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Review: 中谷 芙二子 『霧の抵抗』 Fujiko Nakaya: Resistance Of Fog @ 水戸芸術館現代美術ギャラリー (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2019/01/05
中谷 芙二子
Fujiko Nakaya: Resistance Of Fog
水戸芸術館現代美術ギャラリー
2018/10/27-2019/01/20 (月休;12/24,1/14開;12/25,12/27-1/3,1/15休), 9:30-18:00.

1970年大阪の日本万国博覧会のペプシ館で E.A.T. (Experiments in Art and Technology) [鑑賞メモ] の活動の一環として水を使った人工霧によるインスタレーション「霧の彫刻」を手掛けて以来、 人工霧のインスタレーションを作り続けている 中谷 芙二子 [鑑賞メモ] の1970年代以降の活動を回顧する展覧会です。 霧のインスタレーションは、 広場の噴水周辺を使った野外のインスタレーションと、 ギャラリー第4室を使った屋内のインスタレーションの2箇所。 インスタレーション作品やプロジェクト的な活動が多いこともあり、過去の活動記録の資料展示が中心となるのは仕方ないでしょうか。

ギャラリー第4室のインスタレーション《フーガ》(「崩壊」シリーズより)は、霧とビデオプロジェクションを組み合わせた上映時間約6分の作品です。 ギャラリー奥三分の一ほどの所に半透明の布を下げ、その奥から飛ぶ鳥たちのシルエットを投影しつつ、布の向こう側で霧を発生させます。 布の隙間から漏れる霧にうっすら包まれつつ、まるで雲の上を飛ぶ鳥を太陽に向かって逆光で見ているよう。 最後に布が取り払らわれ、鳥のシルエットが消え、濃い霧が迫ってくると、そんな飛ぶ鳥たちを追い越して、雲に飛び込んだようにも。 再現的な意味合いのものを除けばビデオプロジェクションと霧を組み合わせたインスタレーションは初めてでしたが、 淡々としつつもダイナミックな展開を体験できました。 一方の屋外のインスタレーションは、普段は噴水の所で霧を発生させていたので、噴水のバリエーションにも感じられてしまいました。 ただし、17時以降は 逢坂 卓郎 [鑑賞メモ] によるライトアップをやっているとのことだったので、 それを観ていたら、また印象も変わったかもしれません。

資料展示は、最初に手かげたペプシ館「霧の彫刻」プロジェクトに関するものは、 水を実際の霧と同じ粒子サイズにするノズルの開発や、ペプシ館の霧システムの配置や制御に関する資料もあり、興味深く楽しめました。 昔は 父 宇吉郎 との関係を語ることはあまり無かったような気がするのですが、 この展示では、この霧のプロジェクトをE.T.A.に任された理由の一つとして、父の関係で研究者との人脈があったことが挙げられていました。 また、霧のノズルを開発したのは Mee 社で その技術は MeeFog というシステムとして実用されていることを知ったり。 しかし、霧のインスタレーションの様子を捉えた映像を上映したものを見ても、実際のインスタレーションの印象で霞んでしまいます。

インターネット以前のまだ国際データ通信が高価で一般的ではなかった1980年代初頭に、 テレックスを使って理想主義的な意見交換したプロジェクト『情報彫刻 ユートピアQ&A』や、 1980年代から1990年代前半に原宿にあった『ビデオギャラリーSCAN』 (実はリアルタイムで知っている) の活動記録なども展示もありました。 当時の技術レベルからすれば先駆的な試みといえばそうですが、その時代の技術への依存度の高さに、少々、時代の徒花的なものを感じてしまいました。