Aslaksen), Moritz Gottwald (Billing), Thomas Bading (Morten Kiil).
Production: Schaubühne Berlin
Premiere in Avignon am 18. Juli 2012; Premiere in Berlin am 8. September 2012.

ベルリンの劇場 Schaubühne の芸術監督を務める Thomas Ostermeier が演出した Ibsen の戯曲といえば、 以前に観た Nora [鑑賞メモ] が、 セリフのレベルでは大きく戯曲を弄らないままに舞台を現代に置き換えた演出だった。 今回も同様に現代に舞台を置き換えた演出だろう、と、予想していた。 確かに、ストーリーを大きく弄らずに、舞台を現代に (といっても、使われている音楽からして21世紀ではなく、1980年代っぽかったが) 置き換えたような演出だったが、 Nora に比べると、かなり自由にやっているように感じられた。

Nora においては夫殺しが変更のポイントだったが、 この作品では集会の場面が大きく手を入れられ、Dr. Stockmann の演説には 2007年にフランスのアナキスト集団が匿名で発表したという The Coming Insurrection 「来るべき反乱」というテキストが使われていた。 そして、その演説に対して観客に意見を求めるという観客参加という形をとっていた。 Nora では終演後に観客との討論会を設けていたが、 それを劇中に取り込んだような感じだ。

正直に言えば、この演説は元の戯曲からかなり浮いた内容になっていたのだけれども、 観客の発言の多くは、元の戯曲が扱っている問題 (温泉が汚染されていることを公にして、すぐに手を打つべきか) に対するもので、 差し替えられた演説—反グローバリズム、反商業主義のかなりメタな (少々ナイーヴな) 内容—とは関係無いもの。 おそらく Ostermeier は、あえて賛否が分かれそうな極端なテキストに差し替えたのだと思うのだが、 客席のほとんどがこの演説に賛意を示したのも意外だった。 日本語字幕があったもののドイツ語による上演という言葉もあったと思うが、 多くの人は人の話を聞いていないんだな、と、感慨深いものがあった。

観客参加だけでなく、舞台の上でのロックバンド演奏や、最後の場面での蛍光塗料の水風船を投げつける演出など、面白い演出もあったが、 かなりストレートな演劇だったという印象が残ったのは、 以前に観た Nationaltheatret (ノルウェー国立劇場) による En Folkefiende が、 ミニマリスティックでコンテンポラリーダンスに近い演出だったということもあるかもしれない [鑑賞メモ]。

ちなみに、Ostermeier は2005年に Ibsen の戯曲 Hedda Gabler の演出もしている。 最近、Hedda Gabler を立て続けに観て [関連する鑑賞メモ]、 面白いと感じている所なので、Ostermeier がどう演出したのか、観てみたいようにも思う。