Alfred Hitchcok の1964年の映画、というか原作の1961年の小説に基づく新作オペラです。 Post-classical というか indie/alternative の文脈での共演も多い Nico Muhly の作曲という興味もあって、 Met Opera live in HD で観てきました。 舞台は1950年代のイギリス。トラウマとなるような過去を抱え盗癖を持つ女性 Marnie と、 盗癖を持つと知りつつその弱みを握って彼女と結婚する同族会社の社長 Mark Rutland の 二人を軸に展開する心理サスペンス劇です。 現代的でかつ分かりやすい演出と音楽で、現代オペラを見てるような感も無い作品でした。 もう少し抽象度の高い演出と音楽の方が好みですが、主演の良さもあって、楽しめました。
演出家の Michael Mayer をはじめとするする Broadway で活躍しているチームによるプロダクションということで、 音楽のスタイル、特に唱法以外はミュージカルを思わせるもの。 それでもオペラにしたのは、 音楽的に明朗なミュージカルよりも不協和音多目のオペラの方が、 音楽のスタイルとして心理サスペンスに向いていた、ということでしょうか。 Nico Muhly の音楽は、歌いやすいリズムやメロディの歌を付けるわけではないものの、 Minimal Music の影響を強く感じる反復フレーズをあちこちに散りばめるような post-Minimal な作風で、取っつきやすいものでした。
原作の小説を読んでおらず、Hitchcock の映画も観ておらず、小説や映画との違いはわかりませんが、 オペラ化にあたり物語をわかりやすく整理したのか、 サスペンス的な面が薄れて、特に後半、オペラによくあるファム・ファタール物、 Marnie を巡るメロドラマっぽく感じてしまう事も少なからずありました。
演出面で少々気になったのが、 Marnie 役を mezzosoprano 歌手 (Isabel Leonard) に加えて churus 4人の5人1役としていたこと。 複数人1役というのはマイム劇などでよく使われますが [関連する鑑賞メモ]、 mezzosoprano と chorus のヒエラルキーが明確過ぎて、単なる影のように感じられてしまいました。 歌の役割も入れ替わるくらいのことがあるとスリリングになったのではないかと思いつつも、 そんなことをしたらオペラの約束事から外れ過ぎになるのかもしれないと思ったりもしました。
主役 Marnie を演じた mezzosoprano の Isabel Leonard は、 ファッションモデルとまではいかないもののハリウッド映画女優を思わせるオペラ歌手らしからぬ体型 と美貌で、 ミッドセンチュリー・モダンなハイファッションのデザインに基づく衣装を早替えで変えていくのに目を奪われました。 衣装替え15回という回数、一回1分以下という早さも含めて、実はこのオペラの一番の見所かもしれません。 初演は English National Opera ですが、Metropolitan Opera による委嘱で、 Metropolitan Opera でのキャストがオリジナルとなるとのこと。 そういう点でも Isabel Leonard のために作られたようなオペラでした。
2016/17シーズンの L'Amour de Loin [鑑賞メモ]、 2017/18シーズンの The Exterminating Angel [鑑賞メモ]、 そして、この Marnie と、 ここ3年、Met Opera live in HD は新作もしくはそれに近いオペラをプログラムの中に1本、必ずように入れてきています。 有名な古典的作品と比べて集客は厳しそうですが、Met Opera live in HD のプログラムの中でも楽しみな一本です。