東京都写真美術館の今年のコレクション展のテーマは「イメージを読む」。 その第一期にあたる「場所をめぐる4つの物語」では、「場所」をテーマに4人の作家のシリーズ写真を取り上げていました。 典型的なフォトエッセーからコンセプチャルな写真まで、典型的なナラティブな作風とは違う視点を感じました。 W. Eugene Smith は Country Doctor は Life 誌掲載時のフォト・エッセーの形式を再現するような構成で、 美術館でこのように観るのは少々新鮮でした。
しかし、この中ではコンセプチャルな作風の 山崎 博 [過去の鑑賞メモ] の『10 POINTS HELIOGRAPHY』が最も気に入りました。 長時間露光で軌跡を捉えた 山崎 の代表的な Heliography シリーズの中の20枚組の作品で、 1982年9月13,14日の2日の夕方、調布近辺の多摩川を挟む10地点から同時に日没する約30分の太陽の軌跡を捉えています。 10地点で同時に長時間露光した写真は、太陽の軌跡を捉えた作品のようで、むしろ黒く浮かび上がった地上の建物や構造物のシルエットの差異が際立ちますし、 二日続けて撮ったものが向かい合わせで対比されることで、撮影日による天気というか雲の出具合の差異も浮かび上がります。 そんな時空がうっすら浮かび上がる感が面白く感じました。 関連資料として作品構想のための書き込みのある地図も展示されていたのですが、 開かれていた場所が都心寄りで実際の撮影場所と合っていなかったように見えたのが、少々気になりました。
解体中の近代建築を捉えた『建築の黙示録』シリーズ (1983-) や、阪神大震災直後の神戸の写真、 解体前の香港九龍城を捉えた『九龍城砦』シリ-ズ (1987-1993) などで知られる写真家 宮本 隆司 の個展です。 グループ展で観ることは度々ありましたが、これだけの規模の個展を観るのは久しぶりです。 廃墟的なイメージの都市を捉えた写真が多い写真家ですが、 そんなイメージとは異なる写真をあえて集めたかのような展覧会でした。
通常は出口の側から入って入口から出るという順路で、前半は「都市をめぐって」、後半は「共同体としてのシマ」という構成でした。 前半で最も数が多かったのは、経済発展する前の1980sから1990s初頭のアジアの雑然とした街を白黒で捉えた『東方の市』シリーズ (1984-1992)。 初めて観たように思いますが、廃墟的ではないですが都市の活気を捉えるというのも異なるもので、こんな写真も撮っていたのかと。 しかし、最も印象に残ったのは、ネパールの城塞都市 Lo Manthang を撮影した 『ロー・マンタン』 (Lo Manthang) シリーズ (1996)。 廃墟というより迷宮ですが、視界を塞ぐような壁というより、奥に誘うような構図が多く [関連する鑑賞メモ]、そこに『九龍城砦』と共通するものを感じました。 2000年代以降ピンホール写真の作品が増えるわけですが、 スカイツリーや電柱を撮った縦長ピンホール写真シリーズ『塔と柱』も以前に観たものより大判 (1036 mm × 約 320 mm) で、 その暗くてピントの甘い質感も含めて楽しめました。
両親出身の鹿児島県奄美地方の徳之島で、宮本は2014年に「徳之島アートプロジェクト2014」を企画しそれ、 それ以降、ルーツである徳之島についての作品を制作・発表してきているとのこと。 後半はそんな作品を集めた展示になっていました。 整然と直線的に展示された前半に対し、空間を広く取りインスタレーション的に配置された構成、 人物の存在感の薄い前半に対して、人物ポートレイト中心の後半、白黒もしくは彩度の低い前半に対して、明るい色彩が中心の後半、と 都市と自然の多い離島というテーマの違いが形式の違いとして明示されていました。 ちゃんとフォローしていなかったのですが、最近はこんな試みをしていたのですね。 畠山 直哉 が東日本大震災後に故郷の陸前高田の作品を作り出した、ということを連想しました。 この展示もそういう今の時代の雰囲気の表れなのかもしれません。