Royal Opera House Cinema Season 2017/18 唯一のコンテンポラリー・バレエのプログラムは、 20世紀後半のアメリカの作曲家/指揮者 Leonard Bernstein の100周年を祝うトリプルビル。 2014年に初演された The Age Of Anxiety 以外の2作は新作。 数少ないコンテンポラリー・バレエの上映ということで、観てきました。
最初の作品は Wayne McGregor。 使われた音楽 Chichester Psalm (1965) は、 チチェスター大聖堂 (Chichester Cathedoral) から委嘱された合唱曲ですが、 旧約聖書の詩篇 (Psalm) から撮られたヘブライ語の歌詞というユダヤ教色のある曲 (Bernstein はユダヤ系)。 しかし、McGregor が付けたタイトルは、日本語の「幽玄」から撮られたもの。 抽象的な美術と照明、ほとんどユニセックスな衣装によるダンスを付けることで、 宗教的なコーラスからの持つ幻想的で厳かな雰囲気を抽象化して表現しようとしていたのでしょうか。 ミニマリスティックな演出は好みですし、くるくる旋回しながら飛び去るようなエンディングも印象的でしたが、 「幽玄」だったかというと、ちょっと違うようにも感じました。 コーラス曲を使うことも McGregor の一つの試みだったのだろうと思いますが、 Woolf Works [鑑賞メモ] での Max Richter のような、 electronica 的な音楽の方がやはり合っているようなとも思ってしまいました。
続く Liam Scarlett の作品に使われた音楽は、 イギリスの詩人 W. H. Audin の詩 The Age Of Anxiety (1947) に着想した Synphony No. 2 (1965)。 演出は元となった詩に基づく物語バレエで、 第二次世界大戦開戦直後1940頃のニューヨークの酒場を舞台として、そこでの男女4人の出会いを通して、 開戦直後の「不安の時代」の雰囲気を描いていました。 男性3人のうち2人が休暇中の兵士という服装。 紅一点 Rosetta もワンピースにボレロにハイヒール、羽織るコートはトレンチというモダンな服装で、 必ずしもファッショナブルではないバーの雰囲気や、ジャズのイデオムも入る音楽もあって、 物語バレエというよりセリフの無いミュージカルを観ている気分になりました。 バーの店内から街中への場面転換、Rosetta の部屋へ移動して、再び街中へ、という場面展開も巧みで良かったです。
しかし、Yugen での衣装もユニセックスで抽象的な役から、 The Age of Anxiety でのセクシーな女性主役 Rosetta の役へ、 トリプルビル中の2作を続けて、それも両極端な主役を踊る Sarah Lamb は、凄いと感心。
最後の Christopher Wheeldon が使った音楽は、 ミュージカル音楽 West Side Story (1957) など多作だった1950年代の作品 Serenade (1954)。 Wheeldon といえば、 Alice's Adventures in Wonderland [鑑賞メモ] や The Winter's Tale [鑑賞メモ] のようなハイテクな物語バレエという印象が強いわけですが、今回は抽象バレエ。 けど、シリアスな抽象よりも、ユーモラスな第三楽章が好みでした。 スチルで見てたときは衣装も少々合わないように感じていましたが、動きの中で見るとさほど違和感無し。 しかし、バレエのイデオムが強い動きなので、 ミニマリスティックな衣装ではなく、いっそ古代ギリシャに寄せた演出でも良かったかもと思ってしまいました。
指揮者としての Berstein は別として、作曲家としては West Side Story のようなミュージカル音楽しか知らなかったので、 シリアス・ミュージックの作品を聴くことができたのも収穫。 ミュージカル音楽では無いとはいえ、戦後のトータル・セリエリズムなどの典型的な現代音楽とは異なる折衷的な作風は、やはり、バレエ音楽として使いやすいのかな、と。 Bernstein の音楽はもちろん、 McGregor がコーラス曲を使ったり、Wheeldon が抽象バレエ作品に取り組んだり、と、 振付家の意外な面をみることもできて、そういう点でも興味深く見ることができました。