知的障がいを持つ6名の俳優によるオーストラリアの劇団 Back To Back Theatre は、 2013年にF/Tのプログラムとして東京芸術劇場プレイハウスで Ganesh Versus the Third Reich を観ていますが、 その時はあまり印象に残りませんでした [鑑賞メモ]。 今回の Small Metal Objects は、劇場での公演ではなく、 池袋西口公園での野外上演で、それも観客はヘッドホンを付けて鑑賞するという作品。 そんな上演スタイルに興味を引かれて、観てきました。 観る前は、2010年に池袋西口公園で参加した観客参加型パフォーマンス作品 Roger Bernat: Public Domain [鑑賞メモ] に近いものだろうかと予想していました。 しかし、むしろ、Janet Cardiff & George Bures Miller: Alter Bahnhof Video Walk [鑑賞メモ] のような AR (Augument Reality, 拡張現実) 作品に近い印象を残した作品でした。
観客は公園の端に設けられた雛壇状の客席に座り、密閉型ヘッドホンをしてその音声を聞きながら、公園で広げられるパフォーマンスを鑑賞します。 音響や照明、装置、大きな目立つ声や身振りを使ったパフォーマンスでその場を祝祭的に変容させることなく、 公園を行き交う人々はそのままに、観客席から距離を置いて知る人でなければ気付かないようにさりげなく演じられます。 客席から離れた場所での小声の会話は直接観客に届かないこともあり、小型マイクで音声を拾い、密閉 型ヘッドホンを使って観客に届けられます。 Alter Bahnhof Video Walk のように録音録画済みの音声動画を使っているわけではないですが、 ヘッドホンを通した音とさりげない演技で現実のレイヤはそのままに演劇のレイヤを重ね、 現実の見え方を変える所が、拡張現実的な手法に感じられました。 タイトルの Smalll Metal Objects というのは「硬貨」のことを意味しているようですが、金銭取引というか、 違法薬物や銃刀のような違法物の取引の駆け引きを思わせる、いかにも街中でさりげなく密かに行われそうな会話を思わせる台本も、 そんな拡張現実的な手法にうまくハマっていました。 この作品では演じていた俳優のうち2人が障がい者でしたが、普通の人が演じても特に問題なく成立する作品でしょう。
一般的な音声を使ったAR作品と違い観客を歩きまわらせることなく固定しているのは、 観客が出演者を取り囲んでしまうことで現実空間が変わってしまうことを避けるためだろうとは思いますが、やはり雛壇に固定されて観る所は少々物足りなく感じました。 しかし、録音録画済みの音声動画を使わずライブで演じる形でも仮想現実的な手法が成立させてしまっているということだけでも、十分に面白く楽しめました。