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Review: 『フランス絵本の世界 — 鹿島茂コレクション』 @ 東京都庭園美術館 (デザイン展); 『建物公開 旧朝香宮邸物語』 @ 東京都庭園美術館 (展覧会)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2018/06/03
French Picture Books: Collection of Shigeru Kashima
東京都庭園美術館 新館・本館書庫
2018/03/21-06/12 (第2,4水曜日), 10:00-18:00 (3/23,24,30,31,4/6,7: 10:00-20:00).

『19世紀パリ時間旅行 -失われた街を求めて-』展 (練馬区立美術館, 2017) でも素晴らしいコレクションを楽しむことができた [鑑賞メモ] 鹿島茂コレクションに基づく展覧会。今回のテーマは19世紀から20世紀前半にかけてのフランス絵本。 Jean-Jacques Rousseau の「こどもの発見」に始まり戦間期までというという時代の対象範囲は 『こどもとファッション -小さい人たちへの眼差し-』 (東京都庭園美術館, 2016) [鑑賞メモ] と同じ。 同じ社会の変遷を今度は子供向けの本で辿るような興味深さがありました。

フランスでは絵本文化の発達のスタートが遅く19世後半に入ってからということで、1848年革命以前の資料は少なめ。 19世紀半ば (ファッションでいうとクリノリンの時代) の絵本は、風刺画などと同様、少々デフォルメがあるものの写実的な版画です。 第三共和制の時代 (Art Nouveau の時代) になると Maurice Boutet de Monvel のような、シンプルな線と色面の使い方もモダンな作家も登場します。 しかし、やっぱり最も好みだったのは、André Hellé や Nathalie Parain のような戦間期モダニズムのセンスを感じる作家でした。

André Hellé は第一次世界大戦前の19世紀末から活動していますが、戦間期 Art Deco で知られる作家。 1910年代以降の可愛らしくユーモラスに簡略化された線描のセンスは、いかにも戦間期モダニズムと同じセンスを感じるもの。 先日『チャペック兄弟と子どもの世界』 (渋谷区松濤美術館, 2018) で Josef Čapek の舞台デザイン画 (複製) を観たばかりだった [鑑賞メモ]、 Claude Debussy 作曲のバレエ La Boîte à Joujoux の André Hellé によるオリジナルの挿絵を見ることができました。 Čapek のような Avant-Garde 味はありませんが、Hellé の可愛らしさもまた良いものです。 1925年パリの Art Deco 展に出展したという玩具の写真も展示されていましたが、 復刻でもいいので実際の物が見たかったものです。

もう一人、目を捉えたのは、1920年代に革命ロシアの ВХУТЕМАС (国立高等芸術技術工房) に学び、 1928年以降、結婚で移住したフランス・パリで活動した Nathalie Parain (Наталья Челпанова)。 黒や赤などのシンプルな色の幾何学図形で構成した Ronds Et Carrés (1932) など、まさに Russian Avant-Garde の構成主義的デザイン。 もちろん、後年、構成主義の色は薄くなっていくのですが、 『幻のロシア絵本1920-30年代』 (東京都庭園美術館, 2004) [鑑賞メモ] で観た Самуил Маршак などの Russian Avant-Garde の絵本と繋がるところもあって、とても興味深く観ることができました。

東京都庭園美術館 本館
2018/03/21-06/12 (第2,4水曜日), 10:00-18:00 (3/23,24,30,31,4/6,7: 10:00-20:00).

1983年の美術館としての開館以来、何度となく足を運んでいるので特に期待していなかったのですが、 普段は公開していない3階の温室「ウィンターガーデン」が特別公開していたので、久々に足を踏み入れてきました。 光の多く入れるための広い窓ガラスといい、白黒の市松模様といい、この部屋は Art Deco というより Bauhaus などのモダニズムのデザインに近いもの。 Marcel Breuer の Chair S35 も似合います。 やっぱり、旧朝香宮邸の中でもこの空間は好きです。